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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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閑話 道具屋息子

本当はミクが学園へ行ってその時の話のはずが何故かこんなことに……

 この日、ミクが初めて学園へと行く。

「ねえねえ、ど~お?」

「何だミク?エノテカーナで見せただろ」

「それは別!ねえねえ、どお?」

「どおって、いいんじゃねえか?」

「ファズ適当すぎる!」

 クルクルと回って制服姿がどうかと尋ねるミクにファズマが素っ気ない答えを返した。

「ディオはどう?」

「え?俺!?いいと思うよ?」

「……ディオも適当……」

「え?」

 突然ミクに話を振られたディオスは慌てて答えた。

 その答えにファズマと同じこことものすごく期待をしていたミクが意気消沈とした。


「そういやミク、ディオスにもう言わねえのか?」

「うん」

 そう言えばとファズマが何となく聞くと、ミクがあっさりと頷いた。

 ここ最近、ミクはディオスにお兄さんと付けて呼ばなくなった。

 自立の一歩か、はたまた呼び方に飽きたのか分からないが、呼ばれなくなったことにディオスは内心でショックだったりする。

「準備はいいかミク?」

「あ、師匠!」

 モルテの呼び方については変わっていないが。

「ねえねえ、どお?」

「ふむ、似合っているぞ」

「やった!」

 頭を撫でられて制服姿が似合うと言われたミクは大喜びである。


 今日は初日と言うこともありモルテがミクと共に学園へと行くこととなっている。

「そろそろ行くぞ」

「は~い」

 ミクの手を引いて店内へと向かうモルテの後をディオスとファズマが付く。

 後ろから二人の様子を見るディオスは少し微笑ましく思って表情が緩んでしまう。

 ファズマに至ってはこの光景が懐かしく思っている。

 店内に出ると、無惨に真っ二つに割れたカウンターの代わりに置かれたテーブルを回って、モルテとミクが振り返った。

「それでは行ってくる」

「はい」

 行くことを伝えて店から出るために再び振り返った時、閉めた筈の奥の扉が開いた。


「良かった、間に合ったか!」

「道具屋さん!?」

 何故か道具屋が慌てた様子で店の奥から現れたのだ。

 それだけならまだいい。

「ども、初めまして。おはようございます」

「誰だ?」

 道具屋の後ろから一人の若い男が現れたのだ。

「俺の息子だ」

「えぇぇ!!」

 道具屋の発言にディオスが驚いて声を上げた。もちろん、ファズマもミクも驚いて声を上げたのだが、ディオスの声にかき消された。

「親父の言った通りすっごい反応!」

 一方で道具屋の息子はディオスの反応に笑った。

「とりあえず挨拶を。道具屋息子ッス!一先ずこれてでよろしく!」

「一先ずって……」

 道具屋息子のバッサリとした自己紹介にディオスとファズマが呆れた眼差しを浮かべた。

「本当の名前言わないの?」

「ああ、親父が一先ずこれでいけって言ったから一応な」

「ふ~ん」

 本名を言わない道具屋息子にミクが尋ねると、どうやら道具屋がこれでと言ったようで納得した。


「それで、何用だ?」

 道具屋息子の登場ですっかり忘れ去られていたが、モルテは道具屋に店に訪れた理由を尋ねた。

「鍵をもらいにな。そろそろ検討をつけたくてな」

「鍵?」

 道具屋の口から出た言葉にディオスは疑問符を浮かべた。

 それとは別にモルテはポケットから鍵を一つ取り出した。

「私はこれから出掛ける。終わったらファズマかディオスに渡しておいてくれ」

「おうよ」

 モルテから受け取った鍵を道具屋はしっかりと握りしめた。

 そして、その鍵を覗いていた道具屋息子がポツリと呟いた。

「おとぎ話なんかに出てくる鍵みたいだな」

「これがここの普通だからな」

 目を輝かせて鍵を見る道具屋息子は何故か興奮ぎみであった。


「付いて来てよかったな本当!」

「何だ今さら?」

「だって、すげぇじゃん!まさかい……」

「バカ息子ぉぉ!」

「ふごっ!?」

 興奮して話す道具屋息子に突然道具屋が頭を思いっきり叩きつけた。

「え!?何あれ!?」

 突然の行動に驚いたディオスがまた叫んだ。

「バカか!何口滑らせかけてんだ!」

「え?……あ!ごめんごめん!」

「謝って済むなら警察要らねえだろうが!」

 突然の説教に着いていけないディオス。もちろんファズマもミクも道具屋が何故起こっているのか分からずその様子を無言で見ていた。

 ただ、事情を知っているモルテは無言で道具屋息子を睨み付けていた。

「だけどさ、それを抜きにしてもよ親父……」

「話し反らすなバカ息子!」

「バカ余計だ!つうか話させろ!こんな美人の所に卸すってどうなんだ?」

「は?」

 また突然。本当に今度こそ不意打ちと言っていい言葉にモルテも道具屋も、全員が驚いて目が点になる。

「ちょっ、え?」

「はぁ!?」

「おい、何でモルテが女だって分かった?」

 一度もモルテが女と教えていない道具屋は道具屋息子に初めて会った筈なのに何故性別が分かったのかと慌てて尋ねた。

「え?見れば分かるじゃないか」

「分かるか!」

 何をと、当然の様に言う道具屋息子に道具屋が鋭く突っ込んだ。その言葉にモルテ以外の三人がうんうんと首を縦に振った。

「おい……」

 その時、モルテがたった一言だけ声をかけると無言で道具屋息子へと近づいた。

 そして、目の前で立ち止まると不敵な笑みを浮かべた。そして、

「余計なことを言うものではない!」

 瞬時に女とバレたのが気にくわなかったのか、何故か相当起こっているモルテは道具屋息子を抱えあげるとそのまま放り投げた。


 丁度その時、店のドアが呼び鈴を鳴らして開いた。

「おはようございます!」

 いつもの様に鳥の被り物を被った郵便配達のマオクラフが店内へと入って……

「ぐへぇ!」

「ふがぁっ!?」

 投げ飛ばされた道具屋息子共々、店内の床に上半身を埋めた。

「おいぃぃぃぃ!!」

「えぇぇぇぇ!?」

 突然の出来事に加えて巻き込まれたマオクラフの姿。思わずディオスが叫んでしまったがその前に道具屋が非難の叫びをモルテに向けた。

「何をやっているんだ!」

「見破られたのが気に入らん!」

「おい!」

 やった理由ともう一つの理由を感じ取ってまた叫ぶ道具屋は埋まっている道具屋息子へと近づくと、ぐっと足を引っ張った。

「ちょっ、痛い痛い!」

「我慢しろ!」

「うえぇぇぇ!?」

 バタバタと足を動かす道具屋息子に一喝をしながら何とか引っこ抜こうと努力をする道具屋。

 その様子を見てふと、ディオスは何かに引っ掛かった。

 正確には隣に埋まっているマオクラフにである。マオクラフが店へ訪れたこと。それはつまり……

「ああーー!!」

「急に何だディオス?」

 突然叫んだディオスに近くにいたファズマが少しだけ怒りがこもった声で睨み付けた。

 だが、それに気づかずディオスはモルテに慌てて話した。

「店長、時間!」

 ディオスが言った言葉に全員が当初の目的を思い出した。

 道具屋親子が来た為にすっかり忘れてしまっていたが本当なら既に学園へと出掛けている筈である。

 行くと言ってから時間が流れすぎている。

 今から出たとしても到底時間に間に合わない。

「仕方がない。ミク、今日は特別だ」

「うん!」

 だが、そんな心配などしていないとモルテは何事もないようにミクの手を引いて外へ出ると、あっという間に姿を消した。

「へ?」

「ああ、領域使って行ったな……」

 突然消えたことに驚くディオスとは対照にその理由を理解したファズマ。

 確かに領域なら公共交通機関を使っても間に合わない時間に間に合わせることが出来る。


「さてと」

 モルテとミクが学園へ向かったのを認識すると、ファズマは改めて埋まっているマオクラフと道具屋親子に目を向けた。

「まずはあれからだな。これにはコツがいるんです。手伝います」

「おお、ありがてえ」

 とにかく道具屋息子の救出が先だと道具屋に手を貸すファズマ。

 その言葉に我に帰ったディオスも手伝いへと加わる。


「あれ?俺は?」

 一方で、同じく埋まっているのに何故か後回しにされたマオクラフが自身の存在をアピールする。

「あの、俺は?俺は?」

 早く助けてと言わんばかりに叫ぶマオクラフはファズマから制裁が落とされるまで叫んだのであった。

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