第一の犠牲者
その日の真夜中。
街灯が消えてしまい月明かりのみで照らされた新住宅街の通りを女性が早足で帰路についていた。
その時、周りの空気が変わったのに気づいて女性は足を止めた。
「な、何……?」
通りの真ん中で恐怖を感じて立ち止まると周りを見回した。
変わったところは特にないがいつもと違う。
そう考えていると次の瞬間、背後に人影が現れ、甲高い悲鳴が響いた。
* * *
翌朝。
食卓の席ではモルテが怖い顔をして新聞を見ていた。
「師匠~、顔怖いよ~」
その表情にミクが言うも今回はモルテから何も言われない。
「一体何を見ているんだ?」
ミクの声に気づかず新聞を見ているモルテにディオスは新聞に何が載せられているのか気になっていた。
何故なら、怖い表情を浮かべた時から違う新聞の記事へと開いていないからだ。
「店長、コーヒーです」
「ふむ」
ここでようやくファズマがテーブルに置いたコーヒーに反応を示したモルテ。
そのままコーヒーが入ったカップを持つとコーヒーを飲んだモルテを見たファズマはタイミングを見計らい尋ねた。
「新聞、何て書いてますか?」
「嫌な内容だ」
ファズマの言葉にモルテは怖い顔をしたまま新聞をファズマに突きつけた。
新聞を押し付けられたファズマは受けとるとそのまま開いた。
新聞に何と書いているのか気になったディオスとミクが席を立ちファズマの側に来て新聞を覗いた。
新聞にはこの様な記事が載せられていた。
昨夜、新住宅街において若い女性が切りつけられるという事件が発生。病院に運ばれその後死亡が確認された。亡くなった女性は20代前半。死因は首を鋭利な刃物で切りつけられた大量出血によるショック死とみられる。発見者は「悲鳴が聞こえて出てきたら女性が倒れていた」と述べている。警察は強い恨みによる犯行と見て殺人事件を視野に入れ調査。同時に遺体の身元を調査している。―――――
「こんな事件が……」
新聞に載せられている記事を見たディオスが顔を歪ませた。
残虐な事件を知ると不安になり、亡くなった女性が可哀想に思う。
「かわいそうだね」
ミクも同じことを思ったのか亡くなった女性に対する思いを口にした。
葬儀屋に務めてから死が身近に感じるようになった為にどこか他人ではいられないのだ。
「店長!まさかこれ……」
だが、ファズマだけは二人とは別だった。
新聞の記事を見て驚いた表情でモルテを見た。
「それが違うと思いたいところだ」
ファズマが何に気がついたのか読んだモルテは怖い顔をしたまま席から立った。
「店を開ける。準備をしろ」
そう言うとモルテはリビングから出て行った。
「ファズマ、どうしたんだ?」
モルテとファズマのやり取りを見ていたディオスは新聞に載せられていた事件の記事が一体何なのかと尋ねた。
尋ねられたファズマは何かを思い込んだ怖い表情を浮かべていた。
「この事件、どうやら死神が関わる必要があるみてえで」
「死神が?もしかして生霊?」
死神が関わることと言ったら生霊だろうと言ったディオスにファズマは溜め息を漏らした。
「俺も店長もそれならいいと思っているが多分違うだろう」
ファズマが違うと言ったことにディオスは驚いた表情を浮かべた。
「違うって、生霊じゃなかったら何?」
ディオスの言葉に言うのをためらったファズマは断片だけを口にした。
「死神が一番相手にしたくないやつだ」
「死神が相手にしたくない?」
ファズマの口から出た言葉にディオスは驚いた。
死神が相手にするのは不死者や生霊だけではなかったのだ。しかも、死神が一番相手にしたくない存在とは何なのか気になってしまう。
「それって一体……」
ディオスが興味本意で尋ねた。時だった。
「ねえ~、早く来てよ~」
廊下からミクが二人に催促をしている。
「おう、悪いが準備はディオスとやって来れ。俺は事件の情報収集に行ってくっからよ」
「ええ~!」
ファズマのまさかの言葉にミクが叫んだ。同じ様に驚いたディオスは目を丸くしている。
「そう言ってまたサボるんでしょ」
「サボってねえ!これも大切な仕事だ!」
ミクの言葉に反論したファズマだが、ミクと同じ様にディオスがファズマに冷たい視線を投げた。
「って、何だその目は!」
ディオスの視線に気がついたファズマは二人に抵抗を始めた。
「そうか、サボっているつうなら今日は思いっきりサボらせてもらうぞ!昼飯も作らねえ!」
「ごめんなさい、サボっているって思ってないから!」
「ファズはサボってないよ!いつも頑張って働いてもらってるもん!」
ファズマの昼食作らない発言にディオスとミクが慌ててファズマがサボっていないと言い出した。
今ここでファズマが抜けたら料理をするのがモルテしかいない。しかも、作ってくれるかどうかと言ったら確率的に作らない方が高い。そうなったら昼食が抜きとなり空腹に耐えるしかない。
だから二人は慌ててファズマを引き止めるために走ったのである。
これは完全にディオスとミクが胃袋を捕まれていることを言っている。
「分かればいいんだ。そんじゃ後は頼むぞ」
そう言ってファズマは昼食に折れた二人を残して店から出て行った。




