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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
5章 アシュミスト連続殺人事件
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狙われたモルテ

 それは奇妙な光景となっていた。

 一見すれば真夜中に二人の人間が争っており、一人は風を切り裂くように鎌を振り回してい、もう一人は風を裂く鎌を避けている。

 第三者がみたなら何てものを振り回しているんだと叫ぶだろう。そして、鎌を振り回して何も持たずに避けている人間を見たなら強者が弱者をいたぶる為に襲いかかり、本当に殺すのではと恐怖を感じるかもしれない。

 だが、この二人は死神である。普通の人間ではないし弱者をいたぶるような生ぬるい争いをしているわけでもない。

 そして、この場の強者と弱者も逆である。

 堕ちた死神が領域を展開した為に音が漏れ出さないのはもちろん誰からも見られることがなくなったが、同時に堕ちた死神が一振りしても葬れなかった相手に本気で殺し合いにかかっていることを意味していた。

 今まで何人も一度鎌を振るっただけで葬れただけに葬れないことに苛立ちが募っていた。

「乱暴だな」

 それなのに堕ちた死神が殺す為に振り回している鎌をモルテは読みきった上で避けていた。

「殺す!」

「何度も聞いたぞそれは」

 堕ちた死神が繰り返し呟く言葉に聞き飽きたモルテは懐に入ると頭を殴りにかかり、再び腹に蹴りを入れて突き飛ばした。

 そう、モルテは素手で堕ちた死神の対象をしていたのである。

 モルテも死神である。死神であるのに未だに自身の鎌を構えるどころか出そうともしていない。

「聞くが、何故若い女性ばかりを殺す?」

 この質問は答えてくれると期待して尋ねた訳ではない。堕ちた死神の神経を逆撫でする為のもの。

 未だに殺せない相手から心の奥底に漂う触れられたくもない闇の一片を触れられ聞きたくもない質問をされれば、それは理由もなく質問をしてきた相手に憎悪が膨らむものである。

「女に大切なものでも奪われたか?」

「黙れ!」

 そして、モルテの企み通りそれは成功した。

 堕ちた死神は自身の鎌に力を込めると力任せにその場で振るい始めた。

「だからその様なもの……!」

 そう言ってモルテはおかしいことに気がついた。

 鎌で殺すなら近づいて振るうのが当たり前。だが、堕ちた死神は力を込めた鎌をその場で振るった。モルテに近づくことなく。

 それに気がついたモルテは振るわれた鎌から斬撃が放たれたのを見た。

 その斬撃はモルテが放つ斬撃よりも遅かった。その為モルテは放たれたのを見てから避けた。

 だが、その斬撃が突然曲がった。

「くっ!」

 放たれた後から避けたモルテは体を捻らせ湾曲になりながら放たれた斬撃をすんでのところで避けた。

 だが、堕ちた死神はモルテが避けたのを狙っていたとばかりに間近まで迫っており、鎌を振り下げた。

 それを目ではなく気配で感じたモルテは捻った体をさらに捻り横へと避けると、後ろに大きく下がった。

「まったく、堕ちた者は力加減を知らんな」

 緊張的な場面をやり過ごしたならその表情は安堵か更なる緊張のはずなのに、モルテは自身の首に手を当てながらどこから余裕の表情を浮かべていた。

(それに惜しいな。更に鍛えればあの斬撃は更に曲がるのだが)

 その余裕を証明するようにモルテは堕ちた死神が放った湾曲する斬撃がまだまだ良くなると思って残念で仕方がない。

「さて聞くが、これで全てか?」

 モルテは先程まで考えていたことを振り払うと先程まで余裕を浮かべていた表情から一変、目付きが鋭くなり冷たい表情を向けた。

「うるさい……」

「そして、今まで何人殺した?」

「うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」

 堕ちた死神を睨み付けながら尋ねたモルテの言葉だが、それは堕ちた死神に更なる憎悪を膨らませ叫び出した。

「黙れぇぇぇぇぇぇ!!」

 次の瞬間、堕ちた死神は鎌を構え直すとモルテへとものすごい速さで迫った。

 話して分かってもらえないということをモルテは初めから分かっていた。だから、堕ちた死神が迫って来たことで目的は完全に終わった。

 しかし、話の流れに乗るようにモルテはもう一発、餞別の前払いと右手で拳を作り力を込めた。

「この大馬鹿者が!!」

 僅かに死神の力を込められた拳はものすごい速さで迫っていた堕ちた死神の顔面に直撃し、殴り飛ばした。

 殴り飛ばされた堕ちた死神が通りを転がる度に大きな音が鳴り響びき、体勢を何とか立て直した。

 その光景を見ながらモルテは堕ちた死神を殴り飛ばした右手を軽く振った。

「店長――!」

 そんな時、モルテの背後からファズマの叫ぶ声が聞こえた。

「チッ」

 ファズマの叫び声を聞いた堕ちた死神は舌打ちをするとその場で高く飛び上がり建物の屋根に着地して二人を見下ろした。

「必ずお前を殺す!」

 モルテに向けて言い放つと堕ちた死神は闇の中へと消えて行った。

 それを見届けたモルテに駆け付けて来たファズマが慌てて尋ねた。

「店長、大丈夫ですか?」

「問題ない」

 ファズマの言葉にモルテは未だに堕ちた死神が着地していた屋根を見ていた。

「さっきの死神を追います」

「追うな。分かっているだろう。ファズマでは返り討ちにあうだけだ」

 闇に消えて逃げた堕ちた死神を追おうとしたファズマをモルテが止めた。

「だが……いえ、そうです」

 モルテの言葉に一瞬心配で不満とも捉えるような表情を浮かべたファズマだが、すぐにいつもの様子に戻った。

「それに、奴は私に狙いを着けた。何もしなくてもあちらから顔を出す」

 それは狙われたから言える確信した言葉であった。

どうしてモルテが狙われたんでしょう?


そして、堕ちた死神以上に動き回っていたモルテですが、あれは単純に堕ちた死神よりもモルテの方が強いからです。

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