誘拐犯達の目的
「いや~、上手くいったな!」
「全くだ。あの時は驚いたが、よく考えたら慌てる必要なんかなかったんだ」
倉庫街の何処かの倉庫で十数人の男達が集まっており、その内の二人が騒いでいた。
「だがよ……」
そんな二人に誰かが声をかけた。そして、恐る恐ると視線を剃らしていき、他の男達もそれを追うように壁の隅の床に座らせているそれを見た。
「大丈夫なのか?」
モルテへの脅し道具として誘拐した少女、ミクがロープで縛られたままにこちらを睨み付けていたが、そんなもの怖いとは感じないない。
むしろ不安は別である。
「大丈夫に決まってんだろ。モルテんとこで働いている従業員に見られたが逃げられたんだ」
「ああ、まさかここにいるとは思ってねえよ」
「俺が言いてえのはそうじゃねくてだな……」
居場所の問題をしているのではないと不安を口にした男が溜め息をついた。
誘拐する現場を見られたとは言え、車で逃げる後を人の力ではとうてい追いつかれるとはおもっていないし不可能である。
「なんなら警察か?念を入れて車を途中で乗り換えたんだぞ。今もバカな奴らにこの場所が分かるわけねえだろ」
「それは心配していないからな」
思いっきり警察を軽視する誘拐犯達。
事実、現在もアシュミストの警察は上層部が駄目であり、内部がごたついている。
故に、誘拐犯達は警察が素早く行動を起こせるとは思っていない。上層部は手柄が欲しいし、下は手柄を奪われたくない。自然と損をしない選択をするはずだから誘拐なんか目にしないだろうと考えている。
「なんなら葬儀屋の奴等か?ないない。どういうわけか奴等の仲がよろしくねえからな」
日頃から行っていると葬儀屋フネーラの監視で今日に限って喧嘩をするそ声が響いていた。
気になって客に扮して店内に入り尋ねると、案の定喧嘩であった。しかも、店長で憎きモルテはいない。
監視役からその連絡を受けた時、全員がこれは好機であると考え、今すぐに出来るモルテの復讐を考えた結果、誘拐であった。
「それは聞いた……って、俺が言いたいのはそれじゃねえ!拐っておいてなんだが、拐って大丈夫だったかってことだ!」
周りが全く違うことを言うから不安な男が自身が抱いている不安を口にした。
「どーいうことだ?」
「知ってんだろ!俺等と同じこと考えた奴等がいるってこと」
「いや、知らねえ」
「おい!」
「いいじゃねえか。それで、そいつ等がどうかしたのか?」
「返り討ちにされたんだよ」
「モルテにか?」
「子供にだ」
不安な男の言葉に周りが静かになった。
「どんな方法で返り討ちにしたか分からねえが、それを知った奴が報復とばかりにそいつの仲間を全員一網打尽にしやがったんだ」
「だがよ、こいつは捕まえることが出来たぞ」
それが何だとミクを指差す。
「割り切れよ。そいつ等は運が悪かっただけだ。あれからどれだけ経った?随分と経ったんだ。状況が違うんだよ」
ふん、と鼻で笑って男は不安な男の胸を軽く叩いた。
誘拐犯達が口悪く笑いながら話す会話をミクは不満を浮かべて全て聞き流していた。
「ところでよ嬢ちゃん」
すると、一人の男がミクへと近づいて来た。
「そ~んな顔してよ、怖くねえのかよ?」
「怖くないよ」
「泣きたいと思わねえのか?」
「どうして?」
男の言葉にミクは表情一つ変えることなく答えた。
「けっ、面白くね」
ミクの答えに子供らしい言葉がなく、言葉攻めをしようかと思っていた男はつまらないと側から離れた。
ミクが怖くないと言ったのは本当である。だが、泣きたくないのは嘘である。
出来ることなら今すぐにでも泣きたい。モルテとファズマとディオスに謝りたいと思っている。
(喧嘩なんかするんじゃなかった……師匠にバカなんて言わなければよかった……)
昨晩の出来事で荒れに荒れてしまったミクの心はやりきれない思いを爆発させて周りを傷付けたばかりか自分をも傷付けてしまったのだと理解していた。
愚かであったと思う前にあんなに傷付けたのだから誰も助けに来てくれるなど思ってもいない。きっと、見ぬふりで捨てられるのだと心の中で怯えたいた。
「なあ、やっていいか?」
「よせよ。大事な人質だ。ここで手を出してどうすんだ?」
「やるならモルテが来てから、だろ?」
一番来るはずがないと思うモルテがどうして来ると言えるのか分からないミクはさらに睨み付けた。
自分が傷付けたのだから来るわけがないと。
「ところで、手筈はどうなってる?」
「もうそろそろ葬儀屋に知らせに行く頃合いだろ」
「そうか」
自分は奴等にとって大切な道具であるから場所を知らせるわけにはいかない。何処かでモルテ接触をして脅すつもりなのだとミクは考えた。
「あ~~、やっぱり無理だ!」
直後、一人の男が叫び出した。
「なあ、やっぱりやっていいか?少しだけ。な?」
「お前な……」
出された要望に数人が呆れて溜め息がついた。
その時、幾つもの鍵をかけていたはずの扉がバーンと音を立て、扉から人影のシルエットを映し出して光が差し込んだ。




