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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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閑話 弁当

やっぱり葬儀屋フネーラは何かしらの影響を与えるんだなと思いました。

「お弁当作って!」

「は?」

 ミクの口から出た言葉にファズマが顔をしかめた。

 と言うのも、ファズマがミクに学園はどうだったのか尋ねた返答である。

「理由は?」

「美味しくない」

「具体的には?」

「味が薄い」

 地味に切実な、だが、大きな問題にファズマは頭を抱えた。


「弁当、な……」

「うん。皆ね、お弁当なんだ」

 ミクの言葉にファズマは少しだけ嬉しく思った。

 自分から友達と手を切ったミクが改めて誰かと関わり合い、話していることが喜ばしい。

(俺の場合は選ばねえといけねかったからな)

 対してファズマはスラム時代において人を見て関わる相手を選んでいた。そうしなければ自分の身を守れないし、自滅させられる恐れがあったからだ。

 そうなると、今のミクは無邪気に関わり合えるのが幸せなのかもしれない。


 しかし、そんな気持ちも僅かな気のそらしで一瞬にして消えてしまった。

「そうそう、ユリシアもね、お弁当なんだよ!」

「は?」

 ミクの言葉にファズマは怖い表情をディオスに向けた。

「おいディオス、俺聞いてねえんだが?」

「な、何!?」

 ファズマとミクが話す別の場所で本を読んでいたディオスがファズマの表情と相まって状況が読めず戸惑う。

「ユリシアが弁当って聞いてねえんだが!」

「まだ続けていたんだ。借金してた時に少しでも節約をしないといけなかったから母さんが作っていたんだ」

 出費をいかに少なくするかの工夫である。

 とは言っても当時は殆どパンだけ。少し豪華だとサンドイッチであった。もう借金がないのだから弁当でなくてもいいのではと頭の片隅で思ったが、どんな弁当なのか気になった。


「なるほどな。それじゃ、ミクはどんな弁当がいいんだ?」

 ユリシアが何故弁当を持って行っているか理解したファズマは改めてミクが希望する弁当を尋ねた。

「えっとね、ミートボールのトマト煮と……」

「無理だ」

「えぇぇぇぇ!どうして!」

「んな水出るもん言ってどうすんだ!」

 ミクの口から出たまさかの名前にファズマが大袈裟に拒絶をした。

 ファズマとしては精々がサンドイッチくらいだろうと思っていた。あとは豪華に固く焼いたオムレツかチーズ。それが口を開けたら煮込みである。作るのに時間がかかるだけで作れない訳ではない。


 では、何が駄目なのか。答えは持ち運びである。

 普通弁当と呼ばれるものは食品を入れていく袋に入れて持ち運ぶ。煮込みならボウルで運んだり出来る。これは市場の惣菜を売っている所でやるから違和感はないが学園である。買ってすぐに食べる訳ではない。

 そう言った理由も含めて駄目出しをしたのだ。


「だって、カフェテリアのお昼ご飯ね、味薄いのに量多いし高いの!」

「そりゃ学園だからか?」

「高いって知ってたけどそんなに?」

「うん。これ!」

 そして、右手の五本の指を全て開いた。

 それを見たディオスとファズマは同時に思った。

(高い!)

 学園を抜きにしてもこの金額はない。いや、ミクのように幼い子も通っている筈なのにそれを配慮した金額ではない。

「だからファズ、一杯作って!」

 カフェテリアのお昼に負けないお昼を希望するミクだが、ファズマの表情は優れない。

「サンドイッチくらいならなんとかなるが、おかずはな……」

 複数のおかずを持ち運ぶ手だてがないことにファズマは頭を悩ませた。

 既に弁当を作る作らない以前に不味いのに高いもの食わせるよりならこっちで上手いもの作って食わせるという気持ちである。


「方法はあるぞ」

「え?」

「え!?」

「はあ!?」

 突然、モルテが会話に参加をしてきて、出た言葉に三人が驚いた。

「師匠、本当に!」

「昔、貰った物が倉庫にしまわれている」

 そして、モルテはすぐさま倉庫へ向かい、すぐに何かを持って戻って来た。

 モルテが持つものを見た三人は、

「これ何?」

「何だろう?」

「店長、これは?」

 と何に使うものか分からなかったのだった。


「弁当箱だ」

「ベントーバコ?」

 初めての言葉に初めて目にする物に三人の目が点になる。

 弁当箱は入れ物と蓋の組み合わせで四角い形をしている。さらには黒光りな光沢をしている。

「ふむ。これにおかずを入れればいい。上手く入れられれば多く入る」

「すごい!」

 弁当箱の凄さにミクが目を輝かせる。

「あの、これっておかず以外も入るんですか?」

「ふむ……何かが漏れるような作りでないから大丈夫だろう。向こうでは米を入れていたがパンもいいだろう」

「万能過ぎませんか?」

 むしろ、布に入れて運ぶやり方が限定的過ぎるのだと気づかされた。

「そうなると、見た目……入れ方も工夫が必要か……どうやって入れるか……」

「明日は私が入れよう。昔何度かしたことがある。ファズマは料理を頼む」

「分かりました」

 弁当箱の使い方のイメージが湧かないファズマに代わりにモルテが弁当箱におかずを詰めることとなった。



 そして、弁当箱は学園のみならずアシュミスト全体に衝撃を与えたのだ。

 弁当と言ったらパンかサンドイッチを布の袋に入れて持ち運ぶもの。それが弁当箱なら箱に好きなものを入れられるだけ入れられると噂や流行に敏感な者達が欲しくなって探し回ったのだ。

 それに気がついた雑貨店が早急に職人に依頼をして作らせ、売り始めるとあっという間に売り切れたのである。

 さらに、弁当箱の使い勝手のよさに気がついた総菜を扱う店が惣菜を入れた弁当を作って売り出したところ、爆発的に売れたのである。

 これに危機感を感じたのが弁当を持たない者達が昼食に訪れるレストランやカフェといった飲食店である。

 来客の減少を防ぐ為に味の見直しに工夫。それから値段の確認と色々なことをしていった結果、すぐに出来上がって回転率が良くなる日替わり定食が生み出されて各飲食店で始めたのである。

 こうして、アシュミストの昼食はシュミランの昼食事情を変えたのであった。

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