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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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温もり

 どれ程の時間が経ったのだろうか。

 ミクはモルテに言われた通りに目と耳をギュッと閉じて見ないように、聞こえないやうにとしていた。

 時々、しっかりと塞いでいる耳に悲鳴が聞こえたりもするが、それが怖いとは感じなかった。


 すると、ミクの両肩に優しく手が乗せられた。

「もう大丈夫だ」

 塞いでいる耳に優しく響いた聞き慣れた声にミクはゆっくりと目を開け、耳から手を話した。

「師匠?」

 そして、同じ目線までしゃがんでいるモルテの表情を見て瞬きをして、目を丸くした。

 モルテの表情が穏やかだったのだ。

 いつもは気難しい顔をしており、先程まで怒りを纏っていたはずの表情がない。まるで、そんな感情が嘘のように穏やかであったのだ。

「怪我はないか?」

 モルテはミクの体を見ながら尋ねた。

 ミクはまだ驚いていた為に声が出ず、首を横に振った。

「そうか」

 ミクの反応を見たモルテは目を細めると、ゆっくりとしっかり抱き締めた。

「無事でよかった」

 心の底からモルテはミクの無事に安堵した。

 ミクは突然の行動と言葉にまた驚いた。そして、同じような事が前にもあったような気がした。

「し、師匠!?」

 驚いて何かを言おうとしたが声が出なかった。

 抱き締められているためにモルテの温かさが感じられたのだ。それが安心を与えてくれる。

 それに気がつくと、知らぬ間にミクもモルテに抱き付き目から涙が流れた。

「ししょ……ししょぉ~、ごめんね……ひどいこと、いって、ごめんなさい……」

「ミクが謝る必要はない。あれは急いた私が悪いのだから」

 泣きながら謝るミクにモルテは言っている言葉がどんな時を指しているのか理解して髪を優しく撫でた。

「ううぅっ……だすけでくれで、あり、がとう」

「当然だろう。ミクは私の娘なのだから」

「ほん、とーに?」

「もちろんだ」

 優しい言葉でミクを励ますモルテ。だが、モルテにはどうしても言わなければならないことがあった。

「ミク、私は謝らなければならない。危うく私はミクに同じ思いをさせるところだった」

 今のミクを見たモルテは過去の自分を重ねて見てしまっていた。

 詳しいことは今は言えない。ミクを慰めるので精一杯であったから。


 しばらくして、大分泣き止んだミクにモルテは再び語りかけた。

「さて、帰るぞ」

「うん」

 モルテに手を引かれながらミクはまだ流れている涙を拭い、握られている手を強く握った。

 その間にモルテの報復により沈められた誘拐犯達は大半の気絶者を除いて喚き呻いていた。

 それを無視してミクはモルテの横を歩き、倉庫の入口へと向かった。


  * * *


 それから数十分後。

「おい、何で開いているんだ?」

 目的の倉庫を見た警察官の一人が呟いた。

 少し前に倉庫から悲鳴が聞こえると連絡が入り、さらに、子供を拐った誘拐犯がそこへ逃げ込んだことを掴んだ警察が万全の準備をして訪れると、倉庫は無防備にも扉が開けられていた。

 ちなみに、連絡をした者は倉庫の外まで響いている悲鳴があまりにも恐怖を表現する悲鳴に近かった為に中を覗こうとも確認をしよとも思わず、どうにかしてほしいと慌てて警察に連絡をしたのである。


「注意をしろ。扉が開いているが犯人が何人か分かっていない。場合によっては子供を人質にされることも考えられる。十分に注意をするよに」

「警部!」

「おう、どうだった?」

「周辺に不審な人物はなし。また、人払いも完了しました」

「そうか」

 部下に指示を出すアドルフに次々と周辺状況の報告が入る。

「警部、突入準備完了です」

「分かった」

 また、新たに部下の報告が入り、アドルフは複雑な心境で定位置に着いた。

 部下の全員が緊張を張り巡らせる中、アドルフは申し訳ない思いで片手を上げた。

 そして、

「突入!」

 意外に声を張った命令に部下達が突入をした。


「な……!」

「何だこれ!?」

 倉庫内部で目にしたものに驚いて全員が足を止めた。

 誘拐犯と思われる者達が倒れ臥せっている様子だった。しかも、外傷ありで顔が腫れたり歯が抜けたり、鼻が折れたりと、見て分かるだけでかなりの重症にみえた。しかも、数人はどういう訳かコンクリートて出来た床に突っ込んでいる。生きているのかどうか微妙に分からない。

「た……助けて」

「殺される……殺……される……」

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 しかも、涙を流しながら喚いている。

「一体何があったんだ?」

 仮にも誘拐犯と思われる者達が哀れな姿でいることに全く状況が分からず混乱をする警察官達。

「って、おい!扉壊れてるじゃないか!しかも鉄の扉が!」

「はあ!?」

 そして、突入してきた入口の鉄扉が留め具を壊して呆気なく外れて内部で男二人を下敷きにしているのを見てさらに混乱する。


「思った通りか」

 そんな中で唯一、アドルフだけが嫌々に状況を理解してしまっていた。いや、初めから思った通りだったと言うべきである。

「モルテ、いくら何でもやりすぎだぞこれは……」

 モルテが行ったことをある程度予想して考えると、誘拐犯達の哀れな末路に溜め息を着いた。

「だが、お前らに同情はしないからな」

 そして、モルテにこんなことをさせた誘拐犯達を軽蔑したのであった。

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