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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
6章 死神と少女
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事件が終わった前夜

 この日もエノテカーナは客足が遠くあまり酒をのみに来る客が訪れなかった。理由についてエノテカーナのマスターであるレナードには心当たりがある。

 いつもこの時期になると客足が遠くなり閉店まで客が居ることがないのである。それはエノテカーナに限ったことではない。アシュミスト全体で夜間営業をする店に客が来ないのである。

 だが、そんな客足が遠くなる時期でも物好きな客がいるというものである。今はその客が一人、モルテがいつも頼んでいるカクテルを静かに飲んでいた。

「コーヒー・ラム・フロートを」

「かしこまりました」

 モルテがカクテルを追加注文するとレナードはマスターとして承ると早速作り始めた。

 すると、客足が遠くなる時期にまた一人、物好きな客が扉を開けた際になったドアベルの音を響かせながら店内へと入って来た。

「いらっしゃいませ」

「やはりここにいたかモルテ」

 レナードが声をかけるもその客、アドルフはカウンターで飲んでいるモルテを見つけると呆れた様子を浮かべた。

「いたら悪いか?」

「悪いとは言わないが……」

 アドルフの言葉に不機嫌を張り付けるモルテ。その表情と言葉にアドルフは言葉が出ず呆れたまま隣に座った。

「シャンディ・ガフを」

「かしこまりました」

 アドルフもレナードにいつも頼んでいるカクテルを注文すると溜め息をついて言い出せなかった言葉を言った。

「何杯飲んだ?明日もあるんだ、控えろよ」

「分かっている」

 モルテから返ってきた言葉にアドルフは本当に分かっているのかという疑惑の表情を向けた。

「そっちはどうだ?」

「良くもなく悪くもない……いや、緊張感がないな。事件はまだ調査中となっているが、それでもこれ以上起こらないと思っているのかどこか抜けている」

「……いかされていないな」

「頭が痛いな」

 モルテから尋ねられた言葉にアドルフは申し訳なさそうに言う。

 堕ちた死神となったジーナが死んでから半月が経とうとしていた。

 アシュミストでジーナは五人目の被害者とされ若い女性を五人も殺した犯人に恐怖を抱いていたがそれ以降は殺人事件がなくなったことでようなく日常の生活へと戻っていたのだが、それはほんの一瞬に過ぎなかった。

 アシュミストではこの時期になると遅くまで仕事をしている者でも急いで帰路へとつき家族の無事を確認し安心したいがために夜には誰も出歩かないし店も早く閉じる。

 それは6年前のある事件、今回ジーナが引き起こした事件が微塵に思うくらいの大虐殺があったから。その事件があったためにアシュミストの住人は家族が生きていることを確認したい為に早く帰るようになった。つまり、まだ当時の恐怖が残っているのである。

「しかも、上はもっと安心している。事件が今日まで延びることなくそれに対する批判がないことにな」

「まったく、何も分かっていないな」

 アドルフの愚痴に近い暴露話を聞いたモルテはさらに不機嫌な表情になるとカクテルを一気飲みした。

 実はジーナが起こした事件とアシュミストで6年前に起きた事件は時期が非常に近かったのである。

 ジーナが起こした事件が6年前に起きた事件まで起きたとなったら、対応出来ない警察に批判が集中し、さらには信用の低下に繋がるのである。ジーナが起こした事件の批判はまだ序の口、本当に警察が恐れていたのはジーナの事件が6年前の事件の時期と合わさり当時の事件の対応を再び批判されることだったのだ。

 だから、それがなくなり気を緩めた警察署上層部の様子を聞いたモルテは怒りが込み上げてきそうな気持ちをカクテル一気飲みで堪えたのである。

「少しばかりお灸をそえた方がいいかもしれんな」

「まったくだ。上の頭が痛くなる何かがあればいいんだが……」

 そう言って再び頭を抱えるアドルフ。

 上層部の緩みきった様子にアドルフは6年前のことを思い出してあの時の苦労はなんだったのかと思い、いっそのこと再び同じことが起きてもいいとまで考えている。

 そんなアドルフをよそにモルテが空になったグラスをレナードに出し追加注文をした。

「コーヒー・ラム・フロート」

「飲みすぎだ!」

「かしこまりました」

「レナード!」

 モルテに待ったをかけたアドルフだが聞き入れられることはなく、レナードがカクテルを作り始めてしまった。

「今日はその辺にしておけ。明日行けなかったとなったら笑い話ではすまないのだからな」

「私がそれを分からないとでも思うか?事件から6年絶つんだ。忘れることがなければしない理由もない」

「ならいい」

 モルテの言葉に一応信じられる気になったアドルフはカクテルを一口飲むと溜め息をついた。

 毎年のこととはいえどうにもこの時期に酒を飲んでもいいものかと思ってしまう自分がいることに驚いている。

「明日で事件が終わったことになっているから警察の方でも準備はすんでいる」

「そうか、私もだ」

 そして明日のことを短く話すと頼んでいたカクテルがモルテへと出された。

 日付が変わればアシュミストにとって最も後ろめたい一日が始まる。

 6年前に何が起きたのか覚えている者が少なくなってきている今、その日が何のためにあるのか習慣として身に付いて欲しいと死神二人は静かにカクテルを飲むのである。

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