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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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大掃除

 モルテは泣きつかれたミクを抱いたまま中央住宅街を歩いていた。

 ふと空を見上げると、倉庫から出た時は夕暮れであったが今は夜の暗闇となっていた。

 いくら冬が終わり春になったとはいえまだまだ暗くなる時間が早くて長い。もう少ししたら暗くなる時間が遅くなるだろうと思う。


 そんなことを思っていると、モルテの目の前に一台の車が止まった。それも、霊柩車である。

「店長!」

「ミクちゃん!」

 車が止まるとすぐに後部座席のドアが開いて、ディオスとユリシアが飛び出して来た。

「静かに」

 二人の意外に大きい声にモルテは人差し指を立てて静かにと促した。

 それに、気がついた二人はモルテに抱かれているミクが眠っているのに気がついて声を低くした。

「ミクちゃん、大丈夫なんですか?」

「無事だ。疲れて眠ってしまったが、どこも怪我などしていない」

「よかった」

 モルテはミクの無事を尋ねたユリシアに優しく語りかけた。

 ミクの無事にディオスとユリシアが安堵して、今まで抱えていた不安が肩から降りた気がした。

「だから言っただろ。店長なら見つけられるって」

 そんな二人に運転席から降りたファズマが安堵した様子でディオスとユリシアに言った。


 何故三人が車に乗ってわざわざモルテの所まで訪れたかと言うと、ミクの安否が心配とばかりにユリシアがミクの無事を自分の目で見て確認出来るまで葬儀屋フネーラにいると言い出したのが理由である。

 それにディオスが反対をした。

 店内がものすごく散らかっており、とてもではないがユリシアを留まらせることが出来ないと思ったのだ。

 だが、ファズマが片付けを手伝うならいいと言い出したのだ。

 その訳として、ファズマはモルテが警察よりも先に見つけ出すこと、モルテがミクを助け出すことを言ったのだ。

 あいにく、ファズマではミクの居場所が分からないために居場所については警察任せであるが、モルテが救出をする以上は心配はないと、複雑な心境を浮かべるディオスを説得してユリシアを店内に留まらせることに成功したのである。


 その間にファズマが思い出したように、

「そういや、奥は確認したのか?」

「あ……」

「今すぐ確認してこい!」

 店内の貴重品がなくなっていないことはディオスから聞かされているから問題はなかったが、居住区が荒らされていたのか疑問に思って尋ねると、確認していなかったことから確認へと向かせた。

 幸いに居住区は散らかった様子も盗まれたものもなかった為によかったが、もし奥まで入られていたとなると片付けが大変であることは間違いない。

 それは半日寝室の片付けをミクと口喧嘩をしていたファズマが今一番避けたいことであったから。

 そんな思惑をよそに三人は店内の片付けを行った。真っ二つに割れているカウンターはどうしようもなく、手を付けなかった。


 途中で無事だった電話が鳴り、出ると警察からミクが閉じ込められている場所が判明したことが伝えられ、さらにはその場所までも教えてくれた。

「どうせ店長が助け出しているだろうから俺らは店長を探すか」

 とファズマからの予想もしない言葉に驚いたディオスとユリシア。

 ファズマはまさかと疑う二人を無理矢理車に入れると、倉庫街へ向かう道を走った。途中でモルテとミクが歩いているならどの場所にいるかと考えながら運転をして、モルテとミクを見つけた。

 後部座席でディオスとユリシアはファズマの言葉に疑っていたのも忘れて、止まる直前でドアを開けて冒頭に至る。



 ミクが安心して眠っている表情をじっくりと見ていたユリシアの目から涙が流れ出した。

「よかった……本当によかった……」

「って、何でユリシアが泣くんだよ?」

「だって……」

 突然泣き出したユリシアにディオスは驚いてしまった。

 そんなユリシアをモルテは微笑ましく見ていた。

「さて、帰るとするか」

「あ!店長。俺用事があるんで大通りの旧住宅街前で運転を交代してください」

「仕方がないな」

 ファズマの頼みにあっさりと引き受けると、泣いているユリシアを車内へと入れ、眠っているミクをそっと席に座らせ、ディオスが入ってドアを閉めた。

「ユリシア、ミクの無事を見られたから家まで送るよ」

「どうして?」

「そういう約束だろう?それに、これ以上は母さんが心配する」

 ファズマが説得をする際に交わした約束を言われたことに、泣いていたユリシアの涙がすっかりと引いてしまった。

「お兄ちゃんの意地悪」

「明日また来ていいから」

「本当に?」

「だから今日はもう我慢してくれ」

「うん」

 あっさりとディオスからの要望を受け入れたユリシア。ミクに会えるならそれでいいと言われたら嬉しいもので、それを実行する気でいる。

「それじゃまずはディオスん家だな」

「お願いファズマ」

 運転席にファズマ、助手席にモルテが座ると、ファズマはユリシアを送る為に車を走らせた。


* * *


 葬儀屋フネーラへ戻った頃にはもう夜も遅くなっていた。

 眠っているミクを寝室へと運んで行ったモルテの変わりにディオスがリビングで仕事のまとめを行っていた。

「店長、遅いな……」

 運んで行ってから随分時間が経つ筈なのに二階から降りてこないモルテが心配になった。


 モルテが二階に行っている間にアドルフから連絡があった。

 内容はモルテがミクを助け出しているかについてだ。

 それについて素直に話すと、

「やっぱりか」

 と、どうやら予想出来ていたのであろう答えが出たのだ。

 どうやらアドルフもモルテか警察よりも先に見つけ出すことを知っていたようで、それによって起こる出来事もしっかりと理解していたのか、

「事後処理はこちらでやると伝えてくれ」

 とディオスに疑問を残した。

「まったく、モルテが怒るとこちらの苦労が半端ではないし報われるわけでもない!こんど何かしてもらわなければただの骨折り損だ」

 とディオスに愚痴って電話は終わった。


 そんなこともあるからモルテには色々と聞かないといけないのだがまったく降りてこない。

「ファズマも一体、どこにいるんだろう?」

 旧住宅街の前で降ろしたファズマもまだ店に帰ってくる様子がない。

 これは昨晩と同じでリビングで寝ることになるのかと思い、溜め息が出た。


 すると、階段から降りてくる足音が聞こえた。

「店長」

 リビングから覗くようにモルテがディオスを見た。

「ディオス、私はこれから少し出掛けてくる。今日はもう休め」

「え?」

 そう言ってモルテはディオスが驚いて何かを言う前に店から出て行った。


 店から出ると、そこにはファズマが待っていた。

「準備はいいか?」

「はい。声かけられるだけかけて来ました」

「そうか」

「意外に多く集まりました。どうやら店長に恩を感じている人もいたようで、話が広まってあっと言う間に」

 ファズマの言葉を聞いたモルテは不敵な笑みを浮かべた。

「今までは大したことなどしてこなかったから見てみぬ振りをしていたが、流石に今回はやり過ぎたな」

 誰にと言うわけでもない言葉は不思議と決意が込められていた。

「さて、大掃除を開始する!」

 高らかに宣言するとモルテはファズマと共に夜のアシュミストへと足を踏み入れた。


 翌日、朝早くに警察庁の前には不特定多数の男女がロープに縛られ、口を閉ざされて山の様に捨てられていたという。

 しかも、その者達は警察が目をつけていたり行方をくらましていた犯罪者達であった。

 それが何故警察庁の前で山の様に捨てられていたのか分からない。

 話を聞いても、

「大人数に襲われた!」

「赤い髪の奴が急に……」

「何もやっていねえのにそいつが一人で来て……」

「何も知らない!気がついたらこうなっていたんだ!」

 と、全くバラバラの回答を全員が言い出してどれが本当のことなのか分からない有り様である。


 しかも、この山はアシュミスト住人が新聞と噂を持って知ることとなった。

 これだけの犯罪者達が野放しにされていたことに住人の怒りは爆発。再び警察へと非難が向けられ、その対応と平行して裏の確認やこれだけの犯罪者達を捕まえた者の調査も行った。

 これにより警察庁はしばらくの間、犯罪の見せ物市場と成り果て、まともな業務が一時停止、麻痺してしまうこととなった。

 さらに、それにより警察官全員の休みがなくなり睡眠不足と疲労による脱落者が相次いだ。


 なお、犯罪者達を捕まえた者達の調査は不思議なことに何も分からなかったのであった。ただ一人を除いて。

裏の組織とか、そういうのは含まれていません。あくまで危害を与えようと狙っていた組織やそのおこぼれや関係を持っていた人達が対象となっています。


それにしても、モルテさん、そうとう怒っていたのかやりすぎです。そして、それを感じて準備をしていたファズマもそうとう怒っていたはずです。

かなりやり過ぎていますが。

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