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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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閑話 憐れな復讐者達

過去話です。

 アシュミスト大虐殺。

 それは今から6年前に一人の男がアシュミスト全域で行った大量虐殺のことである。

 12日間行われた大虐殺は一人のアシュミストの住人が男を殺したことで終結した。

 だが、この事件によりアシュミストは大混乱に陥った。


 住人はこの事件に対して当時のアシュミスト統治議会とアシュミスト警察が適切な対応、並びに対策をしなかったと批判をした。

 対応に追われる両者だが、さらに追い討ちをかけたのが、この事件を知った首都政府と警察庁の加入であった。

 互いに一大事であると捉えていた為にアシュミストがどの様な対応を取っていたのか調査を行うと、有権者並びに有力者の不正が数々明らかとなった。さらには(シュミラン)が推し進める政策を半分も行っていないことが明らかとなった。

 この調査に不服と怒りを覚えた加入者達は、当時のアシュミスト統治議会の議長と副議長を含む議員を追い出させる様に辞任をさせると警察に逮捕依頼を出して逮捕させた。警察も署長並びに一部の上層部を解任させると同時に逮捕されることとなった。

 アシュミスト住人はこの結果を両手を上げて大いに受け入れた。一部の人間を除いて。



 身なりだけは綺麗な真っ赤なコートを羽織った女性が寂れた店の隅で小さくなりながらお酒を飲んでいた。

「全く、どうして私がこんな落ちぶれた店で美味しくないお酒を飲まないといけないの!」

「落ち着いてください母様!」

 文句を言いながらゴクゴクと飲み干す勢いの女性の息子が止めに入ったがまるで聞き入れる様子がないのかまた酒が入ったジョッキに手を付けた。

「黙りなさい!」

 母に聞き入れいられず息子は溜め息を付いた。

 こんな様子を誰にも見せたくないし、自分達を取り巻く状況が最悪で隠れる為に寂れた店に身を寄せたはずが、母の大声で外にバレてしまいそうだとハラハラしてならない。

「そもそも、どうして私がこんな惨めにならなければならないの!あの方は街の為にと、私達家族の為にと人一倍頑張って下さったのに!それなのに、掌を返して引きずり落とすなんて!」


 この女性は前アシュミスト統治議会議長の夫人である。

 様々な責任を取らされる形で辞任をさせられた前議長の家族にもその仕打ちが回ったのである。

 前議長が財政を一部回した金で裕福に暮らしていた一家はそれを指摘されると財産共々没収され、彼女達にとって一文無しと言っていい状態で家を追い出された。

 それだけならまだ救いようがあったのだが、前議長の関係者と分かると周りが冷たい目で見て罵声をかけてくるしまつ。

 そうなっては身を守るので精一杯。なんとか人が寄り付きそうもない酒場にたどり着けたが、その頃には夫人の心は完全に壊れてしまっていた。


「そもそも、あいつが出てきてからおかしくなったのよ。そうよ!あいつのせいよ!」

 あいつとはこの混乱を利用して大々的に住人達を誘導してアシュミスト統治に異議を唱えている先駆者のことである。

 夫人も一年前からその話聞かされていたために知っている。そして、その人物こそが悪の根源であると決め付けた。


「殺さなければ気がすまない……」

「母様、それは……!」

「黙りなさい!」

 母の言葉に息子が慌てて止めに入るも聞く耳を持ってくれない。

「確か、あの方が故意にしていた組があったわね」

 もはや夫人の目は狂気に満ちていた。

 それを見た息子は何も言えず、何も聞き入れてくれない母に嫌気と自身の無力を嘆いた。

「さあ、行くわよ。今すぐに行くわよ!」

 まるで子供のように急かす夫人は息子に言うだけ言うと一人でさっさと店から出ていった。


 そして、狂気に満ちた夫人の言葉を言い値で買った組織は夫人が指名した人物の暗殺へと乗り出した。

 だが、対象者が思いの外強く、あっという間に全滅。

 そこから組織の存在と依頼者が連鎖的に発覚して逮捕されたのだった。


  * * *


「暗殺は不可能か……」

 同じように、復讐を考えている者がその結果を聞いて唇を噛み締めた。

「あれは急いたんだろう」

「だがな、それが1つじゃなく10や20やって失敗してるってこと知らねえのかねぇあいつら?」

「知っているやつと知らねえやつ、両者だろうな。前者に至っては自分ならと思って失敗しているんだから救いようがねえ」

「そっか」

 彼らは前署長により不正を見逃され、依頼によに不正の数々をおこなっていた組織の一つである。

 前署長が逮捕された際にその恩恵をもらっていた組織が殆ど潰されたのだが、彼らの組織は運良くその手から逃れたのであった。

 その彼らも、今回の出来事を誘導している人物には大いに恨んでいる。

 話によればアシュミスト統治議会に異議を唱えていた先駆者のようである。


「で、どうする?暗殺が駄目なら他に何ある?」

「あいつの不正を探るか噂を広めて追い出すしかないな」

「そりゃまた物騒だな」

 出された案に物騒と言うも、その目は笑っていた。

「それじゃ、両方やるか?」

「別にいいがあいつを探るなら少人数だ。下手に人数を多くして尻尾されて捕まったら洒落にならねえ」

「あいよ」

 そうして、担当を割り振って各々行動に移ったのであった。


 ありもしない噂を流すのは失敗に終わった。

 理由は先駆者に対してよろしくない印象を抱いていないこと。そして、心のそこから感謝をしており慕っているのだ。

 初めから噂が広まることがなかったのである。

 先駆者の周りを探っていた者達は警護をしていた物好きの警察、並びにスラム住人に捕らえられた。

 これによりスラム住人に良心的な者がいるとアシュミスト住人に知らしめることとなったのだ。


  * * *


「回りくでぇやり方してんなぁ」

 多くの者達が行った復讐がことごとく失敗しているのを聞いた男が吐き捨てる様に言った。

「暗殺は直球過ぎるし噂なんて広まるか分からねえもん頼ってどうすんだ?」

 男からしてみたらどれも面白味がないものばかりであった。

「それじゃどうするの?他の連中はあらかたやったみたいだけと?」

「まだあるだろう。一つな」

 眼鏡をかけた知的の女性が尋ねた言葉に男はギラギラと目を輝かせた。

「奴の所には子供がいるだろう?」

「ええ。二人居るわね。一人はスラム住人にもう一人は例の事件の生き残りね」

「そいつ等を捕まえて脅せばいいんだ」

「まあ!悪いこと!」

「うっせえ!」

 男の企みに女性は感情が籠っていない言葉を発した。


「具体的には?」

「痛め付ける様を見せて奴を苦しめる」

「まあ、痛々しいわね」

「そこから奴に止めさせたければと言って言うことを聞かせる」

「まるで悪の親玉ね」

「ここまではっきりと心もねえ言葉を言うお前もどうかと思うが?」

 淡々と語った企みに女性が表情を一切変えることなく感想を述べる様子に、逆に男の方がたじたじになってしまった。

「実行はいつで?」

「動ける奴が揃ったら話す。とにかく集めろ」

「分かりました」

 男に言われ、女性は一礼をして部屋から出て行った。



 男の企みは翌日の夜に行われた。

 幸いにして先駆者は留守にしており侵入場所には子供が二人だけという絶好のチャンスであった。

 チャンスに乗じて男達は内部へと足を踏み入れて―――

「ああ……なぁ~んかすっげぇ音したから見て見りゃ……」

 突然の大音に目を覚ました子供が見たものは、侵入してきた者達全てが無様に罠に引っ掛かって身動き出来ない様であった。


 何故罠が仕掛けられていたかというと、ここがまだ改修をしている時にイタズラに仕組んでいたのである。

 それが誰にも引っ掛かることなく忘れ去られていたのが、今回見事に全ての罠が作動をしたのである。


 その後、先駆者の帰宅により全員が縛り上げられ警察へと引き渡されて組織は壊滅したのだった。

 なお、罠は翌朝に全て撤去を行い、二度と罠を仕掛けられなくなったのであった。

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