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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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弟子達の思い出

 次に向かった墓石には既に花束が供えられていた。

「誰か来てたんだね」

「クラーラさんにはたくさんお世話になった人がいるからその誰かかもしれない」

 供えられている花束を見て呟いたアンナにフランコが静かに頷いた。

「クラーラさん?」

 唯一面識のないディオスがまたファズマにどんな人物なのかとファズマに尋ねる。

「クラーラは……お節介な人だ」

「え?」

「ファズマ!」

 ファズマのおおざっぱな説明にアリアーナが咎めるように声を上げた。

「何言ってるのよ。私達皆、特にファズマがクラーラのお世話になっているのよ」

「分かってんよんなこたぁ」

 アリアーナの問いつめにファズマは素っ気ない態度を取って視界から外した。

「えっと、どういう……」

「質問の前に、はい、これ」

 二人の言葉と様子に続けて聞こうとディオスは口を開くもアンナが割って入り供える花を渡した。

「もう一つの墓にも花を供えたら説明するね」

 反射的に花を受け取って話を中断されたことに不満そうな表情を浮かべたディオスにロレッタが終わってから説明すると言った。

 ディオスはその言葉を飲み込むと墓石に花を置いた。


 全員が花を供えたのを見たアリアーナは祈りの言葉を唱えた。

天国(シエラ)に赴かれた魂達に祈り奉る。願わくばこの祈りがそなた達の安らぎとなり神に祝福されんことを」

 そして黙祷。七人に静かな沈黙が流れた。感覚としては長く、けれど現実では短い時間が流れて七人は顔を見合わせた。

「それじゃ、あと一つ行こう」

 エミリアの言葉に全員が頷くと次の場所へと歩きだした。

 全員がその場を後にしようとした直前、ファズマが振り返り墓石に会釈をした。そして、早足で先に歩く六人の後を追った。


 ところで、一人の今は亡き者の為に唱えている聖句だが、その聖句が複数人数を指しており、それを何も違和感なく唱えていることにお気づきであろうか。

 聖句の一文が載せられている聖典はロード教のものであるのだが、ロード教では弔う時にただ一人の亡き者に唱える祈りはない。

 ロード教では先に亡くなった先人達に新たな亡き者の存在を教え共に安らぐようにと意味が込められている。

 つまり、一人に対してではなく複数に安らぎを持ってほしいという意味が込められている。一人に対しての祈りなど名前も存在も知らない先人達に失礼でしかないからである。

 だからロード教では複数に祈る聖句の唱えは遥か長い時間をかけて人々が何も違和感なく聖句を唱えて聞き入るものとなっている。


 最後に訪れた墓石に着くとアンナが早々にしゃがんで花を供えた。

「マテイさんこんにちは」

 一声かけて供えた花が風に揺れて転がり、まるでこんにちはと返してきたようだった。

 アンナは花束に残っている花を全て配った。

 そして、全員が花を供えたのを見て再びしゃがむと聖句を唱えた。

「天国に赴かれた魂達に祈り奉る。願わくばこの祈りがそなた達の安らぎとなり神に祝福されんことを」

 本日最後の黙祷は長く感じられた。それは面識のないディオスもそうだった。亡くなった者達が安らぐように祈ることを誰もが子供のころから言い聞かせられて知っているからである。


 黙祷が終わりまた全員が顔を見合わせると、ディオスは話を切り出した。

「彼らは一体、どういう人達だったんですか?」

 ディオスは亡くなった彼らが死神であり6年前の事件で亡くなったとしか聞かされていない。だから、死神以外でどういう人物なのか、ファズマ達が慕っていると感じた。だからその様子から知りたくなったのだ。

「まずはグイド叔父さんから話すね」

 ディオスの言葉に何も躊躇なくロレッタが話し始めた。

「グイドさんは私の叔父さんなのよ。リーヴィオ先生の後輩。医者としても死神としても」

 そこはファズマから聞かされていたがディオスは頷いた。

「私はね、小さい頃からグイドさんが死神と知っていたの。私にしか話さなかったのよ。死神がどんな存在でありどんなに辛いかも。けれど、グイドさんはそれが誰でも出来るものではなくてそれが出来ることを誇っていたの。だから私も死神になりたくてグイドさんに弟子にしてもらう約束をしていたの。だけど、あの事件で、死神で最初に殺されたの」

 思い出に浸かりながら話すロレッタは最後に悲しそうな表情を浮かべた。


「その後に殺されたのがクラーラとマテイだ」

 次いでファズマも口を開いたがどこか表情が暗く感じられる。

「クラーラは市場で菓子を作る店を営んでいたんだが、根っからのお人好しで俺らにしょっちゅうお節介をかいていたんだ」

「とか何とか、嫌そうな風に言ってるけどファズマが一番お世話になってるんだからね」

「うっせ!」

 クラーラのことをまるで厄介者のように話すファズマにアンナが茶々を入れた。

 アンナの言葉にファズマがどれくらいクラーラの世話になったのか聞き出した。

「具体的には?」

「住み込みでお手伝い。お店で仕事する前に接客と会計、あとは文字の読み書きを営業中に問題なく出来るようにってモルテさんに修業って言われて預けられていた頃があったの」

「言うな!」

 アンナの説明にファズマが慌てて避けんだのを見たディオスはよっぽどその時にお世話になったのだろうと思った。


「マテイさんは私とアンナの父さんの弟子だったの」

 ファズマとアンナが騒ぎだしたのにこれでは説明出来ないとアリアーナがマテイについて話し始めた。

「お店で働いてくれて、私達にも良くしてくれていたの。だから、殺された時はショックだった。死神としてやらないといけないと分かっていてもショックだったの。誰も殺される理由なんてないのに死んでしまったことに……」

 アリアーナから今も忘れることが出来ないその気持ちを感じたディオスは思った。


 ここにいる死神の弟子達は死神達からたくさんの感謝と思い出を持っており、それを今も忘れまいということを。

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