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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
1章 新従業員採用
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職業案内所

 翌日。ディオスは早朝に職業案内所へと訪れていた。目的はもちろん、葬儀屋フネーラへの案内状をもらうためだ。


 モルテ達が帰った後、ディオスは母親であるシンシアと葬儀屋フネーラに勤めるかどうかの相談をした。

 葬儀屋フネーラの店長であるモルテから直々にディオスを雇うと言われたのだ。ディオスはこの申し出を常識はずれな出来事を除けば働き続けられる仕事と考え、自分に言い聞かせる事で納得しようとした。そもそも、家族に心配をかけまいと葬儀屋の常識はずれについて詳しい事は言っていないためにディオス以外は知らないでいる。

 では何故ディオスが葬儀屋フネーラで働けると考えているか。その理由はディオスが仕事を見つけて働く事がレオーネ家にとって最重要であることに変わりがないからだ。

 父親であったグランデォオが残した莫大な借金が解決しただけで家族の手持ち金は殆どない。現在の稼ぎはディオスの母親であるシンシアが働いた稼ぎだけ。今までギリギリの生活をしてきただけに余裕がある生活を望んでいた。それに裕福な生活を知っていた三人にはギリギリの生活がきつかったのだ。裕福とまでは言わないが懐に余裕がある生活を望んでいる為にディオスが働く事が求められていた。そこに飛び込んできたモルテの話に喜んだのだが、二人が相談する理由があった。正確にはディオスが困ってしまったからだ。

 モルテが出した条件、葬儀屋フネーラは住み込みであると言われたのだ。

 人は時間に関係なく死ぬ者であり、連絡が来ても店にいなければ困るから住み込みにしている。とモルテは説明をした。

 言われてしまえば納得してしまうのだがディオスには不安があった。家族と離れて勤めていいのかと。

 男は自分一人だけ、いない時に何かあっては困るし家族を守っていかなければならないという気持ちがあった。だが、仮に話を蹴ってしまえば働けなかった時と同じようにやりきれない気持ちを持ったまま仕事を探さなければならないことが分かっていた。

 家族を養う為に家を出るか、家族を守る為に話を蹴るか。ディオスは悩んでしまっていた。

「大丈夫よ」

 悩むディオスの背中を押したのは母であるシンシアだった。

「ディオ、あなたが私とユリを守ってくれていた事は知っているわ。ずっと怪我をしていたことも」

 シンシアは薄々だがディオスが怪我をしていた事を知っていた。それを聞いたディオスは驚いた表情を浮かべた。

 シンシアにいたっては親なのに怪我について言う事も守ってやる事も出来なかった事は親として最低であるとずっと考えていた。だが、困っている我が子の為に背中を押す事は出来、せめてもの償いと思っていた。家族として。

「ですがディオ、私達の為に自分の気持ちを我慢してはいけない。今度は私がディオとユリを守見守る番よ。ユリは私が守るから安心して。そして、ディオはディオ自身がやりたい事をやりなさい」

「ですが……」

「それに、ここから葬儀屋は少し離れているけれどけっして会えない場所にある訳じゃないわ。心配に思った時、何かあった時には必ず来れるわ」

 シンシアに言われてディオスは一体何を言っているのか分からなかったがすぐに言った言葉の意味を理解して顔を伏せた。

 ディオスは誤解をしていた。住み込みと聞いてもう会えないと思ってしまっていたのだ。どこか遠くに行ってしまうようなそんな感じに。だが、シンシアに言われて家と葬儀屋の距離が決して遠く離れているわけではないと気がついた。家族を守ろうとしているあまりに勘違いをしていたのだ。

「ありがとうございます」

 ディオスは顔を上げるとシンシアに感謝を述べた。その言葉にシンシアはディオスがどうしたいのか決めたと捉え、同時に寂しくも感じていた。

 こうしてディオスは葬儀屋フネーラで住み込みで働く事を決めた。


  * * *


 職業案内所に入ったディオスは周りを見回した。職業案内所には日雇い等を探す十数名の利用者がいた。その中で葬儀屋フネーラを紹介してくれた受付係を探した。確かクラウディアと言う人だったと思い出しながら。

「いた」

 しばらくしてディオスはその受付係を見つけた。幸いにして受付は空いていた。

「あの……」

「はい……あら、前に仕事を探してた……」

「はい、その節はありがとうございます」

 どうやらクラウディアはディオスを覚えていた様だ。その事にディオスは少し驚いたが内心でもしかしたら話が早く済むと思っていた。

「もしかして雇われなかった?」

「いえ、実は……」

「本当にあの店長はどうして新しい従業員を雇わないの?ファズマ君と二人で回していける訳ないのに!」

「あの……」

「そもそも他の葬儀屋もそうよ。従業員も雇わなければ日雇いもない。募集もしないって考えられない。この街でよく少人数で働けると思うわ」

「ですから……」

「しかも、こっちから勝手に……好意で案内状を送っているのに雇わないって言ってくるってどうなの?」

「葬儀屋フネーラの紹介状を改めて貰いに来たんです!」

「ええっ!?」

 クラウディアの口から聞き捨てならない言葉が次々と出てくる。ある程度はファズマから聞かされていたが改めて聞くと他の葬儀屋にも同じようにしているのかと言いたくなるが思っていた事に突っ込みを入れたくても追い付かない。それとは別に他にも葬儀屋があったのかと考えていた。そういえば、父親の葬儀を執り行った葬儀屋は葬儀屋フネーラとは別だったなと思い出しながら。

 何とか用件を言って現実に引き戻したディオスだがクラウディアが早口で尋ねた。

「それ本当に……ですか!?」

「本当です。フネーラの店長から紹介状を持ってきたら雇うと言われました」

 ディオスはクラウディアとの会話を少しやりにくく感じていた。薄々感じてはいたがクラウディアの態度が仕事の態度でない。数日前は完全に受付係とした言葉使いだったのだが今は砕けて話している。だがこの際指摘はしない事にした。今必要なのは葬儀屋フネーラへの紹介状を貰うこと。指摘をして下手したら長話に発展しそうな恐ろしさがあったからだ。

「やっとなのね。勝手に……好意で送り続けたかいはあった」

(だから、勝手に送るのは間違ってます)

 クラウディアの言葉に内心で突っ込むディオス。

「それじゃ、急いで紹介状書きます」

 やっと受付係としての行動と言葉になったクラウディア。言いながら紹介状にペンを走らせる。

「お名前をよろしいでしょうか?」

「はい。ディオス。ディオス・エンツォ=レオーネ」

 ディオスはやっと紹介状を貰える安堵と本当の名前で仕事に就ける事に喜びを感じていた。

ちなみに、勝手に紹介状を送る行動は職業案内所で働いている数名が行っている迷惑好意です。

おい職安、そんな行動しているやつがいるのに注意してるのか?してないだろ!

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