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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
1章 新従業員採用
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葬儀屋の採否

 逮捕した男達全員が護送車に乗せられたのを見てアドルフはモルテに言った。

「さて、俺は署に戻るからな」

 そう言ってアドルフは車に乗ると護送車と共に闇夜の道へと消えていった。

 それを見送ったモルテはさっきまで警察から事情を聞かれて疲れきっているディオス母子三人へと近づいた。

「さて……」

「ありがとうございます!」

 モルテが話をしようと口を開いた直後、シンシアが頭を下げて礼を述べた。

「ディオスとユリシアを助けてくれてありがとうございます!」

 感謝を口にするシンシアにモルテは意味が分からないという表情を浮かべた。

「何の事だ?」

 その言葉にシンシアは驚いて頭を上げた。

「私は窓ガラスの弁償を奴らに要求しにここに来た。そこにあなた方が偶然居合わせただけ。助けたつもりはない。だが、私が助けたと思うならその謝意を受け取ろう」

 どこまでも窓ガラスの弁償にこだわるモルテだが謝意を受け取る事にして借金取りの部屋から見つけた紙を三人に見せた。

 それは、莫大な金額と借り受けた人物の名前、シンシアの夫でありディオスとユリシアの父、グランディオスの名が記された借用書であった。

 それをモルテは三人の目の前で二枚に破いた。

「これで契約は無効となった」

 モルテの言葉にディオスとシンシアは意味を悟った。もう借金はない。心の底から安堵が広がった。

「さて、お前の採否を言ってはいなかったな」

 二人の様子を無視してモルテはディオスに声をかけて向き合った。

 その言葉にディオスは今までの騒動で完全に忘れており呆けた表情を一瞬浮かべたがすぐに思い出して表情を引き締めた。

「不合格だ」

 モルテの言葉にディオスはやっぱりと目を閉じた。

 散々迷惑をかけたのだ。それに、店に行ってから雇いたくないような事を散々言っていた。きっと、もう関わりたくないはず、落とすだろうと思っていたからすんなりと諦めがつけた。

 一方でシンシアはモルテの言葉に一気に地の底に叩きつけられたような絶望にいた。

 モルテは恩人である。そんな人物ならディオスを雇ってくれると思っていたのだが結果は不採用。受け入れられない気持ちで一杯になっていた。

 ユリシアはとりあえずディオスが雇ってもらえないという事だけは理解していた。


 モルテの言葉を受け入れたディオスに再び声をかけた。

「ディオス・マケネード、お前にディオス・エンツォ=レオーネへの伝言を頼みたい」

 その言葉に意味が分からずディオスは再び呆けた表情を浮かべた。もちろん、シンシアとユリシアも一体何を言っているのか分からない様子である。

 ディオスはモルテの目の前にいる。一体何を言っているのかと。

「クラウディアから紹介状を貰い店へ来いと。お前に働く意志があるなら私は雇うつもりであると」

 モルテの言葉にディオスは意味を察した。

 モルテが不採用にしたのはディオス・マケネード。ディオス・エンツォ=レオーネではない。そして、レオーネとしてのディオスなら雇うと言っていると。

「簡単な試験と面接後になるがな」

 それを聞いて喜びを感じたディオス。ようやく職に着くことが出来たのだから。

 それに追い討ちをかけるかのようにシンシアが後ろから抱きつき、ユリシアが手を取った。

「おめでとうディオ!」

「おめでとうお兄ーちゃん!」

 喜ぶ母子三人にモルテは次に言うためのタイミングを逃した。喜んでいるところ申し訳ないと思いながら咳払いをひとつした。

「まだ話は終わっていない」

 モルテの言葉に三人は何かと見る。

「店で働く為には一つ条件がある」

「条件?」

 モルテの言葉に三人は顔を見合わせた。

「それは……」

 モルテは店で働く為の条件とその理由について話始めた。


  * * *


 その後、モルテはファズマが運転する車の助手席に座っていた。その後ろの席にはミクが少し暇そうに座っていた。

「本当によかったんてすか?彼を雇って?」

 ファズマの言葉に同意するかのようにミクが前に少しだけ体を出して頷いた。

「どうゆう意味だ?」

 モルテは意味が分からないと言う表情を浮かべた。

「店で雇うって事はこちら側になる事を意味しています。何も知らない彼に……」

「誰も初めから知っている者はいないと思うが?」

 モルテの言葉にファズマは言葉が詰まった。

「私が雇うと決めたのはだな、おもしろいからだ」

「おもしろい?」

 その言葉にミクが首を傾げた。

 その時、後ろからキュルルルという音が聞こえた。

「……お腹すいた」

 ミクがお腹を抱えて呟いた。

 それを聞いてファズマが思い出したように言った。

「そういえば夕飯の時間とっくの昔に過ぎてたな」

「温めればいいものを作ってきている。戻ったら食べるぞ」

「ちなみに、何を作ったんですか?」

「豚肉とトマトのスープだ」

 モルテの言葉にファズマの表情が険しくなった。

「まさか、イルロカ豚のロースじゃ……」

「肉がそれしかなかったからな」

 それを聞いたファズマは突如、アクセルからブレーキをかけると車をユーターンして再びアクセルを踏んで来た道を走り出した。

 ファズマの突然の行動にモルテは驚いた表情、ではなくいつも通りの表情で尋ねた。

「どこへ行く?」

「市場です!この時間帯でも開いている店を探すんです!」

「閉まっていると思うが?」

「一件、二件はあるはずです!」

「何故そこまで探す必要がある?」

「店長が使った肉は明日の朝食、ソテーにするつもりだっんです!」

「またソテェー……」

「ならば魚でいいだろう」

「魚もありません」

「何!?」

 ここで驚愕の表情を浮かべたモルテ。真夜中に店が開いているとは思えないという思いを忘れて。

「肉も魚もない。あるのはパンと野菜だけです!」

「サラダのフルコースというのは困るな。パンが脇役となってしまう」

「いいよそれでも」

「よくない。肉か魚がない朝食など認めん!」

「野菜も食べたい!」

 二人の会話にミクの悲痛な声を交えながら三人は朝食のメニューについて討論交わし、市場を二回も通りすぎていた。

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