死神の危険性
次の日の昼。
葬儀屋フネーラではディオスが未だに不満そうな表情を張り付けたまま店内で店番をしていた。
「いい加減に機嫌治せよ……」
そんなディオスにファズマが呆れながら言った。
昨夜にモルテ達が何かしらの行動を起こすと考えていたファズマは何かが起きてもいいようにと徹夜を覚悟して起きていたのだ。
事が事だけにいくら死神、特にモルテを信用しているからと言っても何かが起きた時や必要な時に連絡に出られなかったでは申し訳ないからである。
そして、日付が変わった頃にレオナルドに連れらたディオスが不機嫌を張り付けて帰宅。レオナルドからは今後の後処理の為にモルテの帰宅が遅くなると聞かされた。それは大問題となってしまった生霊騒動でよくあることだから慣れていると頷ずくと、それを見たレオナルドは後処理の為に出て行った。
ディオスはというと、無理矢理葬儀屋フネーラに連れて来られたことと死神の罪を受け入れられずにいた。
「どうして死神が人を殺せるって言わなかったの!」
だから、レオナルドが出て行って早々にディオスはファズマに八つ当たりに近い言葉を放った。
それを聞いたファズマは事情を理解すると敢えて冷たく接した。
「誰も死神が人を殺せないと言ってねえぞ」
ファズマの言葉にディオスはそれは分かっているけどと言いたそうな表情を浮かべるも次に発する言葉が出なかった。
「帰って来たんならそろそろ寝るぞ。明日の朝には店長戻って来るかもしれねえさかそん時に言え」
ちゃっかりディオスへ不満ならモルテに言えとアドバイスをしながらディオスが夜抜けしないように背中を押して寝室へと押し込んだ。
だが、朝になってもモルテは帰って来ず、時間だけが経ち、遂には昼食の時間になっても戻って来ることもなく、気がつけばかなりの時間が経っていた。
さすがに太陽が真上に登った昼になっても葬儀屋フネーラに帰って来る様子を見せないファズマはおかしいと思っていた。
「店長、おせぇ~な」
「うん、遅いね師匠~」
こんなことがなかっただけにどこで何をしているのかと気になるファズマとミク。
一方でディオスは今朝配達された新聞を手に持ち、一面に載せられている記事を見た。
本日未明、商業宿泊街で若い女性の遺体が発見された。遺体にはこれまで犠牲となった女性と同じく首が切られており警察は今まで起きた事件と同様に捜査、身元の確認を急いでいる。―――
さすがに何度も起きているからか文章は短かったが変わりに警察への批判の文章が伝えたい本文の倍を占めていた。
なお、モルテか殺害したジーナの遺体が何故商業街付近にある商業宿泊街にあるかと言うと、今までの事件は一つづつ別の区画街で起こった事件で同じ場所で起こったとなると不自然ではと話になったのだ。それに、ジーナは国外の人間で身元を急いで知りたい警察に誤解を与えないようにとお節介にも取れる気遣いをしたのである。
だから、ジーナの遺体はいかにも観光客と思わせるようにしたのだが、直後に死神達が宿泊システムとジーナがこれまでどうしていたのかと思いだし慌てて裏工作をしたのは余談である。
「どうして死神が同じ死神を止めるために殺さないといけないんだろう?」
新聞を読んだディオスがふと口にした言葉にファズマが呆れて溜め息をついた。
「死神の存在を隠す為だ」
「それはやっぱり力が?」
「そうだ」
ファズマの答えにやっぱりとディオスは体を固めた。
「だったら隠さないで明かせばいいのに!」
「それが出来ねえから隠してんだ」
殺すというのをもう聞きたくないとばかりに叫ぶディオスにファズマが口を開いた。
「店長から聞いた話なんだが、魔女狩りを知ってるか?」
「魔女狩りって600年前にあった?」
魔女とは不可思議な力を持つとされた女性を国が魔女と見なし大虐殺を起こしたことである。魔女とされた殆どの女性は薬草師や体を治す術を知る者達であった。それを怖れた狂信者により魔狩り女はとある国が行い多くの女性が命を落としたのだ。
「魔女狩りの本当の目的が死神を殺すことだったとしたら?」
「どうしてそんなことが?」
「堕ちた死神が起こした事件で村や町が全滅したって話は珍しいことじゃねえ。人を簡単に殺すことが出来る力がバレれば誰だって恐怖心を抱くだろ」
今の話でファズマが何を言いたいのかディオスは理解した。
堕ちた死神が起こした事件は死神の力をばらしたのだと。死ぬことが絶対であるこの世界に死は恐怖であり、力は異端で危険なものでしかない。だから消したかったのだ。
「死神は医者や葬儀屋、人の体に関係する仕事を持つ者が多くなっているんだ。だから、あまり知られていねえが男も魔女と見られて殺されている」
堕ちた死神が死神の力を振るい発覚させただけで大虐殺が起きるとディオスは予想していなかった。
「だから大事になる前に死神は存在を隠す為に堕ちた死神を殺すんだ。身内で起きたことは身内で片付ける。辛いことってのは分かるがそうしねえといつか自分も殺されるかもしれねえからだ」
だからモルテは死神であることを知らせない為に葬儀屋で人を雇うことをせず時がくるまで明かそうとしなかったのかとディオスは思った。
身内が罪を犯せば殺さなければならず、殺すことが出来なければ自分が死ぬ。人を死に葬る力がバレれば恐れから殺される可能性がある。あまりにも辛すぎる死神の世界。頼れるのは同じ死神と死神の存在を知っている者達だけなのである。
「それでも俺……」
「ディオスは死神でも死神の弟子でもないから今の話で納得しきれねえのも分かるがそれはエゴだ。死神がそう言う存在だってことだけ覚えていろ」
まだ人殺しを納得出来ない様子を浮かべるディオスにファズマは声をかけたが、ディオスは首を横に振った。
「何も言わない。殺すことを納得したわけじゃないけど、それをしないと死神の存在が危ういってことは理解したから」
ディオスなりのけじめを聞いたファズマはとりあえずは心配ないだろうと思った。もし何かあったら自分が何とかする。出来なそうならモルテを頼るよりも、そうなる前に同じ死神の弟子達に協力を仰ぐつもりである。
そんなことを考えていると店の扉がドアベルを鳴らして開いた。
「いらっしゃいませ……あ!」
店に入って来たのはモルテであった。
「師匠~、お帰りなさ……い?」
ようやく帰って来たと元気に迎えたミクだが、言葉が急に失速した。
モルテが不機嫌な表情を張り付けず帰宅したのだ。
予想外の帰宅にミクはもちろんディオスとファズマも戸惑った。
「何だ?」
「い、いいえ何も!!」
まるで顔に何かついているのかというように見る三人にモルテが尋ねた。慌ててファズマが否定したがここでもモルテは不機嫌な表情を浮かべなかった。
「そうか。悪いが今日は一日開ける」
そう言うとモルテは店の奥へと消えた。
モルテの背後を見送ったディオス、ファズマ、ミクは顔を見合わせた。
「師匠~怒ってなかったね」
「何があったんだ!?」
「知るか!」
何故モルテが不機嫌を張らずに帰宅したのか分からない三人は戸惑ったのであった。
どうしてモルテが不機嫌な表情で帰宅しなかったのか?
真相は7章で!
あ、まだ5章は続きますよ




