種植え
葬儀屋フネーラの店の前では張り切った様子のミクがスコップを持ってはしゃいでいた。
「よ~し、植えるよ!」
土が入った鉢植えを正面にして、オーと腕を大きく上げる。
「気合い入ってるね」
「うん」
ミクの張り切り様にディオスはこれを楽しみにしていたのだということを感じた。
葬儀屋フネーラ恒例の種上に初参加となったディオスはミクの助手という形で参加をすることとなった。
きっかけは朝食の席におけるモルテの一言だった。
「ミク、昨年実った種だが、もう植えてもいいぞ」
それを聞いたミクがいつもは遅く、残してしまう朝食を全て食べきり一番で片づけると準備に取りかかった。
その行動にディオスが目を丸くしている声がかけられた。
「ディオスにも参加をしてもらおう。ミクの手伝いとして」
「あの、一体何を?」
モルテの言葉にディオスはミクの行動が意味するのが分からず尋ねた。
「種植えだ」
「種植え?」
「さっき店長が言ってたろ?去年植えた種があんだよ」
「そういえば花を植えるとか前に話してたはず……」
モルテとファズマの言葉にディオスは前にミクの趣味で種から花を育てていることを思い出した。
「んなことも話してたな。まあ、毎年やっていることだから店で恒例行事となっている。それをディオスもやれってことだ」
そういうことなのかと納得したディオスはミクの手伝いを引き受けた。
種植えはしたことがないので初挑戦となる。意外にもディオスは話を聞いた時点で楽しみに思っていたのだ。
ミクは服のポケットから昨年植えた種が入った袋を取り出した。
「ところで、何を植えるんだ?」
「えっとね……」
ディオスの質問にミクが答えようとした時だった。
「お兄ちゃーん!ミクちゃーん!」
「ユ、ユリシア」
突然二人を呼ぶ声に驚いたディオスとミクは声のする方を見てユリシアが走って来ている様子を目にしてまた驚いた。
ユリシアはそのまま二人に近づくと、ディオスに抱きついた。
「お兄ちゃん、ミクちゃん、会いたかった」
「会いたかったって、昨日会ったじゃないか」
「いいの。ミクちゃんも会いたかった」
「うん」
ディオスに抱きついていたユリシアはミクにも抱きついた。
相変わらず甘えてくる様子にディオスは表情では困ってしまうも内心ては微笑ましいかもと思ってしまっている。
「何だ一体?お、客か。いらっしゃいユリシア」
「はい」
外の様子が何やら騒がしいと感じたファズマが扉を開けて覗きに来た。
来客がユリシアと見るとファズマは店番として尋ねた。
「今日はどうしたんだ?」
「はい。店長さんがおもしろいことをしているからって聞いたので来ました」
「店長が?」
ユリシアの言葉にモルテが出たことにディオスとファズマは顔を見合わせた。
「店長が家に?」
「うん。ママとお話ししたいって来たの」
「だから店長、飯食ってすぐに出掛けたのか」
どうしてモルテがディオスの家にいるのか聞いたディオスの質問に答えたユリシアの言葉から、朝の行動に納得したファズマは腕を組んだ。
「だけど、話って何だろう?」
だが、モルテが何を目的にしてシンシアを訪れたのか分からないディオスは頭を捻った。
「ねえねえ、お兄ちゃん、何をしようとしてたの?」
「ん?種植えだよ」
「種植え?」
ディオスの言葉に種植え経験のないユリシアは首を傾げた。
「種を植えれば花になるのは知っているか?今から花を育てる為に種を植えんだ」
「すごーい!すごいすごい!お店でお花も育てているんだねお兄ちゃん」
種植えがどの様なものなのか説明したファズマの言葉にユリシアは輝かせた目をディオスに向けた。
「ねえ、お兄ちゃん。私も種植えやってみたい!いい?」
「俺はいいと思うけど……」
「いいんじゃねえか?ミクは?」
「いいよ」
「やった!」
自分の要求に全員から許可をもらったユリシアは飛び上がらんばかりに喜んだ。
ユリシアの様子を同じように嬉しく見ていたディオスはふと思い出してミクに尋ねた。
「それで、さっきの続きだけど、何を植えるの?」
「えっとね、デージー、カーネーション、チューリップ、パンジーだよ」
「いっぱい植えるんだね」
ミクは植える種の名前を上げるとユリシアがまた目を輝かせた。
「それじゃ楽しんで行ってくれ。ディオス、後は頼むぞ」
「うん」
今年の種植えは賑やかになると感じたファズマはその場をディオスに全て任せることとして店内へと戻って店番を勤めることとした。
どうして種植えをしているのかは次回に。




