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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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盟約

 朝食が終わったリビングでディオス、ファズマ、ミクはモルテから語られる話を表情を固くして待っていた。

「さて、話すとするか。とはいえ、盟約によって話せることなど殆どないのだがな」

 そう言ってモルテはコーヒーを飲んでいたカップを置いた。

「盟約?」

「盟約って確かロード教で一番強い契約のことですよね?」

 盟約と聞いて頭に疑問符を浮かべるミクとそれが何なのか知って確認の為に尋ねたディオス。

「前から思っていたんですが、店長ってロード教信者なんですか?」

「少なからず縁があるだけで信者ではない」

 朝の祈りや盟約からロード教の信者ではないかと思ったディオスだか、モルテはあっさりと否定した。

「盟約か。それってただの口約束みたいなものなら破っても大丈夫じゃ……」

「盟約を交わした相手が相手でな。話せることなど殆どないと言ったではないか」

 ファズマのどこか期待をする悪そうな表情から出た言葉にモルテは溜め息をつきながら言った。

「……ファズ、我慢しよう」

「ミクは聞きてえと思わねえのか?盟約がどんなことか」

「聞きたいけど我慢してる」

「そうか……」

 年下のミクが我慢すると言われたら年上である自分が拗ねても仕方がないとファズマは呆気なく折れた。


「さて、ファズマには話したが、私はアシュミストに定住するつもりはない。この街に居られるのは長くて20年だ」

 モルテから改めて聞かされた言葉に三人の表情が固くなった。

 ファズマはモルテから聞かされていたし、ディオスもファズマから聞いている。そして、ミクは薄々とそのことを感じていた。

「店長、今だから言えますが、まさか盟約が関係しているんですか?」

「そうだな。関係しているといえば関係している」

 ファズマの質問に煮え切らない答えをするモルテ。

「交わした盟約の為に一定の場所に長く留まることが出来ない。流れとして永遠と旅をすることが求められている」

「永遠にって……」

「その様に悲観をするな。これでも幾つか年単位で滞在をしていたのだ。だが、20年というのは未知でな。正直この年数が不安であるのだがな」

 滞在することのどこが不安なのか分からないが、少なくとも長期滞在をすることでモルテにとって何かしらのデメリットが存在していることが何となく分かった。


「どうして店長がそんな盟約を?」

「……罪滅ぼしだな」

「え?」

 ディオスか尋ねた質問に返ってきた予想していなかった言葉に三人は驚いた。

「聞こえはいいが実際はそんな良いものではない」

「いやいや、聞こえ良くないです!」

 罪滅ぼしのどこが聞いて良いのかとディオスが慌てて否定に入った。

「でも、師匠が何をしたのか分からないけど、その、盟約ってする必要あったの?」

 ミクがした質問にディオスとファズマはあっ、と思ったが、直後に二人の考えは二分した。


 ディオスは何かしらのことをしたのだから盟約をした。だからそれは仕方がないことだと考えた。

 ファズマはわざわざ盟約をしてまで何かをやる必要がないのではと思い盟約そのものはする必要がなかったのではと考える。


「する必要があったのだ。それも、厄介なことにな」

 どうやら盟約を交わさなければならない事情があった。

「厄介って、その理由は何ですか?」

「それも盟約に含まれていてな。教えることができない」

「殆ど何も言えないんじゃないですか」

「だから先に言っただろ。言えんと」

 肝心な所が盟約のせいで聞けないことにファズマは溜め息をついた。

 それに、無理矢理聞こうとしてもモルテがあれこれと隠すはずだから聞き出すことが出来ないのを分かっている。


「それじゃあ、その盟約があるのにどうしてアシュミストに?聞いていると20年よりも長く滞在したことがないように聞こえますが?」

「ふむ、今まで長くて5年だったな」

 ディオスの質問に懐かしそうに答えたモルテはアシュミストに訪れる前のことを思い出した。

「アシュミストに訪れたのはレナードからの誘いでな。ここの先代が越し、葬儀業が一つだけになると回らんから来てくれと言われたのが理由だな」

 それもファズマから聞かされていたディオスは分かっていたが頷いた。ミクは初めて聞いたようで驚いている。

「だが、私は定住出来なくてな。この店を継ぐ後継者を育てる必要があったのだ」

「それが俺達の誰かですか」

「誰と決める必要はないだろう。三人がここの後継者でいいではないか」

 予想していなかった言葉に三人は不意打ちを食らった。

 後継者とは一人のことを指すのだがそれを無視して三人がなれとは。予想外すぎる。


「でも、それやっちゃうと師匠、出ていっちゃうんだよね?」

「盟約があるからな。例え目的が果たせなくてもそうしなければならない。だからレナードはそれを案じてガイウスをこの街に呼び、葬儀業を開かせたのだ」

 モルテが目的を果たせなかった場合を考えてレナードが打った手に三人、特にファズマとミクは表情を曇らせた。

 嘘でも後継者にはならないと言おうと思ったのだが、先に手を打たれていたとなると、嘘も何も意味がない。

 心の奥底ではモルテに出ていってほしくないと思っている。

「ですが、店長が律儀に盟約を守る理由があるのですか?」

「あるから多くを語れんのだ」

 そもそも約束の類いは守るが強制されるものではないと思うファズマはモルテが盟約を守る意味があるのかと尋ねると、モルテは怖い表情を浮かべた。

「私が盟約を許可なく破れば取り返しのつかないことになる」

「店長、どれだけ危険なことを交わしたのですか?」

 まるで脅しのような言葉にディオスは引いてしまった。


「でも、師匠が出て行っちゃうのはイヤだ!」

「何をもう会えないものと決めつけている?」

「え?」

 駄々をこねたミクに言われた言葉。その言葉にミクと意外にもファズマが驚いた表情を浮かべた。

「例え期限が過ぎたところでまたここへ訪れればいいのだ。年単位で滞在は出来んが二度と会えないということはない」

「……そうなの?」

 まるで里帰りをするような対応にファズマとミクは安堵した。

 二人とも期限か目的を達成させてしまえばモルテとは二度と会えないとどこかで緊張をしていたのだ。盟約を破れないというのも合間って緊張は余程のものだった。

「それに、今は楽しみもある。出て行っては楽しくないであろう」

 そして、しばらく出て行く気はないとモルテは三人に言ったのだった。

モルテの盟約についてはまだ多くを語れません。語ってしまったら作品のネタバレになってしまいますので。


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