葬儀屋の閉店理由
モルテの口から言い出された衝撃の言葉は大いに慌てさせるものであった。
「店長、どういうことだよそれ!」
「ファズ、言葉おかしいよ!」
「まさか、何かよくないことをしていたんですか?だから店を閉めないといけない……」
「それはない」
珍しく口調を直さずに話すファズマよりも一体何を予想したのかあり得ないことを言い出したディオスにモルテが呆れながら否定した。
「だったらなんだって閉店なんですか?」
「そうだ!」
「ファズ、言葉!」
「……そう、です!ここが潰れたら俺は飢え死になります!」
「何を言って……」
「俺だってまた新しい仕事を探さないといけなくなります!」
「話を聞かんか……」
「師匠どうしちゃったの?お店なくなっちゃったら学園に行けなくなっちゃうの?」
「そうです!俺だって仕送りの為に働いているのにここがなくなったら……」
「ええい、話を聞かんか!!」
何を誤解しているのか店の心配よりも自身の今の心配をしている三人にモルテが珍しく声を上げて制した。
「誰が完全に店を閉店すると言った?私は閉店するとしか言っていない」
「同じことだろ!……です!」
モルテの言葉にどこが違うのかとファズマが突っ込んだ。
「それに、閉店するからと言えば店のことよりも己のこと。聞いていて恥ずかしい!」
「店があるから今の俺達があるんだ!」
そうファズマに言われてしまいモルテは言い返せなくなった。
店のことよりも自身のことを恥ずかしいと思っていたがそれは店があるからであると認識を改めた。店があるから今の生活がある。切っても切り離せない現状がここにあるのにそれを恥ずかしいと思っていた自分を恨めしく思う。
「えっと、本当に閉店しないのなら何をしようとしているんですか?」
モルテの意味不明な言葉を疑問に思いディオスが尋ねた。
その質問にモルテは先程思っていたことを顔に出さないように目的を言った。
「ふむ、引っ越しだ」
「引っ越し?」
予想していなかった言葉に三人は顔を見合わせた。
「どうして引っ越しを……」
「ああ、そういうことか!」
「ファズ?」
引っ越しをする理由に心当たりがついたファズマにディオスとミクが。怪訝な顔を向けた。
「店長、ようやくですか!」
「そうだ。折るのに苦労をしたぞ」
「よし!」
そんな二人を知ってか知らずか、引っ越しに喜ぶファズマ。
「ねえ、どうして喜んでるの?」
「それよりも、どうして引っ越しをするんですか?」
「ふむ。結論を言ってしまえば、この店は外見に反してもう長くは持たんのだ」
「え?」
分からないディオスとミクに現在の店の状況を伝えると、またも怪訝な顔を向けてくる。
「それ、どういうことですか?」
「元々この店は店長が引き継いだ時におんぼろだったんだ」
「それを私とファズマ。そして、ヒース達とで補強と今の外装にしたのだ」
「だがなぁ、元がおんぼろだったから長く持たねえのが分かってたんだ」
「そんなことが」
昔の葬儀屋フネーラの店舗状況を思い出しながら話すモルテとファズマに軽い驚きを浮かべるディオス。
「ねえねえ、もしかして、時々雨漏りがしてたのもお店が古いから?」
「そうだ」
「前に廊下を歩いてたら床が外れたのは?」
「それは知らん」
「え!?」
ミクの質問に予想外の返しをしたモルテにディオスの目を見開いた。
「ミク、それいつのこと?」
「えっと、ここに来た時かな?あ、あとね、知らないおじさん達が穴に落ちてたり天井にぶら下がってたりしてたんだよ」
「何だよそれ!?」
「それはファズマ達がやったイタズラだな」
「何やっているんだよファズマ!!」
「うっせ!それがあったんだから俺らが無事だったんだからいいだろうが!」
「何があったか知らないし、よくない!」
葬儀屋フネーラの衝撃的過去に驚いたディオスが叫んで突っ込みを繰り返した。
そもそも、落とし穴と言ったものはイタズラではなく罠なのではと思っているのは口にして言わないようにしておく。
それに、まだ罠があるのではないかと不安に思う。
「安心しろ。そのイタズラはその時に入ってきた者達全てが引っ掛かってくれたことで今はどこにもない。イタズラによって壊れた所はファズマ達に責任持って直させたからな」
ディオスの気持ちを読み取ってかモルテが心配ないと言うが、その目線がファズマに冷たく向けられていた。
その視線をファズマが知らないと視界から懸命に反らしていた。
「さて、話を戻すが、いくら直しても長く持たないことが知っていたのでな。時期を見計らい改築か引っ越しを考えていたのだ。もっとも、改築をするにも店を一時休業にさせて引っ越しをしなければならなくてな。だから引っ越しを決めたのだ」
「そうだったんですか」
葬儀屋の存在理由を考えればモルテが出した答は適切であるように思える。
「ですが、どこに引っ越しなのですか?」
「師匠、引っ越しちゃったらここはどうするの?」
「ふむ、その質問は一つづつ答えよう」
そう言ってモルテは三人に背を向けると店の窓を開けた。
「新たな店は向かいだ」
「は?」
モルテの言葉に三人は急いで窓から向かいを見た。
「師匠……」
「向かいって言ったら……」
「あの建物は……」
向かいの建物。それは数ヵ月前にモルテに復讐を企み葬儀屋フネーラを潰そうとしていたノイザック一味が開業していた葬儀屋リナシータの店舗跡であった。
「店長、まさかあれが!?」
「そうだ。あの後に何度か見たのだがな、内装や部屋の間取りを僅かばかり変えれば住めそうだったのでな。あそこを預かっている者と大いに揉めたが安い金で買い取れたのだよ」
「大胆な……」
思いきった行動に移ったモルテに三人は驚きっぱなしである。
「そこでだ。今から見てみたいと思わないか」
「え?」
驚く三人をよそにモルテの手には合鍵があった。
それを見てミクが渋った。
「だけど師匠、あそこは……」
「今なら一人部屋が付くぞ」
「行く!」
まさかの目の前に出された獲物に釣られたミクにディオスとファズマが目を丸くした。
「ミク……」
「呆気ねえな……」
「それと、キッチンの調理場も豊富になったはずだ」
「行きます!」
「ちょっ!?」
まさかファズマも釣られると思っていなかったディオスが驚いて声を上げた。
そもそも、渋ってもいないファズマをキッチンで釣り上げたのはどうしてなのかと疑問に思う。
「そして……」
「いいです、行きます。興味があるから行きます!」
「何だ、面白くない」
モルテが何を言う前にディオスが行くことを早口で伝えた。
その反応にモルテは少しだけ不満を抱いたがすぐに持ち直した。
「それでは行こう」
「は~い」
ミクの元気な返事を合図に新店舗へと向かった。




