葬儀屋の昼食
マオクラフから離れ手に収まった手紙にモルテは差出人の確認をした。
「ほう、随分と早いな」
差出人を確認したモルテは僅かに驚いた表情を浮かべた。
「モルテ、いたい……」
「埋まらなかっただけよかったと思え」
床に叩き付けられたマオクラフの悲痛な訴えにモルテは冷たくあしらうとミクに手紙を渡した。
「戻って来てから読む。その間はなくさないようにしろ」
「は~い」
モルテから手紙を受け取ったミクは元気よく返事をした。
「それと、私に電話がかかってくるかもしれん。相手と内容を聞いておいてくれ」
「分かりました」
次いでモルテはいない間に電話がかかってくることをディオスに伝え、ディオスはそれを受け入れた。
「では店番を頼む」
そう言うとモルテはまだ床に倒れたままのマオクラフが被っている鳥の被り物を足の爪先でつついた。
「いつまで寝ている。仕事なのだろう、早く行け」
「う、動けませぇん……」
マオクラフに容赦ないモルテ。
子供には見せられないとディオスはミクが見ないように前に立つと意識を店番の役割分担に向けるように話していた。
そして時間は流れ昼。
「お昼だぁ」
「おいしい~」
「お前らな……」
リビングではファズマが買ってきた昼食にようやく昼食が食べられると顔がほころんでいんディオスとミクにファズマが呆れた表情を浮かべた。
「だって、ファズが本当に帰って来なかったらどうしようって思ってたもん」
ミクの訴えにファズマはあれは冗談だったのに真に受けてしまったことに僅かな罪悪感を抱いてしまった。
ちなみに、ファズマが買ってきた昼食はサンドイッチの詰め合わせ。
朝食と違い昼食が軽めかというと、最近モルテが毎日外出をして店にいないからである。
モルテがいたなら昼食は朝ほどではないが重く量が多いメニューとなるのだが、モルテがいないから軽めで済ませられるのである。
「んなことやって店長に怒られたくはねえぞ!第一、昼飯くらいならディオスでも出来るだろ」
ハムサンドを頬張りながら言ったファズマの言葉にチーズとトマトサンドを食べていたディオスが驚いてむせると慌てて否定をした。
「無理だよ!俺料理できないから!」
「は?」
予想外の言葉にファズマの顔がひきつった。
「したことねえって、コーヒーは淹れただろ?」
「あれは偶然!本当は淹れたこともないから!」
(本当は料理をしたことがないって言えない!)
まさかのディオスのカミングアウトにファズマは頭を抱えた。
まさかディオスが初めて淹れたコーヒーに衝撃を受けたとは思ってもいなかった為に精神的にダメージを受けていた。
「つうか、俺が本当に戻ってこねかったらどうするつもりだったんだ?」
「それは……」
「えっと……」
何とかコーヒーの衝撃を振り払うと厳しい顔つきでファズマは尋ねた。
その言葉にディオスとミクが困った表情を浮かべ、ファズマは再び頭を抱えた。
(買いに行けばいいのに何でこいつら気づかねんだ?)
弁当を取り扱っている店の殆どは市場に集中している。旧住宅街は住人が住む場所であるから食べ物を扱っている店がないために市場へと買いに行かなければならない。
だが、距離もそれほど離れている訳ではないのに買うという選択肢がないディオスとミクにファズマは呆れていた。
(こりゃ、ディオスに料理を教えた方がいいな)
そして、打開策としてディオスに簡単な料理を教えると決めたファズマ。
いつもはファズマは料理を作ってしまう為にディオスが料理をした所を見たことがない。それに、進んで料理を作ると聞いたこともない。
ディオスも言った通り料理ができないからなのだろうが、少なくともサンドイッチくらいは作れるようになってほしい。いや、サンドイッチくらいは作れるだろうと思いたい。
そうでなければ、いざディオスとミクだけで丸一日店を任せるとなった時、弁当を買うという選択肢を考えていなかった二人は飢え死にしてしまうかもしれない。飢え死には少し大袈裟だが。
ならば善は急げと昼の予定を少し変更する。
「しゃあねえ。ディオス、夕飯一緒に作るぞ」
「え?」
「え?じゃねえ!少しは作れるようにならねえと困る!」
顔を青ざめるディオスにファズマはさらに叩き付けた。
「それに、飯作ってんの俺だけだぞ。いつも皿運ぶ手伝いばかりして飯作る時は何もしてねえだろ」
「うっ……」
否定しがたい場所を着かれディオスがたじろいた。
「これはらは葬儀屋の仕事と料理についても教えるから気を引き締めろ!」
仕事の先輩としてディオスに厳しい指導をすると決めたファズマ。
だが、ディオスは嫌な顔をしていた。
「ねえねえ、あたしは?」
二人の会話が面白く聞こえていたミクは自分も参加できるのかとファズマに尋ねた。
「おう、ミクにも料理教えてやるからな」
「え?葬儀屋のお仕事は?」
「それはまだだ」
「えぇ~!」
店番ならまだいいが葬儀屋の仕事はまだと言われたミクは頬を膨らませた。
「えっとファズマ……」
「何だ?言っとくが拒否権はないぞ」
「うっ……」
料理を教えてもらうことを断ろうとしたがファズマに先手を打たれてしまったディオス。
そのまま何かに堪えていたディオスはついには耐えきれなくなり頭を下げた。
「すみません!本当は料理なんてしたことないんです!」
「はあぁぁぁぁぁ!?」
とんでもない爆発をディオスはファズマに落としたのであった。




