葬儀屋への救援
アドルフが部下に葬儀屋フネーラまで走れと言ったその頃、その葬儀屋フネーラはリビングで今朝届けられた手紙を読んでいるモルテ以外は就寝していた。
何故モルテ以外が就寝をしているのかというと、緊急の仕事に備えて出来る限りの準備をして今の内に休んだ方がいいからと早めに就寝をしたのである。
準備と聞けば簡単に捉えられてしまうが実際は葬儀屋の仕事で外に出る準備だけではない。
遺体を保管する場も兼ねている仕事場がきれいに清掃され、作業台の近くに置かれている台には遺体の顔の表情をよく見せる為の化粧や遺体に施す道具が片づけられ明らかに病院に備えられている医療器具が置かれていた。
医療器具が葬儀屋に置いているのはどうかと思うも、これらはモルテの私物であり堂々と所持していることにどこかの闇医者ではないのかと誤解を受けてしまいそうである。
そんな準備もモルテがいつでも出られる準備をしたことで全てが終わり、ディオス、ファズマ、ミクを就寝につかせたのである。
残ったモルテはそのまま寝ずにリビングで手紙を読んで長い夜の暇をつぶしていたのである。
「人間らしい幸せか」
手紙を読みその内容にふと既に自分とは無縁の幸せというものが何であるのか呟いてしまった。
そして、読んでいた手紙を見て僅かだが笑みが浮かんだ。
「無事に見つけられたようだな」
封筒に書かれている差出人の名前を見てその人物と過ごした日々を思い出す。けして長いとは言えないがあれはあれで充実した日々であったと思い出す。
すると、店の扉が強く叩かれる音が耳に響いた。
モルテは急ぐ様子も見せず椅子から立ち上がるとそのまま店内へと向かった。
店内に入ると扉の外では一人の警官が慌てた様子で強く何度も扉を叩いていた。
そんなに強く何度も叩かなくてもいいと思いながらモルテは扉の鍵を開けて警察に尋ねた。
「何様だ?」
警察嫌いであるモルテは不機嫌な表情で言った。
だが、警官はそんなモルテの様子を寝ているところを起こされたからだと誤解して息を切らしながら言った。
「夜遅くにすみません。アドルフ警部から葬儀屋フネーラの店長なら詳しい死因を確認出来ると聞いて来ました。すみませんがご同行をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「分かった。準備をしてくるからしばらく待っていてくれ」
どうやらアドルフの要望であると知ったモルテは警官に頷くと店内の奥へと向かった。
その頃、ディオスとファズマは仕事の予感を感じて着替えをしていた。もっとも着替えはズボンを変えて上着を羽織るというすぐに仕事が出来る格好で寝ていたのである。
「大丈夫か?あんまり寝てねかったみてえだが?」
「横になっていたから大丈夫」
「いや、寝たかって聞いたんだが」
「少しだけど寝られた」
「ならいいんだ」
これからの仕事を考えてファズマはディオスに体調の様子を聞いた。
就寝の為にベッドに横になった時、ディオスは夜に持ち込まれそうな仕事のことを考えてなかなか寝付けないでいた。
夕飯の後にモルテが仕事場の掃除と道具の交換に外出の準備を見て、もしかしたら殺人事件に関する仕事ではないのかと考える。そして、それが死神に関する事件でその準備に携わっているのではと思い気が気ではなくなりいつの間にか寝付けなくなり、寝られても浅い眠りであった。
しかし、浅い眠りの為に扉が何度も強く叩かれる音に気が付けたのである。
「着替えたか?」
「うん」
お互いに着替えが終わるとディオスとファズマは急いで下の階に降りた。
「そう言えばミクは?」
「ミクは寝かせておけ」
(やっぱり子供だから?)
やはり子供だからミクは起こさないのかと思うディオス。
時々モルテはミクを連れて真夜中のアシュミストへ連れて行く。何をしているかは知らないがミクはまだ子供。起こすのはよくないからと考える。
「ミクにはまだ関わらせる気がないからな」
「え?」
何らかの意味が込められているファズマの言葉にディオスはどういうことか理解をする為に頭を回した。
「お待たせしました店長」
「ようやく来たか」
リビングに入ると来たことを告げるファズマの言葉と必要な道具を追加で鞄に入れ終えたモルテの言葉にディオスは考えを中断した。
「ファズマ、場合によってはこちらで一時的に遺体を預かることになるかもしれん。それの準備と店番を頼む」
「はい」
「ディオスは私と共に来い。私の手伝いを頼む」
「は、はい」
指示を出しながらモルテは鞄をディオスに預けるとコートを羽織った。
「行くぞ」
「気をつけて」
外へと出ていくモルテとディオスをファズマは何事もなく戻ってくることを思いながら見送った。




