評価
その日の夜。
「今日は味が違っていたな」
夕飯を食べ終えてモルテが今日出された夕飯の味について感想を口にした。
「今日はディオスと作ったんです。に料理を教えるついでに」
「そうか」
誰が作ったのかファズマが言うと、食器の片付けをしていたディオスがビクリと肩を震わせた。
料理をしたことがないとファズマに白状したディオスの運命はあまりにも可哀想なものであった。
真実を知ったファズマはミクに店番を任せるとまだ昼食を食べ終えていないディオスをキッチンへと連れ込んだ。
そして、料理の手解きを教え始めたのである。
最初に教えたのはコーヒーの淹れ方であった。
何故コーヒーの淹れ方なのかというと、モルテが大のコーヒー好きでいずれ淹れることがあるから覚える必要があったのである。
だからファズマの教えは厳しかった。
コーヒー豆の種類から挽き方、お湯の温度に注ぎ方と、コーヒー専門店に負けないくらいの熱の入れようとこだわりでディオスに指導をしていった。
その当のディオスはファズマの指導に引いていたのもそうだが大半は料理をしたことがないとと発言してしまったことに後悔の念を感じていた。
ここまで厳しく教えられると思っていなかったディオスはやっとファズマから初心者としては合格と言われた頃には疲労でしゃがみこんでいた。
だが、これで終わりではなかった。
合格をもらうまでに何度もコーヒーを注いでいた為にテーブルには大きなカップや食器に入れられたコーヒーが大量に占領をしていた。
ディオスとファズマの二人で飲みきれる訳ではないしミクはコーヒーをそのままでは飲めない。モルテに飲ますなど論外、捨てるのはもったいない為に困った二人は考えて、ファズマが閃いた。
以前に道具屋からお菓子の種類追加にとゼラチンと呼ばれる水に入れると固まる不思議な粉をもらっていたのを思い出したのである。
お菓子にと渡されたが液体が凍らせずに固まるのが不思議であり試してみようと思っていたのだが試す機会がなくそのまま調味料棚にしまわれていたのであるのだが、この際に使ってみようと取り出したのである。
では何故コーヒーに使おうかと思ったのは、ゼラチンをもらった時に道具屋から、
「コーヒーに入れてコーヒーゼリーにしてみろ。うまいからな」
と、言われたのも思い出したからである。
それは同時にディオスに第二の指導が始まるのを意味していた。
大量に淹れたコーヒーに砂糖を入れ少ない水で溶かしたゼラチンを入れてかき混ぜる。
これで本当に固まるのか気になるディオスとファズマであったが、固まる様子を見る暇はなく、ファズマにより第三の指導が始まり、ディオスに更なる疲労を与えることとなった。
そして、その延長線として夕飯はディオスとファズマが作ることとなり、テーブルに作られた夕飯が置かれたのであった。
モルテは納得して食後のコーヒーを飲むとテーブルにカップを置いた。
「まず、僅かにしょっぱい。塩をもう少し減らすように」
いきなりモルテは出された夕飯の評価を言い渡した。
「具材は柔らかいものと固いものとある。調理次第で切り方が変わる。覚えておけ」
「は、はい……」
突然の指摘にディオスは背中に汗が流れるのを感じながらキッチンへと逃げた。
「それで、どうだった?」
五杯目の特大コーヒーゼリーを食べながらモルテはファズマに情報収集の結果を尋ねた。
「店長が知っている通りです」
昼食時にディオスから被害者がマオクラフの職場の人間であることとその時に話されていた大体の会話を聞かされたファズマは殆ど調べた内容であることを先に言った。
「殺されたのはサラミナ・ヘドン。郵便局受付で友好関係は良好です」
「そうか」
やはりマオクラフが言った通りのことをファズマも言ったことでモルテはもしもという考えを捨てた。
「それと、殺されたその日は夕方に仕事が終わったらしいのですが、どうして夜を歩いていたのか調べました」
「どうだった?」
「職場の人間と食事に行ってました」
「そうか」
どうやらよからぬことに手を出している訳でもなかったようであるが、それは逆にモルテに嫌な予感を確信に近づけさせていた。
「無差別にしている。と考えるべきか」
嫌な予感を考えて口から言葉が漏れてしまう。
「とにかく、しばらくはいつでも動けるようにしておけ。場合によっては夜中に仕事が入ってくるかもしれん」
「はい」
モルテの厳しい表情にファズマは頷いた。
そして、モルテの指事はすぐに現実のものとなった。




