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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
1章 新従業員採用
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店長の推理

 事は二度目の窓ガラスが割られた時間まで遡る。



 食卓のテーブルの前でモルテはファズマとミクに言った。

「石が投げ入れられたのはあいつが原因だろう。それに、あいつは嘘をついている」

「嘘ですか?」

 分からないという表情を浮かべるファズマとミクにモルテはディオスの経歴書を見せた。

「見てみろ」

 モルテから渡されたディオスの経歴書を見るファズマ。ミクは椅子の上に立って覗き込んだ。注意深く見るがおかしいところはどこにもない。

「分かりません店長」

「あたしも分からないよ」

 降参するファズマとミクにモルテはため息をついた。

「貴族文字と言ったら分かるか?」

「貴族文字って……あ!」

「あった!」

 モルテからヒントをもらい改めて見ると僅かだが貴族文字が使われていた。


 貴族文字は今から100年ほど前まで貴族が主だって使っていた文字である。それまで市民と貴族では意味は同じだが使われる文字の形が異なっていた。貴族が使う文字を貴族文字、市民が使う文字を市民文字と呼び区分されていた。

 貴族という地位は100年ほど前に撤廃され市民と平等となった事で主だった文字は多くが知っている市民文字へと変わっていった。貴族文字は現代では姿を見なくなり多くの人々から存在を忘れられているが、貴族と呼ばれた者達は多額の財産を元手として財閥を築き上げ重要な記述や家族間のやり取りでは今なお貴族文字が使われている。


 貴族文字を見たファズマがディオスの素性に気づいた。

「待ってください店長!まさか……」

「あいつは元貴族だ。恐らくどこかの財閥の出だ」

 ファズマの予想を肯定するようにモルテは言った。

「だが、マケネードと言う姓に心当たりがない。それに、恰好がおかしい」

「つまり、素性を隠さなければならない何かがある」

「ああ」

「ねえねえ、わかるように説明して」

 勝手に話を進めようとするモルテとファズマにどうゆう事か分からないミクが説明を要求した。

「本来、財閥関係者は何らかの形で財閥に務めるものだが、ごく稀にそこから飛び出し自分の力で生き抜きたいという奴がいる」

「それがお兄ーさん?」

「いや」

 ディオスを上げたミクだがモルテは首を横に振った。

「財閥の出でもいくらか援助が出て生活が安定されるまで続く。援助が出されているなら服装はもっとしっかりしているはずだ」

 ファズマが付け加えた説明にミクは首を傾げた。

「それって、お兄ーさんがお父ーさんとお母ーさんが嫌いだから何もされないの?」

「それって親不孝か?」

「……うん」

 ミクの言葉に適切であろう言葉を述べたファズマ。ミクは頭を捻り、意味が分かっているのかは知らないが頷いた。

「それはない。あいつは後がないと言っていた。親を蔑ろにする様な奴がそんな事を言うとは思えない」

「もしかしたら、本当に後がなくて言ったかもしれませんよ?」

 モルテの考えにファズマは異を唱えた。

 話が長くなると見てモルテはカップに注いだコーヒーを一口飲んだ。

「財閥が実子を追い出す時は常に目が届く範囲に置くものだ。寄宿舎に預ける、嫁ぎ先に出す、地方の支店に出す。この場合は付き人を伴わせる」

「それじゃ勘当では?」

「それはない」

「はぁ?」

 思ってもいなかった言葉にファズマは声を上げた。

「財閥は元々は貴族だ。目に見えない場所で家名に傷が付くことは許せない。本当に手放すくらいなら教会へ修行に出したりしてしまうものだ。そういえば、地方に屋敷を買いそこに監禁させたと言う話もあったな」

 つまりは意に沿わないなら閉じ込めると言う事だ。ディオスがそれらに当てはまっていないという事は勘当の類いではないことが分かる。

「それじゃ、家出?」

 今までの話からミクは違う可能性を口にした。その言葉にモルテは再び首を横に振った。

「仮に家出をしたとしても日給に就きその日暮らしが出来るからここに来る必要はない。援助が切れて資金が底を尽きかけているとしても同じ事だ」

「何でつかないの?」

「就かないのではない。就けないんだ」

「何で?」

 ミクの言葉にモルテはコーヒーを一口飲み、答えた。

「嫌がらせをしている奴がいる」

 モルテの言葉にファズマの表情が険しくなる。窓ガラスに投げ入れられた石の事を言っているのだとすぐに分かった。

「どうして?」

「あいつが職に就けば困る奴がいる」

「だから素性、名前を隠してそれから逃れようとしているんだ」

「ふ~ん」

 モルテとファズマの説明にミクは腕を組んだ。

「だが、上手くいってないみたいだ。急いで職に就かなければならないが就けていない。そうとう切羽詰っていると見る」

「他人事ですね」

「他人だろう。だが、割ったガラスの弁償はさせる。倍にしてな」

 そう言うとモルテは不敵な笑みを浮かべた。

「ファズマ、車を使って棺の装飾品を買ってこい」

「いいですけど彼はどうしますか?」

「掃除をさせる」

「うわ~……」

 従業員でないディオスに掃除をさせると言う言葉にファズマは若干引いた。

「あたしは?」

「ミクはあいつと掃除をしろ。終わったらお使いを頼む」

「は~い」

 モルテの言葉にミクは元気よく返事をした。

 二人にさっきまでの話とは関係ない行動を指示するモルテだが、ファズマとミクは何をやるべきで何をすべきか理解していた。

「まったく、ガラでもない事はしたくないものだ」

 モルテは今の状況に毒づいた。

 そうして、それぞれが行動を移し始めた。


 それから数時間後。

 モルテはファズマからの報告を電話で聞いていた。

「彼の本当の名前はディオス・エンツォ=レオーネ」

「レオーネか……確か、何カ月か前に倒産した財閥の代表者がレオーネだったな。他には?」

 ディオスの素性を知りモルテはファズマが得た情報を更に聞いた。財閥倒産後に何がありどうなったか。そして、ディオスが嫌がらせを受けている相手と倒産背後に何があったか。

 あいかわらず普通なら警察でもなかなか手に入れられない情報を短時間でどこから仕入れているのかと思いながら。もっとも、どこで情報を仕入れいるかは予想がついているが。

「警察にもいるな。関係者が」

 ファズマの話を全て聞いたモルテは警察組織にも関係者がいると睨んだ。

「ファズマ、こちらから連絡をするからアドルに全部話せ。その後ミクと合流してあいつが住んでいるところ行け」

「はい」

 そう言ってモルテは電話を切るとアドルフがいる警察へと電話をかけた。そして、

「おい、また警察の信頼を落とすつもりか?」

「待て、いきなり何だ?それよりも、警察嫌いのお前がそれを言うのか?」

 モルテの皮肉にアドルフは皮肉で返した。

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