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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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空腹の朝

 朝目覚めると、ミクは自分のベッドに寝かされていた。

「……あれ?」

 いつのまに寝たのか分からず昨日のことを振り返って、気まずくなってベッドに潜った。

 昨日はモルテに助けられたのだ。沢山謝ったけれども、本当に許してもらえたのかどうか分からない。

 いや、許してくれた。許してくれたがミクは自分が許せない。

「どうしてあんなこと言っちゃったのかな?」

 あんなこととは、モルテが葬儀屋フネーラからいずれ出ていくと言ったことだ。

 直接聞いたわけでもないのにどうして言い切ってしまったのか分からない。ただ、ずっとその事が胸の中に突き刺さっていたのは確かで、どうしてかは分からない。


 う~んと何度も唸って、ゆっくりと起き上がった。

「お腹空いた……」

 空腹には耐えられなかった。それも、どうしてかものすごく空いていた。

 だが、リビングに行けばディオスとファズマもいる。悪口を言ったし態度もきつかった。

 そこに行ってもいいものなのかと思ったがお腹が朝食を求めてリビングへと誘導する。

 ミクはその誘導のまま寝室を出た。



 恐る恐るリビングを覗くと、ディオスがテーブルに伏せっているのが目に入った。

「……やっぱりまだ痛い……」

「何でまたここで寝たんだよ」

「だって……」

 二日連続で座りながら寝て体を痛めたディオスにファズマの呆れた声が聞こえた。


 昨晩、モルテから寝てもいいと言われたディオスだが、戸締まりやモルテに色々と聞きたいことがあるからと自分に理由を作ってリビングで待っていたのだ。

 だが、一向にモルテと途中で降りたファズマが帰って来る様子がなく、しかも、昼から何も食べていない。ミクが拐われた際も不安と店内の片付けに必死で空腹のことなど頭から抜けてしまっていた為に、溜まりに溜まった空腹で苦しむこととなった。

 とにかく堪えようと眠気に誘われるままテーブルに伏せって目を閉じたらいつの間にか朝になっていて、体が痛くなってしまったのだ。

 その直後にモルテとファズマか何食わぬ顔で帰って来てそれを見て呆れたのであった。


 体の痛みに堪えてディオスは姿勢を正した。

「あ!」

 そして、視界の端にこちらを覗いているミクが目に入った。

「おはようミク」

 ディオスの言葉に気づかれたとミクは急いで隠れた。

「おいミク、何隠れてんだ?」

 ディオスの言葉にミクがいることを知ったファズマが振り返ると、丁度ミクが隠れようとした瞬間だった。

 何故隠れたのか分からないファズマはそのままミクが隠れている所まで行くと、頭を強く撫で始めた。

「い、いたい!いたいよファズーー!」

「ハハハ、おはようミク」

 撫でるだけ撫でたファズマはいつも言うようにミクに語りかけた。

 ファズマの手から解放されたミクは頬を膨らませた。

「むぅ、ファズの意地悪!」

 強く撫でられた為に髪はボサボサであった。


「朝から随分と騒がしいな」

 すると、モルテがキッチンから朝食を持って出てきた。

 今日の朝食はモルテが作ったのである。

 モルテがキッチンから出て来た時、一瞬だけミクの体が硬直したのだが、そのことに誰も気がつかなかった。

「あれ?」

 テーブルに置かれた朝食の一品、フレンチトーストを見たディオスが頭に疑問符を浮かべた。

「店長、これに使われているパンって……」

「ふむ、いつも備えられているパンではないな」

「やっぱり」

 フレンチトーストに使われいるパンが何なのか理解したディオスは一瞬だけ戸惑ったがいいかと開き直った。


 モルテがフレンチトーストに使ったパンはディオスが昨日の昼食にと買ったパンであった。

 料理があまり出来ないディオスはパンだけ買っていたのだ。他にもお惣菜といったものも売られていたのだが、そこまで手を出せなかったのだ。理由は簡単で財布からお金を出したくなかったのだ。

 そのパンはミクが誘拐された際にディオスが慌てた為に食べる暇がなく忘れられていたのだ。

 それがキッチンにあったのは、店内の片付けをしている時に見つけたファズマが翌朝に使おうと、片付けに嫌気が差して少しだけキッチンに逃げ込み、卵液を作って、食べやすいサイズに切ったパンを浸していたのであった。

 だからと言うべきか、朝食にフレンチトーストが出なかったら、ディオスは買ってきたパンの存在を忘れるところであったのだ。


 それから追加で朝食の品がテーブルに置かれた。

 元々フレンチトーストに使われているパンは二人分しかなく、足りない分はおかずやスープで補うしかなく、それが数種類とキッチンから出て来たのだ。

 全てが出揃うと、テーブルは久々に朝食で埋め尽くされていた。

「うわぁ~」

 その光景にディオスが小さい悲鳴を上げた。

「さて食べるとするか」

「ほら、食べるぞミク」

「う、うん」

 モルテの言葉に戸惑うミクを無理矢理イスに座らせたファズマは自分のイスに座った。


 そのままいつものお祈りがなされて朝食へと入った。

「食べながらで聞いてほしい。今日店は開けない」

「え?」

 直後、驚いた三人が言い出したモルテを見た。

「店内の片付けだ。それまでは電話のみの仕事依頼だけとする」

 どうやら完全に休みと言うわけでなかったようだ。昨日店内の片付けを行ったのだがまだ片付いてはいない。

 開けないと聞かされた三人はその理由に不思議と安堵した。

「だが、その前に話さなければならないことがある」

 だが、次のモルテの言葉に再び空気が固くなった。

「多くは話せないが、私が置かれているものを三人に話そう」

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