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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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反省

 ぐぅ~と、お腹が鳴る音が車の中に響いた。

「ハハハ!ディオス、何だ今のは?」

「し、知らないよ!」

 お腹が鳴る音に車を運転しているファズマの口から笑いが吹き零れた。

 お腹が鳴ったことにディオスは恥ずかしくってファズマから尋ねられた言葉に赤面を浮かべながら視線を反らして、しばらくして溜め息をついた。


「はぁ……」

「どうしたんだよ今度は?」

「……いや…その……少し言い過ぎたかなって」

「何がだ?」

「さっき、店で……」

「ああ、あれか……」

「その……ごめん」

 ディオスが困惑と後悔と反省の表情に呟いた言葉にファズマは思い出したくなかったと苦しい表情を浮かべた。

「謝る必要ねえよ。あそこでディオスが止めに入らねかったら俺とミクはまだ喧嘩をしていたぞ。むしろ感謝してるくれぇだぞ」

 言い過ぎたかと悩むディオスに止めてくれたことに礼を述べたファズマは、直後に溜め息をついた。


「はぁ~、むしろ俺が情ね……喧嘩に慣れてたはずが、ミクが怒ってきたことに手加減忘れるなんてな……」

「慣れ……?え?」

「ミクが本気で怒ったのが初めてだからか?いや、それで手加減忘れんのは……楽しかったからか?」

 まるで気にせず呟かれる言葉にディオスは目を丸くした。

「ファズマ、手加減って何?」

 ディオスにとっては鬼門であるが、ファズマなら答えてくれるだろうという信頼から構わず尋ねた。

「ああ?手加減は手加減だろ、喧嘩の手加減だ」

「物理的な?」

「ディオス、俺を何だと思ってんだ?」

 ディオスの余計な一言にファズマは言葉に威圧感を乗せて突きつけた。

「今回に関しちゃ口喧嘩だ。会話ん中に不快に思わせねえように話す時があんだろ?あれみてえなもんだ」

「同じとは思えないんだけど……」

 予想通りにファズマは答えてくれたが、その答えにディオスは呆然とした。

「だがな、どういうわけかミクに手加減すんのを忘れたんだ」

 思い出すと本当に情けないとまたファズマは呟いた。


 ファズマはスラム時代において日常的に喧嘩に明け暮れていた。

 相手を懲らしめたり報復したり、縄張り争いで物理的にも口でもよく争いをしていた。

 仲間達とも時々喧嘩をすることもあったが、だからこそ喧嘩の仕方を覚えていった。

 相手によって手加減するかしないか、争いをする相手なのかどうなのかと見極める目と制圧する口に鎮圧する腕を磨いた。

 だから、慣れているはずの喧嘩にミクが怯むことなく諦めずに粘り続けたことに、手加減なしの口喧嘩に発展してしまったことがよほどショックだったのだ。


 喧嘩慣れしているファズマが手加減を忘れたと聞いたディオスは何故なのかと自分なりに考えた。

「もしかしてだけど、手加減を忘れたんじゃなくて、手加減をあえてしなかったとか?」

「それ、忘れているって言い換えているだけじゃねえか?」

「そうか……」

 ミクに手加減なく正面から受け止めてぶつかったのではと思ったのだが、そんな熱血的でもないことと言い換えている感からファズマに否定された。

「……鈍ったか?」

 最終的にファズマは自身の喧嘩の勘が鈍っているのではと思った。

 モルテの下で死神の修行や仕事を行っておることでスラム時代よりも喧嘩をすることがなくなった。

 いつの間にか本気も手加減もなく、ただ満足出来る喧嘩しか出来ていなかったのだと評価を下した。


「そういや、話し変えるがよ、謝るんならミクに言えよ」

「ミクに?」

 突如話を変えられたディオスは先程のファズマの言葉に呆れて気を抜かしていた為に驚いて目を丸くした。

「ミクも色々と言ってたが、あれは相当きてんぞ」

「待った!一体何の話し?どこの?」

 ミクに傷つける様な酷いことを言った記憶が全くないディオスは戸惑ってファズマに尋ねた。

「言っただろ。喧嘩になることやめてしまえってよ」

「そう言えば……それが?」

「あれ、店番のことだからな」

 ファズマの言葉に何を言っているんだとディオスは瞬きをして沈黙。しばらくして何かを理解したディオスは声を上げた。

「もしかて、店番やめろって言っちゃったのか?」

「結果的にそうなるな」

 もしやと思って聞くとファズマが力強く頷いた。

「だからあんな顔してたのか……」

「帰ったら謝れよ」

「そうします……」

 言った直後のミクの評価を思い出してディオスは酷く公開をした。

 ミクにとって店番は何よりも楽しみの一つである。それを奪ってはかわいそうである。


 そんな話をしていると、車は市場の近くへと着いた。

 ファズマは車を道路の端に止めるとディオスを下ろした。

「とりあえず市場でミクの好物でも買って気持ちを落ち着かせるしかねえぞ」

「食べ物で釣るっていうのまどうかと思うけど、そうするよ」

 ファズマの提案に苦笑いしたディオスだが今はそれしかないだろうと飲み込んだ。

「それじゃ後でな」

 そう言ってファズマは再び車を走らせた。


 車が見えなくなるまで見送ったディオスは市場に入って、ふと思い出した。

「そう言えば、ユリシア遊びに来るって言ってたな」

 昨晩、ユリシアを家に送る前に言っていた言葉を思い出したディオスは溜め息を着いた。

「とりあえず、お菓子も買っておいたほうがいいかな?」

 今のミクをユリシアに会わせていいものか、財布からお金がなくなる辛さと二重の悩みに再び溜め息が出た。

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