証を残したい
昨日の終わり方が気に入らなくて急遽続きを書きました。
「楽しみ、ですか?」
モルテの口から出た言葉にディオスは尋ねた。
「店長、何が楽しみなんですか?」
「それは言えん。言ってしまってはおもしろくないであろう」
同じようにファズマも尋ねたが、モルテはもったいぶって話さない。
「決めた!」
その時、ミクが何かを決めたようで大声で宣言した。
「あたしも師匠と一緒に流れになる!」
「え!?」
「はあ!?」
「駄目だ」
「どうして~!」
飛び出た言葉にディオスとファズマが驚いて硬直したが、モルテの素早い拒絶が場を制した。
「せめて死神になると言え」
「そこ!?」
厳しい言葉が出ると思いきや、思っていた言葉でなかったことに先程まで硬直していたディオスが反射的に身を乗り出して突っ込んだ。
「もちろん死神になるよ。それで、師匠と一緒に旅をする!」
「それは出来ん」
「どうして?」
かっこよく決めたのにまたしても拒絶されたミクは頬を膨らませた。
「盟約によって旅路に長期間、同伴者をつけることが出来んのだ」
「何それ……」
「店長、一体幾つ盟約を交わしているんですか?」
「つか、一体どんな盟約なんだよ……ですか?」
またもや盟約。いい加減怒りが湧いてきそうな盟約の言葉にミクが絶望の表情を浮かべ、ディオスとファズマが呆れてしまっていた。
「師匠の盟約、理不尽」
「そうだな」
ミクの怒りが込められたぼやきにモルテは苦笑いをした。
「だからこそ、私はお前たちがこの街で暮らしてほしいと思うのだ」
苦笑いから一変、スッと真剣な表情を浮かべて今だから言いたい本心を語った。
「店長、それはどういうことなんですか?」
「そのままの意味だ」
そう言ってモルテは三人の顔を見渡した。
「死神であろうがなかろうが、一つの場所に根を下ろし生きていくことを望んでいるのだ。どのような親の元に産まれ、どの様な場所で生きていたのか忘れてしまっては悲しいものだろう」
その言葉に三人の表情が暗くなった。
ファズマとミクは家族を亡くしている。アシュミストという街が故郷であることを知っている。もし、それらを放り出してしまったなら、家族と故郷を遠い場所で思い出すことが出来るのだろうかと不安になる。
ディオスには二人と違い血が繋がった家族がいる。家族が故郷にいるなら思い出すことが出来るであろう。
だからディオスだけは思った。モルテは放浪をして何も得ず、何も持たないことを望んではいない。地に足をつけてそこで得られるものを得てほしいのだと。
「だから私は証をこの街に残したいのだ。私が育んだ子達が立派に成長をし、この街で生きている証を」
この時のモルテはまるで子を思う親のように見えた。
* * *
モルテの話が終わってからはディオス、ファズマ、ミクは店内の片付けてを行っていた。
無音の店内。誰一人として言葉を発しようとする者がいない。
それだけにモルテが語った話は三人に重かったのだ。
モルテが立たされている苦行、そして、三人に地の着いた生活をしてアシュミストで幸せになってほしいと願う思いが向けられていた。
雰囲気に堪えきれなくなったディオスがファズマに尋ねた。
「どう思うファズマ?」
「どうと言われてもな。ディオスはどうだ?」
「どうして尋ねてくるの?」
尋ねたのにどうして返して来るのかと睨み返す。
「だってよ、俺は店長に助けられて、店長の為になら何でもやるって決めてたのによ……あんな言葉は反則だ……」
「ああ……」
ファズマが抱いたいる複雑な心境にディオスは相槌を打った。
ディオスもモルテに助けられ、好意によって働かせてもらっている。色々と態度も悪くしたのに辞めさせようとする気配も気持ちが感じられない。
「店長ってよ、色々とずりぃなって思ったな」
「そうかな?」
「は?」
「俺はむしろ安心したよ」
「どういうことだよディオス?」
ディオスが言った言葉の意味が分からずファズマは剣幕を立てて睨みつけた。
「よし!」
その時、突然ミクが何かを決めたのか店内の奥へと消えて行った。
「どうしたんだミク?」
「さあ?」
ミクが起こした行動が分からず首を傾げるディオスとファズマ。
そのまま怒濤のような片付けから二日が経った。




