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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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行きたくない

 賑やかであった時間はあっという間に過ぎてしまった。

「それでは送って行きます」

「ふむ」

 外は暗くなっていた。少し前より暗くなる時間は遅くなったが、まだ寒さが残っている。

 店の入り口でモルテに外に出ることを伝えたディオスは横にいるユリシアに声をかけた。

「ユリシア、行こう」

「うん。えっと、また遊びに行ってもいいですか?」

「歓迎しよう」

「はい」

 ディオスの言葉に頷いたユリシアはもの惜しそうにモルテに尋ねると、帰ってきた言葉に笑みを浮かべた。

「明日また行きます」

「明日は学園だろう?」

「終わったらだよお兄ちゃん」

 嬉しそうに言うとユリシアはモルテの横に立っているミクに手を振った。

「またねミクちゃん」

「うん」

 笑みを浮かべて手を振るユリシアに同じように返すミク。

 このミクの様子にディオスは違和感を覚えながらもユリシアを家まで送る為に外へと出た。


 ユリシアを見送るとモルテとファズマはミクを見た。

「ミク、楽しかったか?」

「……まあまあ」

 ファズマの言葉にそっけない態度を示したミクに苦笑いしか出ない。

「そうか?随分と楽しそうに見えたが」

「ファズの見間違いだよ」

 ミクの態度に面白いと思い言葉で突っついたファズマにミクが頬を膨らませてそっぽを向いた。

「あたしは全然。ぜーんぜん、楽しくなかったからね!」

 ミクの拗ねた様子に仕方がないと思いこれ以上は何も言わないことにしたファズマはわざと聞こえるように溜め息を漏らした。

「それじゃ店長、俺は先に休みます」

「そうか」

 モルテに一声かけるとファズマはそのまま扉を開けて二階の寝室へと向かった。


 ファズマがいなくなってもミクはまだ頬を膨らませたままだった。

「いつまで拗ねている」

「拗ねてないよ」

 不機嫌なミクにモルテは頭を優しく撫でた。

「私から見ても楽しそうに見えたが楽しくなかったのか?」

「ぜーんぜん!」

「何故そのような嘘をつく」

「ウソなんて言ってない!」

 楽しくないと言うのが嘘とモルテに言われたミクは癇癪を起こしそうであった。

「そうか。ミク、大事な話がある」

 癇癪を起こしては話したいことを話せないと感じたモルテはこの話に区切りをつけさせるとミクをリビングに誘導した。


「どうしたの師匠?」

 リビングの自分の椅子に座ったミクは先程まで癇癪を起こしていたのと打って変わり不安そうな様子を浮かべた。

「ミク、再び学校へ行き勉強をする気はないか?」

「え?」

「正確には学園だが」

「やだ!」

 モルテが出した提案をミクは驚いたがすぐに拒否をした。

「何故だ?」

「行きたくない!勉強だったら(ここ)でも出来るよ!」

「勉強だけならそうだ。だが、それだけが勉強ではない。学ばなければならないものは他にもある」

「何?」

「人間としての対応力。確かコミュニケーションだったか。それを知る必要がある」

 勉強ではなくコミュニケーションを学ぶ必要があるあると伝えるモルテにミクは躍起になって拒絶し始めた。

「そんなのお手伝いでいっぱいやってる!」

「客のやり取りと同年代では全く違う。客の殆どはミクよりも年上だ。それも一度きりだ。例え年上の対応が出来たところで同年代に通じるものは少ない」

「気にしてないよそんなの」

「話を最後まで聞け。時に対応を間違えたとしても大人は配慮というものを知っている。それがあるからミクは店番をやり続けることが出来なのだ」

 大人の気遣いによりミクに何も飛び火がなく、これまで何事もなかったのだと言うモルテ。

 だが、店番がまるで自分の能力が不足している、気遣わされていたと言う言葉にミクはショックを受けた。

「だが、子供はそうではない。間違いに指摘をすれば怒り、泣いたりもする。その繰り返しにより配慮や気遣いというものを知り、コミュニケーションをどのように取るのか覚えていく。加えて関係を築きながら対応を考える必要もある。店番では出来ない勉強だ」

「いらない!」

 能力不足を永遠に言われて、その為に外に出て学びに行けという話を聞きたくないミクは剣幕を立てた。

「それに、店番はどうするの?」

「ディオスが入ったから任せるつもりだ。しばらく一人でもやらせていたが、もう心配はないだろう」

 唯一葬儀屋フネーラで任されている店番を出したミクだが、あっさりと代わりがいるとモルテに言われた。

 全く問題に思っておらず、問題にもしていないモルテにミクは唇を噛んだ。


「師匠は、あたしがいなくてもいいの?」

 突然のミクの言葉にモルテは驚くではなく目を細めた。

「師匠は、あたしが、いらないの?」

「何を分からないことを言う」

「あたしが、要らないから、お、追い出したいの……」

「違う」

 懸命に訴えているのに相手にされていないような言葉に枷が外れたミクは今までの会話で一番大きな声を出した。

「ウソだぁぁ!」

 大声で叫んだ拍子に目から涙が溢れ出した。

「ウソだよぉ、ウソだっ、よ……ししよぉ~……」

 予想しなかった反応にモルテは面食らっていたが表情は平常であった。

 だが、さらに予想していなかった言葉がミクの口から飛び出た。

「し、ししょぉは、あたしっとファズをすて、てどこかに、いっちゃうんでしょ……?そうなの?」

 泣きじゃくりながら語られた不意打ちにモルテは驚き、先程まで何一つとして動かさなかった表情を僅に現して言葉を失った。

「ししよおぉのばかぁぁぁっ!」

 涙をボロボロと流して言いたいことを言うと、椅子から勢いよく立ち上がりドタドタと足音を立ててリビングから出て行ってしまった。

 モルテは何も出来なかった。動くことも声をかけて呼び止めることが出来なかった。

 その間、階段を乱暴にかけ上がる音が響いたような気がした。


 階段を乱暴にかけ上がる音が聞こえなくなると、ようやくモルテは息を吐き、肩を落とした。

「急ぎすぎたか」

 ミクを一刻も早く周りの子供と同じ環境に戻してやりたいという思いが傷付けてることとなってしまった。

 反発があることは予想できていたから覚悟していた。だが、いずれ出ていくことを知っていることを思ってもおらず驚かされた。

「上手くいかないものだ」

 予期せぬ反応にどうしたものかとモルテはまだ動揺している気持ちを無理矢理変えさせて考え込んでしまった。

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