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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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我が儘と喧嘩

「はぁ……」

 店内のカウンターに頬杖をつきながらディオスは溜め息をついた。

 何故なら……

「ファズのバカーー!」

「あぁ?もういっぺん言ってみろ!」

 上からファズマとミクの口喧嘩が絶え間なく響いているからだ。


「まだやっているのか?」

 聞こえてくる口喧嘩に朝に手紙を届けに来た時からまだ続いているのかと、馬の被り物を被っているマオクラフがどこか他人事の様に呟いた。

「いつになったら片付くんだ……?」

 朝から続けてもう少しで昼となるのに一向に口喧嘩が途絶えないことに寝室の片付けがいつになったら終わるのかとディオスは落ち込んだ。

「そんなに酷いの?」

 チャフスキー葬儀商から届け物を届けに来たアリアーナもミクとファズマの口喧嘩を聞きながら寝室の散らかりようについて尋ねると、ディオスは無言で頷いた。

「念のために聞くけど、喧嘩の理由は?」

「知らない」

「は?」

「え?……本当に?」

「知らないよ。そもそも、ミクに睨まれている理由も知らないんだから」

「何かやったんじゃ……」

「やってません!」

 口喧嘩の理由について質問したアリアーナだが、ディオスから帰ってきた答えにマオクラフと共に気の抜けた声を上げた。

 現にミクが怒り始めた頃にディオスは居なかったのだ。居ない人物に怒りや喧嘩の理由について心当たりを尋ねても何も出ないのである。

「だけど、ミクちゃんが怒るのって久しぶり?……もしかしたら初めてじゃないかな?」

「ああ、確かに、そうかもしれないな」

 まだ聞こえる口喧嘩に、ふとアリアーナは思ったこと口にすると、マオクラフが同意した。

「どういうこと?」

「ミクちゃんが怒って喧嘩になったのを知らないの」

 ディオスは何かを納得したマオクラフとアリアーナに尋ねると、その言葉に驚いた。

 6年もいるのなら喧嘩の一つ二つはあって、それをネタに話があってもおかしくないと思っていたのだが、それがないというのはどうなのかと疑問に思ってしまう。

「そもそも、ミクって我が儘言わないって言ってなかったか?」

「そう言えば、父さんがモルテさんからそんなこと聞いたって言ってたわね」

 マオクラフとアリアーナの言葉にディオスは背筋を伸ばした。

「普通言わないんじゃないかな?」

「は?」

「普通言うわよ!」

「え?」

 我が儘を言うことはよくないことだから言わないのが当たり前なのではと言うディオスにマオクラフとアリアーナが驚いた表情を浮かべた。マオクラフは馬の被り物を被っているために表情ではなく声であるが。


「そもそも、我が儘ってどういうのか知ってる?」

「迷惑をかけることだっけ?」

「まあ、大雑把に言ったらそうかな?誰だって人の迷惑になることを言って困らせたり怒らせたりするものなんだけど、ミクちゃんはそんなことしなかったの」

「そうなの?」

 真剣な表情でアリアーナから語られた我が儘というもの、それをしないミクにディオスはいまいち理解しきれなかった。

「それよりも、ディオスは我が儘言ったことないのか?」

 ディオスの様子にマオクラフはまさかと思い尋ねた。

 もしかしたらディオス自身が我が儘と思っているものを我が儘ではなく別の認識をしていて気づいていないのではと思ったからだ。

「ん~……ファズマに無理をして頼んだのが迷惑かなってくらいかな?」

「どんなことを頼んだか分からないけど、多分それが我が儘だからな」

「え!?」

 やっぱりと、ディオスの言葉にすかさずマオクラフは指摘した。

 それに、我が儘について誤解をしたところでこちらに被害がなければそれでいいと思っている。

「そう言えば、ディオス君って喧嘩とかしたことあるの?」

「……口喧嘩が少しかな?後はほとんどしたことないかな?」

 アリアーナが喧嘩をしたことがあるのかについて尋ねると、ディオスは少し考えて喧嘩らしい喧嘩をしたことがないことに気がついた。


 ちなみに、喧嘩の場数を踏んでいないディオスが何故ファズマに口喧嘩で勝てたかと言うと、頭の切れ具合と回転の早さと口数でファズマを圧倒したからだ。

 もしそれらがなければ、延長戦の末でディオスはファズマに負けていたであろう。


「確か妹がいたはずよね?妹とは?」

「口喧嘩が少しかな?」

 妹とも喧嘩をほとんどしたことがないと言うと、アリアーナは信じられないと言うように声を上げた。

「ありえない!」

「そうかな?」

「だって、私とアンナはいつもってわけじゃないけど、よく喧嘩するもの」

「え!?」

 喧嘩がないことに驚くアリアーナと喧嘩をしていることに驚くディオス。どちらも兄弟、姉妹で上であるが、あまりの違いに顔を見合わせてしまう。

「俺は兄弟がいないからそこんところは分からないけど、父さんとはよくやるな」

「レナードさんと!?」

 親と喧嘩をするということにまたも驚くディオス。

「どうしてそんなに喧嘩を?」

「こっちも聞きたいよ。どうしたらそんなに喧嘩をしないの?」

 喧嘩をすることが異常と思うディオスに、アリアーナは逆に喧嘩をしないことが異常であり、その極意を聞きたいと迫る。

「そんなの分からないよ」

 何かが迫り来るアリアーナの目線にディオスは心当たりがないと慌てて言った。

 そもそも、喧嘩は迷惑であり見苦しいものであると聞かされ続けてきていた為にどうしても譲れない時以外にしたことはない。喧嘩になりそうなら自分から引けばいいとさえ思う。


「どうして喧嘩をするのか聞きたいんだけど?」

「それは、意見が合わないからだね。アンナと双子っていうけど、性格も趣味も全く違うの。そうなったら喧嘩なんていつもやるものなのよ」

 ディオスの言葉に古典的な例を上げたアリアーナ。

「あ~、分かるなそれ。俺も父さんとやる時も大体それだからな」

「え?悪いことで喧嘩になるんじゃないの?」

「悪くないと思うから喧嘩をするの」

 マオクラフとアリアーナの話を聞いていたディオスは頭が混乱してしまった。

 意見の対立からなる喧嘩は分かるが悪くないとで喧嘩をするのがどうしてか分からないからだ。

「だって、喧嘩くらいだもの。自分の思っていることをちゃんと伝えられるのは」

「そんなの、いつも話してれば……」

「話せないわよ。勢いとかその場の雰囲気がないと。言って、それが気まずい雰囲気になったりしたら辛いじゃない。だから悪くはない。分かってほしいから喧嘩をするのよ」

 自分の思っていることを包み隠さずに話せるのは喧嘩だけだとアリアーナは笑みを浮かべた。

「ま、それで納得するかどうかは別だけど、それでもダメなら無視したり睨み付けて気を引き付けさせるがな」

 喧嘩がそれほど嫌なものではなく、むしろ相手が折れるまで待つだけとマオクラフは驚いているディオスに言った。

「何だか信じられないな……」

「喧嘩したことがねえって言うならそう思うだろうが本当だからなこれは」

「それに、ミクちゃんがディオス君を睨んでいるってことは、ミクちゃんはディオス君に構ってほしいって思うな私は」

「そうかな?」

 まだ喧嘩について分かりきれていないディオスは困った様子で頭をかいた。

 ミクが理由もなく睨み付けてくる様子は今も分からないし話しかけにくい。正直、本当に構ってもらいたいのか分からないくらいだ。


「そう言えば、喧嘩止んでない?」

「あ!」

「そう言えば……」

 上で響いていたファズマとミクの口喧嘩が聞こえてこないことに三人は気がついて天井を見た。

「それじゃ私は帰るね」

「俺もそろそろ仕事に戻るか」

「あ、はい」

 区切りがいいことと長い間立ち話をしていたことに気がついたマオクラフとアリアーナはディオスに一声かけて葬儀屋フネーラから出ていった。


「分かってほしいから喧嘩をする、か……」

 マオクラフとアリアーナが出ていってからディオスは先程から心に引っ掛かっている言葉を呟いた。

 誰が悪いからというものが喧嘩であると思っていたディオスに意見をぶつけて分かってもらうのが喧嘩であるということが信じられないからだ。

「だったら、ミクは一体、何を伝えたいんだ?」

 ディオスがそんなことをぼやくと、背後の扉が乱暴に開けられた。

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