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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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モルテの後悔

 道具屋から言われた言葉を考えていたモルテの脳裏に6年前の事件、初めてミクと出会ったことを思い出した。


  * * *


 あれはネストレが残虐したミクの家族の遺体を一ヶ所に集めた時だった。

「酷い殺され方だ……」

 善良な警官の口から遺体の悲惨な状態が出た。中には腕や足がないのもあり何度目にしても遺体の状態に慣れることはなくその酷さを口にしてしまう。

「全員致命傷の傷だ。恐らく死ぬまで何度も切られたのだろう」

 異変に駆けつけてネストレを殺したモルテはアドルフから事情聴取をされた後に遺体の確認と死因を可能な限り詳しく調べていた。

 アドルフがモルテと同じ死神だから事情聴取は短く、真実を知っているから遺体の確認を頼まれているだけで他の警部といった現場の責任者ではこういったことはない。

「だが、致命傷とはいえ全て首が切られている」

「無関係なのに殺す意味ってあるのか?」

「そもそも首って、何で?」

 ネストレが全て残虐した遺体には共通して首が鋭い刃物で切られている。その様子を述べたモルテに警官達が小声でざわつき出した。

 ざわつく警官達を余所にモルテとアドルフは短く祈りの言葉を唱えた。

天国(シエラ)に赴かれた魂達よ安らかなれ」

 モルテとアドルフは死神であるから知っていた。墜ちた死神の特徴として首を切りつける殺し方が統一されていることを。

 どうして墜ちた死神が最後に命を刈る為に首を切るか分かっていない。だが、この特徴があるから死神達は死神の力も合わせて墜ちた死神の仕業かどうか見極めることが出来る。

「ネストレの遺体は?」

「既に別の場所に」

「そうか。上が寄越せと詰めかけて来るかもしれない。別の場所に移動したのはさすがだ。全員、場所については口にするな!」

 アドルフは後ろに控えている部下達に尋ねるとその手際に誉めた。

 ネストレの遺体と残虐された遺体を一緒にしては残虐された側が報われない。ネストレの遺体を移動させた警官もそれを思ったからこういった行動をしたのだ。

「これで全員か?」

「そ、それが……」

 アドルフが次いで問いた言葉に警官達が気まずい表情を浮かべた。

「あと一人、この家に住む女の子がいません」

「あのな、そう言うことは早く言え」

「すみません」

 恐る恐る述べた警官の言葉にアドルフは呆れて報告が遅いことを咎め、まだ住人がいるという事実にモルテは驚いた。

 アドルフは一つ息を吐くと目付きが変わった。

「まだこの家の中にいるかもしれない。探せ!」

「は!」

 アドルフの指示に警官達が捜索を開始した。

「アドルフ、私も手を貸そう」

「頼む」

 アドルフに手伝いを申し出たモルテ。とはいえ目に死神の力を纏わせれば簡単に見つかるわけで、モルテは言ってすぐにそれを行なおうとして、

 カコン

 と小さい音にモルテとアドルフは体が固まった。

 二人は顔を見合わせるとどこから音が響いたのかと慎重に周りを見渡す。装飾品が落ちた様子はない。

 ではどこからとモルテとアドルフは同時に目に死神の力を纏わせた。そして、二人の視線はクローゼットで止まった。

「まさか……!」

 先に動いたのはモルテだった。

 自分が見たものを信じてモルテは急いでクローゼットの扉を開けた。

 クローゼットの中にいたのはまだ幼い小さい女の子だった。女の子は瞬きをして不思議そうにモルテを見たが、モルテの中ではどうしよもならない感情が溢れて優しく抱きしめた。

「生きていてくれてありがとう」

 同胞であった死神が起こした取り返しのつかない事件の唯一の生存者にかけた言葉は嬉しさと安堵、そして謝罪が含まれていた。


  * * *


 その後ミクをどうするかと話し合われた。その矢先に死神の目を持っていると発覚したこととミクの両親の父母が引き取りを拒否した為に死神であるモルテが引き取ることとなった。

 最も見つけた時からミクがモルテになついてしまったというのもあるが、その後のモルテは自身の行いを悔やんだ。

「思えば私も取り返しのつかないことをしたものだ」


 事件が終わってもなお警察の対応の批判さが高まる中でモルテはこの事件を利用することでアシュミスト住人を味方につけて統治議会と警察のやり方を大いに批判した。

 効果は絶大であった。ミクの名前は出さなかったが新聞や噂で唯一の生存者が幼い子供だけというのはあまりにも犠牲が多いことを全員が感じていがより強く動かしていたのは恐怖であった。

 憐れみと恐怖という感情が住人を動かしたことで統治議会の議長と副議長を含む議員達は議会から追放される形で辞任させられ、警察も首都から来た警察官とアドルフ達により改革された。

 この事件と多くの汚職が発覚したことでアシュミストの評価は大いに下がり観光客が多く来なくなったことで資金源が減り苦しくなったがその変わりに住人は暮らしやすくなったことに喜んだ。そして、観光客の数も回復の見込みになったがモルテだけは違った。

 モルテはミクの存在を利用したことで改革を成功させたがそれを知らないミクに申し訳ない思いと亡くなったミクの家族に会わせる顔がなかった。

 だからモルテはそういった改革を自粛することを決め、償いとしてミクが独り立ち出来るまで育てることを決めた。


「上手くいかないものだ」

 だが、幼い女の子を育てるのが初めてであるモルテは苦戦を強いられた。

 小さい子供を育てたことはあるが全て男の子であったし女の子となると12歳からしか育てたことがない。

「踏み出せ、か」

 モルテはもしかしたら自身の事情と後悔からミクを避けているのではと思い至る。自分が下がるとミクは近づこうと迫ってくる。まるで赤子がぬくもりを求めているかのように。

「……まずは目先の問題を片付けなければならないか」

 モルテはどうするかと考えると椅子から立ち上がり空になったカップをキッチンへと持って行った。

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