原因解決
大男はモルテがどの様に動くか考えていた。
最初の攻撃は完全に不意討ちを狙っていたのだが避けられてしまった。
「ひょろいがまあまあ強い」という認識を「ひょろいが強い」と改めてどの様に殴り倒そうか考えていた。
僅かな間。それはモルテと大男の二人がお互いにどの様にして倒そうかと考えていた時であり、何も知らない第三者には分からない何かが行われているように見えていた。
「何をしているんだ!さっさと倒せ!」
均衡に耐えきれなくなった頭が大男にモルテを倒すようにと叫んだ。
その言葉を合図に大男はモルテへと走りだし、最初と変わらない拳を振りかざした。
それを余裕を持ってギリギリで避けるモルテ。
だが、それが大男の狙い。大男はすぐさまモルテの襟首を乱暴に握った。
「店長!」
その様子にディオスが叫んだ。
今まで一度も相手に捕らえられていなかったモルテが捕らえられただけにディオスはこのまま倒されてしまうと思い混乱していた。
モルテが無表情である事を知らずに。
「ふん!」
大男はモルテを掴んだまま勢いをつけるように反転すると、そのまま地面へと叩きつけようと宙に振り上げた。何故か思ったよりもモルテが重く感じた為に振り上げる時間が長くなったが。
宙に上げたその時、大男の襟首を掴んだ。
「なっ!?」
僅かに驚いた大男の声などモルテには聞こえなかった。
宙に上げられていたモルテはそのまま自身の体の力を抜いて重くしてた体と叩きつけようとする勢いを合わせた。そして、体の体制を変えながら大男の懐へと滑り込み、そのまま大男を投げ飛ばした。
驚く暇もなかった大男は受け身を取る事も出来ずに背中から落ち、呻き声を僅かに上げると気絶した。
その光景にディオス母子三人と頭は茫然とした。
「さて」
モルテは驚いた表情の頭に体を向けた。モルテの表情はようやく邪魔者がいなくなり思う存分出来るというような笑みを浮かべていた。
「ひいっ!」
モルテの様子に気づいて頭が短い悲鳴を上げた。モルテが一歩近づく度に頭は顔を青くしながら後退していた。
「ま、待ってください!」
その時、ディオスがモルテを呼び止めた。
「首を貰うって、殺すつもりなんですか?」
ディオスはモルテから二度も嘘が苦手と聞かされている。そして、今回はそれをやるだけの行動力があると感じさせられた。それだけにモルテが有言実行するのではと恐れている。
別にモルテが殺そうとしている相手が憎くない訳ではない。だが、目の前で殺されるのを見るのは気持ちがいいものではないし好きでもない。
そんなディオスにモルテは呆れた様子を向けた。
「何を言っている?私は殺すとは一言も言っていない」
「で、でも、切ってもいいならって……」
「冗談に決まっているだろ」
「えぇぇぇぇぇ!?」
聞き捨てならない一言にディオスは叫んだ。シンシアとユリシアも叫ばなかったがディオスと同じように驚いていた。
「こいつらが誤解をしたからそう言ったまでだ。言い忘れていたが、私は嘘は苦手だが冗談はある程度言える」
予想もしていなかった言葉に全員言葉を失った。と言うか、あれは冗談ではないだろうとさえ思っている。
その時、怯えている頭の後ろから幾つもの明かりが照らされた。
「見つけたぞ!」
声に頭が振り返ると、そこにいたのはアドルフおよび十名の警察が立っていた。
「貴様らを逮捕する!」
アドルフは頭に向けて叫んだ。
頭は逃げられる場所はないかと周りを慌てて見回し始めた。
そんな頭にモルテは冷たい声で指差した。
「だから言っただろ。貴様の首を貰うと」
モルテの言葉に頭は首と言う言葉が何を示しているのか理解し、その場に崩れ落ちた。
アドルフは逮捕した男たちが護送車に乗せられるのを見ながらモルテにぼやいた。
「全く、奴らについてさらに掘り返さないといけないとは……」
「そこはアドルの仕事だ。葬儀屋の仕事ではない」
「弁償金の為に警察を動かして逮捕にこぎつけさせた葬儀屋店長が言う台詞か!」
もう役目は終わったと言うモルテにアドルフは表情を剣幕にして言った。
「本当の事だ。私はこれ以上被害に会いたくなかっただけだ。」
「それならあの坊主を雇わなければいいだけだろう?」
「それが理由で雇わないのはおかしいだろう。辞めるなら別だが」
その言葉を聞いたアドルフが驚いた表情をモルテに向けた。
「辞めるなら別だがって、まさか……」
アドルフの続きを遮りモルテは言った。
「原因が解決した今、あとは適任者に任せるだけだ」
「警察嫌いのくせに……」
モルテの言葉にアドルフはさっきまで驚いていた様子を忘れて呆れて頭をかかえた。




