死神、三度集合
その日の夜。アシュミストの死神達は再びエノテカーナへと集まっていた。
「ほぉ~んとぉ~にすごかったんだからなぁ~」
「あれを思い出すと本当に敵に回したくないと今でも思うからな」
「だから、どういう感じだったんだ?何となく予想がつくが」
店内でガイウスとリーヴィオがアドルフに昨夜の出来事とモルテを敵に回したくないという話していた。
「鎌をぉ~振っただけでぇバババっとなぁ~」
「リーヴィオ……」
「一振りで斬撃が無数に放たれたんだ」
「やっぱりか……」
あまりにも省略過ぎる説明にアドルフはリーヴィオに詳しく説明を頼むと目線を送らせ、返ってきた説明に予想が当たったと肩を落とした。
「それで、斬撃の数は?」
「8は越えていたと思う」
「少ないように感じるが……」
「斬撃が何度も曲がっていたし一つの斬撃で二回攻撃していたのもあった」
「さすがと言うべきか恐ろしいと言うべきか……」
モルテがジーナの領域を削る為に一振りで放った斬撃のおおよその数がリーヴィオとガイウスが正確な数を把握しきれておらず、さらには斬撃の特性にアドルフは遠い目をした。
ジーナが領域をどれだけ展開していたかアドルフは分からないが多く展開をしていたことは何となく分かる。だが、それを上回り対処したモルテの斬撃に恐ろしいものを感じる。
「そもそも、領域を一撃で削ることが普通ならありえないからな」
「だぁ~けどぉ、そぉれだけモルテが切ることぉ~に長けてるぅ~ってことなんだよねぇ~」
ガイウスがモルテの得意なことを口にしたのにアドルフとリーヴィオは知っているとはいえ納得せざるを得なかった。
モルテはとにかく鎌で切ることを得意としている。もしかしたら切れないものがないのではないかというくらいに鋭くきれいに切る。それは斬撃を放つ時も同じことがい言えるのだが、モルテのすごいところはこれだけではない。切るものを選びそれだけを切ることも出来るのである。それはどんな大同芸者でも出来ないことである。
「今はモルテが味方でよかったと思っておこう」
アドルフの言葉に心の底からそうであるとガイウスとリーヴィオは頷いた。
一方では、
「もう堕ちた死神と戦いたくないしなってほしくもない!」
「それは全死神が思うところでしょう」
マオクラフの心の叫びにレオナルドが同意すると頷いた。
死神とは言え人間である。人間が同じ人間を殺すのは殺人であると意識している為に出来ることなら人殺しをしたくないという思いである。
「そもそも、どうして力を使って殺すのか分からないんだよ!使ったら落ちるっていうのに。それが間違っているっていうのにさ」
「間違いと分かっていながらそれをやらずにいられないのも人間だ。どんなに願おうとも繰り返されてしまうものだ」
「モルテって時々辛いこというよね」
人間のどうしても避けてられない想いを述べたモルテにマオクラフは否定されたような気がして睨んだ。
「けれどよかったのですかモルテ?あなたは今回を含めて二人殺したことになります」
レオナルドは今回の件を気にしてモルテがジーナを殺すことを請け負ったことが大丈夫であったのか尋ねた。
「殺しは殺しだ。一人二人と多くなったところで殺しの前で数など無意味だ。ただ、人殺しという言葉だけがその身に背負わされるだけだ」
実に現実的、されどどこか吹っ切れたような言葉に尋ねたレオナルドはもとよりマオクラフもモルテに言葉が出なかった。
「だが、堕ちた死神より危険なのは私なのかもしれないな」
そして、どこか悲観な目をするモルテ。
「よし、全員いいか?」
そんな会話がなされていると、カウンターからレナードが紙の束を持って声を上げた。
レナードの声に雑談をしていた死神達がレナードへと視線を向けた。
「ようやくニノヘイテから連絡が来た」
「ニノヘイテ?ジーナがいたのはアマンテだったはずだが?」
レナードが述べた地名が違うとアドルフは突っ込むと、レナードは首を横に振った。
「アマンテからは今朝に連絡が来ている。謝罪と止めたことへの感謝が書かれていたが、おかしいと思って各方面に連絡をしたんだ」
「おかしいって何が?」
「どうして他国の死神がここに来たと思う?」
「あ!」
レナードの意図を理解してマオクラフは小さな声を上げた。
そう、ジーナは国外の死神である。そのジーナがわざわざアシュミストで騒ぎを起こしたのか不自然であったのだ。
「まずジーナに関してだが、どうやら恋人がいたらしい」
「恋人、ね……」
レナードの言葉にマオクラフが顔を悪くした。出だしのはずなのに何となく状況が読めてしまったのである。
「その恋人がどうやら二股をかけていたらしくてな。それを知ったジーナが恐らく怒り、二股をかけられていた女を殺した」
「やっぱり……」
予想が当たってしまったとマオクラフは頭を抱えた。
過去に同じ誤解を受けてきただけにそういった逆恨みが怖いのである。
だが、ジーナの恋人であっと男が本当に二股であったかまでは分からない。もしかしたら誤解によるものかも知れないが、見られた時点で運がなかったとしか言いようがない。
「それで、男はどうした?」
「男はそれを見て逃げたらしい。だが、堕ちた死神となったジーナが執拗に追いかけたらしくてな。国外から国外へと逃げ、この国で殺されたらしい」
「おぉ~い、つまりジーナが来たのぉってそぉ~いつが原因じゃないかぁ~!」
「そうだな。しかも、その途中でジーナは多くの女性を殺しているらしい。男の逃走ルートを予報してニノヘイテを含むいくつもの街に調べてもらい裏づけをした」
とんでもない逃走劇により数多くの命が失ったと知り死神達はやりきれない怒りを抱いた。
「もしかして、女ばかりを狙っていたのは恨んでいたから?」
「普通は二股かけた男の方だとおもうんだがな?」
「やっぱり愛かねぇ~?」
各々復讐の相手が違うだろうと言うもガイウスの言葉に言う気を失った。
「だが、もしそうなら堕ちた死神となったジーナは本能よりも殺す対象の執着が強いこととなるな」
「それは、執念からモルテが女であると見破ったと?」
「それは知らん」
それならとモルテが何故ジーナが女ばかりを狙ったのかと理解したように言うと、レオナルドが話の流れからジーナがモルテの性別を見破ったのが執念なのかと言った。
「だけど、最後の最後で俺殺されかけたんだけど?」
「あまりにもしつこかったんだろ。それで殺そうとしたんだろ」
「うわぁぁぁ……」
アドルフのあまりにもあり得そうな答えにマオクラフは再び頭を抱えた。
「アドルフ、ジーナの遺体はどうなる?」
「身元が確認されなければ教会にだろうが……」
「こちらで手を回すしかないということか」
ジーナの遺体がどうなるのか理解するとレナードは頭の隅で計画を立てた。
「とにかく、全員よくやった今日は飲んでくれ」
「いっよぉしゃあぁぁぁ!!」
「ガイウス、声大きい!」
「それじゃ飲ませてもらうぞレナード」
「そう言ってベロベロになってクラウディアさんに叱られても知りませんよ」
「それを言うなぁぁぁ!!」
「コーヒー・ラム・フロートを頼む」
レナードのねぎらいの言葉と酒のおごりにこれで終わったのだと報告会が宴へと変わった。
「マオクラフ、お前は手伝いだ!」
「ええぇぇ!!俺昨日頑張ったのに!?」
自分も酒を飲みたいのだとマオクラフはレナードの言葉に不満そうな表情を浮かべた。
アシュミストを騒がした連続殺人事件に終止符を打った死神達は夜遅くまで飲んでいたのであった。
明日は閑話1話と設定資料(予定)を入れて5章は完結です。




