死神の罪
堕ちた死神を止める方法を聞いたディオスは言葉を失っていた。
てっきり説得をしたりそれが無理なら力業で止めたりすると思っていたら方法が一つのみ、殺すだけと言われてしまったのだ。
「殺すってどういうことですか!?どうして……!」
「堕ちた死神は危険と言うことです」
驚くディオスに対し冷静にレオナルドは説明を始めた。
「レオナルド、俺はしばらく奥に籠る」
「分かりました」
話が長くなると見たレナードがコーヒーが入ったカップをテーブルに置きレナードに一声かけると店の奥へと引いた。
酒場なのにコーヒーと言う突っ込みはなしである。
「堕ちた死神は人殺しをした死神のことを差すと先ほど申しましたが、正確には死神の力を使い人殺しをした死神のことを言います」
「えっ!?死神って生きている人には出来ないはずじゃ……」
「出来ないのではなくやってはならない。禁止されているのです!」
ディオスの言葉にレオナルドは厳しい表情を浮かべた。何よりも、モルテからそう言った殺すということを聞いていないだけになおさらである。
(まったく、何故モルテは説明をこうも雑にするのか)
出来ないとディオスの口から聞いたレナードはモルテに対して相手が誤解を受けそうな説明をしたのかと心の底で毒づいていた。
「やってはダメって……もしかして死神の力って人も殺せる……!」
レオナルドの言葉を理解したディオスはその意味と死神の力に恐怖を感じた。
その様に呟いたディオスにレオナルドは静かに頷いて認めた。
「死神は死者に対して肉体と魂との繋がりを切ることが出来ます。ですが、それは生者も同じこと。その力で生きている人間を殺すと狂気に満ち無差別にを殺します。ただ、ひたすらに。自身の体の限界が迎えるまで」
「どうしてそんなことが……」
「死神に言い伝えられているのは、大昔に一人の死神がその力で沢山の人を殺したからと言われています。必ず死を与えることが出来る力を使い続けた死神は狂気に満ち、最後には同じ死神に殺された。それ以来、死神は生きた人を力で殺すと狂気で殺人鬼となりました。どんなに声をかけても届かない死神を止める方法は同じ死神が殺すしかなくなった」
「でも、死神も生きている人間ですよね?」
「一部例外もあります。ですが、死神の場合は力を持っているからか生きている人を殺してはならないという適用がされません」
思ってもいなかった理由とそれに対する抜け道。考えてみると死神の力は危険とは知っていても考えた以上に危険であったのだ。
死神の力は確かに死を与えることが出来るが、それに対して何らかの制限や条件があってもいいはずなのにそれがなかった。死神の力は無条件に振るうことが出来る能力だったのだ。
その力で本来の使い道から外れた行動をとってようやく何らかのペナルティが課せられるようになっていたのだが、そのペナルティはあまりにも死神達にしてみれば残虐でしかない。
「堕ちた死神はその狂気から本来は体にかけられている制限が解除され、殺し回れるだけ動き回ります。痛みも感じることはなくずっと、体が朽ちるまで」
堕ちた死神を止めなければどうなるかと話すレオナルド。
人は痛みを感じることで危険を知るものである。だが、痛みを感じなければどの様になるのか。それは防衛反応がないことと同じこと。いずれ体は耐えきれなくなり衰弱、もしくは死んでしまうことを意味している。
「ですが、それを待つ間に沢山の人を見殺しにする訳にはいかない。ですから同じ死神が直接手をかけて殺すこととなっているのです」
あまりにも悲惨な話にディオスは言葉を失った。
これではまるで……
「それって、罪じゃ……」
「はい。罰です。人に死を与えることが出来る力を持つ者への、無闇に使ってはならないという罰です」
死神の重たい業。それに場の空気が重くなった。
「だけど、やっぱり殺すって間違っていると思うんです。どうして死神が殺さないといけないんですか?」
それでも止めるためとはいえ人殺しは間違っているというディオスに普段は紳士的な立ち振舞いをしているレオナルドが鋭い視線を向けた。
「例え間違っていてもそうしなければならないからです。死神になる者、死神を知る者はそれを知っています」
知っていると聞いてディオスは目を大きく開けた。頭に浮かんできたのは葬儀屋フネーラで一緒に過ごしているファズマとミク。二人も堕ちた死神を止める方法を知った上で死神の弟子になったのかと思ったのだ。
「いずれ同じ死神が人殺しをして堕ちた死神となった場合、殺されても、自身の手を血に染めても止めなければならない。同じ死神が犯したことならなおさらに。だから死神になる者達はそれを覚悟した上で死神になります。揺るぎない覚悟を」
覚悟と聞いてディオスは初めてモルテと会った時を思い出した。
遺体を前にしてモルテは覚悟と口にしていた。あの時は何なんだと思っていたが今思うとあれはこういったことだったのかと理解した。
例え業を背負っても、血に染めたとしても自身の揺るぎない覚悟を持ち続けなければならない。
それは人ではなく死神として重たい道を歩むと決めた者達の計り知れない決意であったのだと。




