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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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閑話 行けなかった者

酒場に行けなかった人がその時に何をしてたかの話です。

「そっちはどうだ?」

「今裏とってます!」

「おせぇよ!何やってんだ!」

「もっと急げ!」

「無茶言わないでください!これでも精一杯です!それに、これ以上増やされたら……」

「こっちも一杯一杯だ!それなのにまだ大量に残っているんだ!ゆっくりやっていると一生終わらないぞ!」

「うぇ~……」

 アシュミスト警察署内では殆どの警官が総出で休憩なしで仕事に追われいた。


 理由は二日前に警察署前に犯罪者及びその疑いがある人物達が山のように置かれていたからである。

 これが住人に知らされることとなり批判が続出。それを収める為に事件解明へと踏み切ったのだが、今ではそんな思いは微塵もない。

 犯罪者の数だけ犯罪がある。それが一人一つなら泣いて喜ぶのだが、そんな良い話はなく、認識していなかった事件と犯罪の多さに見て見ぬふりが出来なくなったことと、業務だからと違うことで泣くこととなってしまった。

 さらに、犯罪の多さから各班が普通ではありえない複数の事件を担当しなければならないと顔を青ざめることとなった。

 救いかどうかは分からないが、犯罪がギリギリ三桁行ってないことは警察にとって安堵と絶望の数字でしかない。

 担当をする事件を割り振ってもまだ裏を取らないといけない犯罪が残っているのだから警察の報われなさが憐れに思う所である。


 アドルフはこめかみを抑えると椅子に深々と腰掛けた。

「モルテを怒らせるとろくなことがねぇ……」

 警察がこの様な状況を作り出した張本人のことを思うとぼやきしか出てこない。


 アドルフは班で犯罪の裏を取るのと平行をして一人でモルテが起こした行為の後処理改め証拠隠滅を行っていた。

 誰にも気づかれずにやるのは死神の後処理で慣れているから問題ないが今回はそれだけでは言い訳にならないほど苦しんでいる。

 ただでさえミクが誘拐された時の事故処理を行っていたのに、直後に犯罪者達の山である。さらに増やすなと言うよりも一目見てモルテの仕業と分かってしまうと怒りよりも茫然と立ち尽くしてしまった。

 挙げ句の果てには犯罪者は全員言っていることがバラバラ。どれが本当でどれが狂言なのか分からず頭を抱えてしまった。

 それでもミクを誘拐した誘拐犯達よりはましであった。誘拐犯達はトラウマからか人格が崩壊してしまい、今でも助けを請うように呻いている。

 お陰で充分な聞き取りが出来ず精神病棟送りに。幸にも別件で逮捕状が出ていたからそれで逮捕をした。あとは目撃情報などから誘拐での逮捕状を作ればこの事件は終わりである。


 バタンとどこかで音が響いたのが聞こえると、アドルフは顔をしかめた。

「おい、大丈夫か?」

「ああ、また倒れたのか……」

「おーい、こいつ休ませられる場所あるか?」

「仮眠室も休憩室も満杯です」

「だよな……どうすっかな……」

「とりあえず、適当に寝かせとけ」

 業務の辛さからまた脱落者が出た。その会話が聞こえるとアドルフは溜め息を付いた。

 最初は心配で見ていたのだが、今では何度も起こっていることだから慣れてしまい見向きもしない。


「全くよ、何でこんなにあんだよ!」

「仕方ないだろ。あの犯罪者達がやったことなんだから。文句ならあいつらに言え!」

「だけど、いくらなんでも多いだろ?それこそ犯罪の見世物市場みたいに」

「それを捌く俺等ってか?」

「上手いこと言ったって顔するな!」

 仕事の多さにまた部下が文句を言うのが聞こえてアドルフはまた溜め息を付いた。



「警部!」

 その時、慌てる足音と共に一人の警官が部屋へと入ってきた。

 その警官を見た警部、ホーマンは驚いたように、けれども期待を込めて尋ねた。

「裏は?」

「取れました!署長と副署長の不正、隅から隅まで片っ端から!」

 その警官の言葉に今まで仕事が多いと覇気を失っていた警察官達がまるで獣の如く、空腹時に偶然獲物を見つけて覇気を取り戻していく。

「よし、署長と副署長を緊急逮捕!」

「は!」

 ホーマンの指示に待ってましたと部下の警官が飛び出して行った。


 署長と副署長には6年前の事件が終わっても絶え間ないよろしくない噂が漂っていた。

 当時の混乱を避けるために仕方なく署長と副署長に添えたのに、懲りずによろしくないことをするのはどうか。

 それが今回の調査をしなければならない事件の多さを利用することとしたのだ。逮捕をすればまた混乱が起こるからと手が出なかったのだが、すでに警察内部は混乱している。一つ二つもはや関係ないと逮捕を決めたのだ。


「これで一安心だな」

 署長と副署長の逮捕指示を聞いたアドルフはその指示を出した同僚で同じ志を持つホーマンに声をかけていた。

「そうでもない。これは本部にも知らせないといけないことだ。それに、新聞記者も聞きつけて記事にする筈だ。そうなったらまた批判だ……」

「良いじゃねえか。これで俺等が思い描くアシュミストの警察像に近づけるなら安いもんだろ?」

「そうだな」

 色々とやらないといけないことを思って気が滅入ってしまったホーマンはアドルフの目標において大した問題ではないだろうと言われて吹っ切った。


「ところで、新しい署長にはアドルフがなれよ」

「はぁ?何言ってるんだ!なんならホーマンだろ!」

 突然の次期署長の話にアドルフとホーマンは睨み合った。

「アドルフが訴えて行動をしたから警察は信頼がどん底に落ちても立ち直れたことを知っているだろ!」

「それを言うならホーマンが的確に指示を出して動かしたからだろうが!」

「あれは見通しが出来ていたからだ。だが、署長になるならアドルフがふさわしい!改革の先駆けでアドルフしかいない!」

「確かに昔は上に行くことを目指していたが今はごめんだな。上に行ったところでこっちの苦労が増えるだけで懲り懲りだ」

「またそんなことを……」

「教育も何も出来ていねえ部下と同じ警部をほっておくことが出来るわけねえだろ」

 アドルフに長年抱えている問題点を言われてホーマンは頭を抱えた。


 6年前の事件があったのに一部の警部とその部下達が全く反省の素振りを見せないのだ。

 仕事が多いだの、責任は一番上がとるとかで自分達には関係がないと。

 他人事の様な素振りにお前達は一体あの事件を何だと思っているんだと怒鳴りたくなる。


「それを抜きにしても、先駆けだろうが俺は署長にホーマンを押す」

「何でそうなるんだアドルフ!」

「ホーマンが相応しいと言っているんだ」

「それならアドルフだろう?」

「俺は柄じゃねえ。なるならホーマンだ」

「俺はアドルフを押す」

「あのな……」

 次期署長の押し付け合いをするアドルフとホーマンはしばらく睨み付けると、突然何事もなかったかの様にお互いに引いた。

「それはまた今度だ」

「ああ。今は仕事を片付けねえといけねえ」

 お互いに仕事人間である為に言い争いよりも仕事を優先とした。

 そして、自分の班へと戻ると、割り振られた事件の対応へと動き出したのであった。


 警察の混乱はまだ続くのであった。

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