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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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拗ねるディオス

 種を全て植えて水やりもやってしまうとやることがなくなったミクとユリシアはリビングてファズマが作ったクッキーを頬張っていた。

「おいしい!」

「うん、とってもおいしい!」

「どーも」

 無我夢中、幸せそうな表情でクッキーを食べる二人の様子に微笑ましく思うファズマ。

「こんなにサクサクでバターの風味と香りがとてもいいです。食べた時に口の中に広がっていく感じ。前のお家で食べたクッキーよりもおいしい!」

「そんなに!?」

 クッキーの感想を言えるだけ述べたユリシアにミクが驚いた。

「前のお家のクッキーはもう少し甘かったの。だけど、ファズマさんが作ったクッキーはちょうどいいの。それにね、食べて舌にのせた時の感覚に違和感がないの」

「そりゃレシピが良かったからだな」

 ユリシアの評価にファズマは嬉しい表情を浮かべると、クッキーのレシピを教えてくれたクラーラのことを思い出した。


 葬儀屋で仕事を任される前にクラーラが営む店で修業に出された時は色々と不満であった。

 だが、クラーラは不満を抱えていたファズマを知った上で受け入れ、優しく、厳しく指導をした。

 修業としてクラーラが営む店の店番から、やるとは思っていなかった菓子作りの手伝いまでやらされることとなったが。ある程度店番が出来ると合格を出し、別れる直前に合格証としてファズマに渡したのが店で出していた菓子のレシピ数種類であった。

 葬儀屋フネーラへ戻るとレシピを見て作ることがなかったが、ミクが住むことになると気紛れでクッキーを作ってみた。

 だが、結果は惨敗。いくらモルテとクラーラから料理における基本を教わっていたとしても味や舌触りに均一間がなく、なによりもクラーラが作ったような味にならなかったことがファズマはショックでしかなかった。

 そして、お節介だが恩師が作った思いでの味を追求するあまりいつの間にか料理を自分からするようになり、それと平行して菓子作りの腕も上がったことで誰からもその腕を認められるようになった。

 だが、まだファズマは納得してはいない。

 料理はモルテだが、菓子はクラーラ。まだこの二人には遥かに及ばないと。


(たく、あのお節介からどうやったらこんなクッキーが生まれんだ?)

 尊敬はするが同時にどうしょうもない人で苦手意識があるクラーラのことを思っていたファズマが突然内心で毒づいた。

 すると突然、向かいからどす黒い視線を感じたファズマは呆れた様子で見た。

「何まだ拗ねてんだ?」

「拗ねてない」

「いや、拗ねてるな」

「拗ねてない」

「拗ねている」

「拗ねてない!」

 物凄い剣幕で睨み付けて否定するディオスにファズマは溜め息をついた。


 ミクとユリシアが水やりをする際に手伝おうかと言うと、即行で拒絶され、落ち込むどころか拗ねてしまったのである。

 最初に除け者にされた時点で何も言わなければよかったのだが、恒例行事に参加したいと思う気持ちとユリシアの兄として良いところを見せたいという気持ちがディオスに要らぬことをさせて拗ねてしまったのだ。

 しかも、ファズマがクッキーを作り、それを二人が美味しいと女の子らしからぬ勢い、頬張っている様子にディオスは心を鷲掴みにしているファズマにも拗ねてしまっているのである。


 ファズマの一悶着にそっぽを向いたディオスを見たユリシアがクッキーを食べていた口を止めて目を丸くした。

「どうしたのユリシア?」

「えっとね、お兄ちゃんがそんなふうにするの始めて見たから驚いちゃって……」

 ユリシアの様子に気がついたミクが尋ねると、言葉足りながらディオスが拗ねる様子を始めて見たと言う。

「ディオスが?」

「言われて見れば、大袈裟に驚いたりするのは見たことあるが拗ねるのは始めてだな」

「俺だって拗ねる時くらいはあるよ」

「いや、もう一度言うが拗ねるのは始めてだからな」

 ユリシアの言葉にそう言えばと頷くファズマとミク。それにディオスが会話によっていくらか冷静になって否定するもファズマがすかさず切り捨てた。

「お兄ちゃんが驚くの?」

 すると、ファズマの言葉を聞いたユリシアがこれまた意外と尋ねた。

「ここに来てから驚きっぱなしで叫ぶからな。なあミク」

「うん。いっぱい驚いて大きい声出してるよ」

「そう驚く、叫ぶって言わないでくれよ。確かに沢山驚いているけど、ここがあまりにも普通じゃないからだ!」

 目を丸くして驚くユリシアにファズマとミクが面白いものを吹き込む勢いで教える様子にディオスが慌ててその理由を述べる。このままでは要らぬことを言われそうで怖いからだ。

 三人の様子を見ていたユリシアはぽつりと呟いた。

「お兄ちゃん、やっぱり変わったね」

「え?」

 ユリシアの思いもよらない一言に会話は止まり、ディオスはユリシアの顔を見た。

「前のお家にいた時と違っていっぱいしゃべる」

「そうかな?」

「うん。それとね、何だか明るい」

「明るい?」

 ディオスの疑問符にユリシアが難しい表情を浮かべた。

「えっとね、上手に話せないんだけどね、前のお兄ちゃんは暗かったの。だけどね、今のお兄ちゃんはすっごく明るいの?」

 ユリシアの言葉を聞いた三人のはその意味を読み解こうと考え込んだ。


「言われてみれば……」

 ユリシアの言葉に心当たりに思い当たったディオス。はっきり言って変化前はあまりいいものではなかった。

(あれ?)

 そう考えると何か思い当たることに当たり、泡のように消えていった。

(何だったんだ?)

 消えたそれが何なのか。その泡をディオスは頭の隅で懸命に思い出そうとしていた。

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