紙一重
モルテとマオクラフは街灯が消えた通りを聖ヴィターニリア教会方面に向けて歩いていた。
「着いて来てるね」
「まったくだ」
背後から感じる殺気にモルテとマオクラフは小さく呟いた。
「モルテは気配隠すのが上手いってこと言ってたけど、下手過ぎない?店でも皆にバレてたし」
「確かに、と言いたいところだが、どうやら奴は襲うことに集中するあまりに隠している気配を緩めてしまうようだ」
「何それ!?」
「どうやら戦い慣れていないようだ。逃げる時ならまだしも襲う前に気配を漏らしているとは襲う以前の問題で話にならん」
堕ちた死神ジーナの気配が漏れている理由が発覚してマオクラフは遠い目をした。
「でもこれって……ジーナって後方支援だっけ?それなら追跡で気配を隠せてもいいと思うんだけど?」
「マオクラフが私の隣にいるからだろう」
「俺?」
「私一人の時は普通なら気づかれない程度であったが、ディオスとマオクラフを連れてからは気配が漏れている」
「それって、男に嫉妬している!?」
「嫉妬かどうかは分からんがよろしくない感情を抱いているだろう」
気配が漏れている理由の原因、この際は理由を肯定するための推測でしかないが男絡みと聞いてマオクラフは表情を曇らせた。
「なぁ~んか、嫉妬とかやきもちは分かる気がするけど、一体何があったんだろ?」
昔は沢山の女性から恋の対象とされてアプローチを受けてきたマオクラフ。だが、その度に喧嘩が起こりその度に仲裁に入っていたが恨み妬みによる飛び火に損をすることも少なくなかった。
その為に被り物を被り素顔を隠した為にそういったことは殆どなくなったが、そういった経験もしている為に恋する女にはあまりいい印象を抱いていない。
ちなみに、そういう印象を抱いている為に現在マオクラフは結婚願望もない。
「それなら男を襲うだろう」
「それもそうだ」
嫉妬ややきもちをする気持ちに浸るマオクラフにモルテがそれは違うだろうと言う
「あれは女絡みだろう」
「女ぁ~!?って、さっき男って言ってなかった!?」
「私は男と一言も言っていない!」
どうして男ではなく女絡みの問題なのかとマオクラフは尋ねる。
「殺されているのが女ばかりだからだ。誰でも殺すはずの堕ちた死神が女ばかりを狙って殺すというのもおかしいと思わないか?」
「確かにそうかも」
「向こうで何があったかはレナードの報告待ちだが、私はそのように考えている」
堕ちた死神の特徴を知るために疑問もなくスムーズに話が進んだ。
「ところで、何故マオクラフは私と共に行くと行ったのだ?」
「それはモルテが襲われないようにさ」
「本当にそれだけか?」
モルテの疑問にエノテカーナを出る前にも言ったことを言うマオクラフだが、真の理由に心当たりがありあるモルテが真剣な表情で睨んだ。
「俺だって死神さ。これからこういうことが起こるかもしれない。そんな時に鈍ったら前みたいなことが起こるかもしれないから、覚悟があるのか見極めたいって思いがある」
それはマオクラフなりに考えたことであった。
前回は恐らく皆が覚悟を持っていただろう。だが、結果は最悪なものであった。それを知るマオクラフはそんな状況でも挫くことがない覚悟があるのか確かめたく、モルテに着いて来たのであった。
だから、マオクラフの話を聞いたモルテは立ち止まると腕を組んで怖い表情を浮かべた。
「マオクラフ、私は前にも言ったはずだが……」
「覚悟と無謀は紙一重。だから、無理だと思ったらすぐに逃げてモルテに任せるから」
モルテに睨まれてヒラヒラと笑って答えるマオクラフだが、ふと、その表情を引っ込めて普段は見せない生真面目な表情へと変わった。
「だけど、父さんも言ってたけど、あれはモルテがいたから解決出来たことだから。モルテがいなかったら最悪アシュミストに死神はいなくなったかもしれない。だから、モルテがいなくてもそういった対応に適応出来るようになる必要がある。俺もそう思ってる」
アシュミストで起きた事件はアシュミストに住む死神達に大きな衝撃を与え、存在を賭けるものであった。
「なるほど」
マオクラフの言葉を聞いたモルテは悪い顔をした。
「それなら、マオクラフの覚悟を見せてもらおうか。始めに言っておくが覚悟と無謀は紙一重だ。無理と判断したら私を置いて逃げろ!」
そう言った瞬間、モルテは手に鎌を握ると一件の家の屋根に向けて斬撃が放たれた。
そして、何かがそこから落ちて鈍い音が響いた。
「さあ、堕ちた死神を止めるぞ」
驚いたマオクラフをよそにモルテが笑みを浮かべた。
最近忙しくて執筆が滞っていました(しかも、ものすごく寝不足です)。
誠に申し訳ございませんが体調を戻す為に次回の更新は9月18日です。




