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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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葬儀屋のお別れ会

 店に戻ってディオスが何かを思い出してモルテに尋ねた。

「そういえば店長、ここはどうするんてすか?」

 向かいの新店舗に引っ越すとなれば今の店をどうするのか分からない。

 ディオスの言葉を聞いたモルテが腕を組んだ。

「貸家にでもしようと思っている。その為にはここを改めて建て直すつもりだ」

「また大胆な……」

 モルテの方針にディオスが驚いて僅かばかり引いてしまった。

 それよりも、どこからその資金が出るのか不明である。新しく買った店の金額が少なくないことを考えると建て直しに回せる資金は少ない筈なのに可能なのはどうなのかと疑問に思う。

(あ、でも、だからカウンターを直さなかったんだ)

 二ヶ月前にモルテが壊したカウンターを直さなかったのは引っ越しと建て直しをするから不要であったのだとディオスは気がついた。


 店に戻ってからまだそわそわしているミクが僅かばかり高い声でモルテに尋ねた。

「それで、これからどうするの?」

「明日引っ越すからな。可能ならば今の内にまとめられるものがあるようならまとめておいてくれ」

「明日って、はやっ!」

 ミクの言葉にモルテが言った言葉を聞かされたディオスが驚いた。

「それと、ここのお別れ会でもしよう。ファズマ、任せたぞ」

「はい」

 何故かテンポよく今後の方針が決まってしまった。

「それでは残り僅かな仕事に取りかかってくれ」

 そう言うとモルテは店の奥へと向かったのだった。


  * * *


 その日の夜。葬儀屋フネーラでは今までお世話になった店へのお別れ会が行われていた。

「思えばここに長くいたものだ」

 テーブルの並べられた数々の料理をモルテがここに来てからのことを思い浮かべながら食べていた。

「思えば何であれほどほったらかしにしていたのか気になります」

 モルテと同じ位に店にいるファズマも当初の頃を思い出して呟いた。

「ねえ師匠、ここって本当にボロボロだったの?」

 二人が思い出に浸かりながら呟く言葉にミクが興味を持って尋ねた。

「そうだ。訪れた時は言葉を失ったぞ」

「むしろ、よくもあそこまで放置していられたなって思うくらいにな」

「歳が歳というのもあるだろうがネストレがいたのに直そうとしないのは放浪をしていた身としてはもったいないことをしているように思える」

 話はいつの間にか先代店長へと移っていた。

「ですが、店内だけは良かったはずです」

「ああ。恐らく自分の身については疎かだったのだろう。まったく、もったいない」

「流石に雨漏りや扉の付け具合の不具合に軋む床……一体いくつあったんだか」

「はぁ……」

 二人の話からよほど改築前が酷かったことが伺えることが出来、ディオスが何処となく上の空で呟いた。


「まあ、次の店ではその様なことがないから安心出来る。それに、ミクにとっても悪いことではない」

「え?どういうこと?」

 いきなりモルテに話を振られたミクは首を傾げた。

「前に言っていただろう。友を呼びたいと」

「あ……」

「ここでは容易に仕事場に入れるから無理であったが、これからは鍵をかけて入れないようになる。友を呼んでも問題はない」

「本当に!」

「ああ」

「呼んでいいの?」

「もちろんだ」

「やったー!」

 モルテの言葉にミクが飛び上がらんばかりに喜んだ。

 友達と遊ぶ楽しさを再認識したミクは内心で店に呼べないことを申し訳なく思っていたのだが、これからはそういった気もせずに気兼ねなく友達を呼ぶことが出来るのだ。

「ただし、騒がしくなったり仕事の邪魔になることは駄目だ。忙しい時にはミクにも手伝ってもらう」

「うん!いいよ!」

 一応釘を刺したモルテであるが、ミクはそれをあっさりと受け入れてしまった。

「分かっているんだか?」

 そのミクの様子に若干心配になったファズマはすぐに表情を引き締めた。

「それで店長、手続きの方は?」

「ああ。店の移転手続きはしておいた。引っ越しのこともレナードに教えておいた。後は自然に広まるだろう」

「そうですか」

 少しだけ気になっていたことをモルテが既にしていたのを聞かされたファズマは肩の力を抜いた。

「今日は最後の夕飯をここで食べるのだ。その様なことは気にせずに食べろ」

 そう言ってモルテはまた料理を皿に盛って食べ始めた。


「それにしても引っ越しか……」

「何だディオス?」

「いや、思ってみればここに住んでからそんなに経っていないのに結構いたような気がしたから」

「ああ、なるほどな」

 葬儀屋フネーラでの出来事はディオスに十分と長い時間いたと思わせるものであった。

(少しだけ寂しいなんて言えないな)

 ここを離れることに少しだけ寂しさを感じてしまうがあえて口には出さないでおくことにした。

 ここで言ってしまったらせっかくの賑やかなお別れ会が暗くなってしまう。

 それに、これは予想でしかないが皆も内心では楽しみ半分、寂しさ半分と思う。その寂しさを表に出さないように最後に過ごす今を楽しんでいるのではないかと思う。

 一番いる時間が短い自分が何を思っているのだとディオスは頭を振って、料理を口にした。

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