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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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ファズマの不安

 外が暗くなりこの日も無事に営業を終えた葬儀屋フネーラの住居区にあるキッチンではファズマが難しい顔をしながらお湯を沸かしていた。

 難しい顔をして考えているのはディオスとミクのことだ。

 ディオスにミクの過去を話してからその様子はどこか思い詰めてしまった様に見えたがそれ以上の問題が見つかったことに頭を悩ましていた。

(もう大丈夫かと思ったんだがな)

 見つけてしまったからにはこのままでいいとは思えない。それと同じ様に、いや、それ以上にミクも問題を抱えている。


 どうするかと悩みながら予め準備していた二つのカップの一つに布製のフィルターであるネルフィルターをセットすると挽いたばかりのコーヒーの粉を入れると慣れた手つきでお湯を淹れた。

 二杯のコーヒーを淹れる間は先程まで考えていたことを中断させる。そうしなければいつも飲み慣れている舌触りにならないからだ。

 そして二杯のコーヒーが出来るとリビングへと持って行った。

「店長、コーヒーです」

「ふむ」

 リビングのテーブルで仕事の後片付けをしているモルテの前にコーヒーを置くとファズマはいつも座っている椅子に座った。


 葬儀屋フネーラで起きているのはモルテとファズマだけ。ミクはこの時間は既に寝ているしディオスは珍しく復習を早めに切り上げて就寝している。

 今ディオスとミクがいないことはもしかしたらいいことなのだろう。出来れば聞かれたくないし言うなら今であるとファズマはモルテに切り出した。

「店長、少しいいですか?」

「何だ?」

 ファズマの低い声のトーンに違和感を感じたモルテは手を止めてファズマを見た。

「ディオスにミクのことを話しました」

「そうか。この日がくれば気になり尋ねてくると思っていたが、それがどうかしたのか?」

「また良くないものを見ました」

 ファズマの重たい声にモルテは目を細めた。

「どんなものだ?」

「ディオスは優しすぎて何でも抱え込もうとします」

 ファズマの言葉にモルテは目を閉じた。その間二人は一言も話さず沈黙が漂い、ようやく目を開けたモルテはテーブルに置かれたカップを手に取ると入っているコーヒーを飲んだ。

「そうだな。ディオスは優しすぎる」

 これまでディオスの様子を見てきたモルテもファズマが言った言葉に同意をした。

「それに決めなければならない所では決めることが出来ない。いささか優柔不断だ」

 優しすぎるあまり有事のことに決断力がないことを心配だと口にした。


 ディオスに死神の事を話して納得させることは出来たが墜ちた死神についてまだ納得出来てはいないとモルテは思っている。

 普通なら墜ちた死神の対処を聞かされると驚きや反発はあっても最終的には仕方がないことであるのだと飲み込むのであるがディオスは未だにそれが出来ていない。

 それはモルテとファズマが感じたようにディオスがあまりにも優しすぎるからである。

 優しすぎることはいいことなのではと思うかもしれないがそうではない。優しすぎは世間における優しさの合理とかけ離れたもので数ある罪をなかなか許すことが出来ず、可哀想だと思う者を自身のことのように思い込み抱え込んでしまうものである。

 ディオスはそれに当てはまっている。罪である殺しに否定的であり、血を分けてもらった家族がいないことに憐れみを抱いてしまっているのである。自分も父親が亡くなっているのにも関わらず憐れんでいる。

 モルテがかつてディオスについて考えて出さなかった答えが今ここで出たのだ。


「ディオスのことは時間が解決するだろうがこちらが支えていくしかないだろう。もしかしたらディオスはまだ見極めているのかもしれん」

 ディオスが時間をかけて死神の後ろめたい部分に納得してくれることを信じてモルテはまたコーヒーを飲んだん。

「それと、ミクですがこのままにするつもりですか?」

 ファズマがもう一つの問題を口にした。その言葉にモルテの表情が先程までとは違い思い詰めた様子になった。

「ミクは時間をかけすぎたな」

「かけすぎです」

 自身の行いを嘲笑うように切り捨てたモルテの一言にファズマも便乗してきつく言い切った。

「そろそろどうにかしなければなりませんよ。ミクが学校に行きたくないって言ってから2年経ちます」

「ふむ」

 ファズマの言葉にモルテは腕を組んで考え込んでしまった。


 ミクを引き取ってかモルテは周りの子供と同じように育てたつもりでいる。

 つもりというのはアシュミストに一時的に腰を下ろす前は流であったために今の子供をどの様にするのか分からなかったからである。

 それをアシュミストの死神達に言ったら呆れられたが教えてもらいどうにか周りと同じように育てていると思う。大きいことは学校に行かせることが出来たことである。

 モルテが暴れ回って統治方針の改正に成功させたことで子供達は学校へと通いやすくなった。

 もちろんそれがあったからミクも6歳の時に学校へと通わせた。だが、今から2年前にミクが突然学校へ行きたくないと言い出した。

 いじめや学校に馴染めていないということは聞いたこともないし調べてもなかったのに何故と驚いたがミクが駄々をこねた為にモルテが渋々承諾をして学校へは行かせていない。いずれ自分から行きたいと思うだろうと思ったがその様子は今のところない。

 さらにミクはモルテのことを突然師匠と呼び出した。引き取られてからママとしか言わなかったミクが突然呼び方を変えたことにも驚いたがモルテは気にせずにそのまま言わせている。


 誰も話さない沈黙に耐えきれなくなりファズマは息を吐いた。

「もしかしたらミクは店長がいなくなるかもしれないことを感じているんじゃ……」

「かもしれんな」

 当時のミクの変化を思い出してファズマはもしかしてと言うとモルテが静かに同意した。

「だが、感じているだけだ。私の口から詳しく話すことになるがそろそろこの状況をどうにかしなければならない」

「……酷いですね」

「ミクが一人でも生きられるようになるためだ。酷くても必要なことであるなら私はどのようなことでも耐える覚悟をしている」

 ミクのことを思うと傷つけたくないと思うがそれではいけないことをモルテはミクが学校に行かなくなってから思い知らされた。

 傷つけない育て方などこの世にはないことを改めて思い知らされた。

 モルテはファズマとの会話を気っかけに改めてミクの為に何をするべきかと考え始めた。

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