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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
5章 アシュミスト連続殺人事件
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小さな足音

5章です

 この日、葬儀屋フネーラは新たな月を迎えた。

「もう少しで春か」

 昼の光にディオスは冬の寒さが僅かに薄れ暖かくなっているのを感じていた。

「何浸ってんだ」

 物思いに浸っているディオスに背後からファズマが声をかけた。

「俺がここに来てもう少しで三ヶ月経つのかと思って」

「そういやそんなになるか」

 ディオスが物思いに浸っている理由を知りファズマはあれからそれだけ経っているのかと思った。


 ディオスが葬儀屋フネーラに住み込みで働くようになってから色々と変わったし前とは違う面白さがあった。

 初めは慣れない仕事に不安しかなかったディオスが今では一人でも出来ることに大分慣れてきている。

 教える側としてはかなり力が入っていおり、今はモルテから遺体について教えられているが、それが出来たら今度はファズマが棺作りを教える番である。

(そういや、ディオスって意外に手先が器用だったな)

 モルテがディオスに教えている様子を覗き見した時、ディオスが自分よりも手先が器用であったことを思い出すファズマ。

 葬儀業の経歴としてはファズマが上なのだがディオスの上達が凄かった。喧嘩に明け暮れて度々手を痛めていたのを抜きにしても飲み込みが早い。


「ねえねえ、春になったらまたお花植えよー」

「おう。世話はミクに任せるからな」

「任せて!」

 春と聞いてミクが二人の話に介入してきた。

 ミクが切り出した会話にディオスはどういうことなのかファズマに尋ねた。

「ファズマ、どうゆうこと?」

「春になるとな、店の前に鉢を置いて花を育てんだ」

「どうしてそんなことを?」

「外観をよくする為とミクの趣味だな。外観なら買った花を花瓶に入れて置けばいいんだが、訳あって一から花を育てている」

 どうやらミクに何らかの理由があるのだと思ったディオス。

 その当のミクは去年収穫した種を植えるのが今から楽しみという様子を浮かべている。


「そういや、前から聞きてえことあったんだがいいか?」

「え?な、何?」

 突然何かを思って尋ねてきたファズマにディオスは戸惑いながら頷いた。

「いつも夜に何やってる?」

 いつからかは覚えてはいないがディオスが夜遅くまでリビングで何かをしているのを思い出したのだ。

 悪いことをしているわけではないようだが気になる。それに、ディオスは死神の弟子ではない。

 度々モルテはファズマかミクを連れて真夜中のアシュミストへと赴くが、ディオスには渓谷の歌姫以来一度も連れて行ってはいない。

 戻って来る時間帯は遅いのだがその頃には既に就寝している。

「復習だよ」

「復習?」

 意外なことを聞いたというファズマにディオスは説明をした。

「店長から人体の構成と遺体の処置について教えられているから忘れないように復習をしているんだ」

「真面目だな~」

 財閥時代の癖からなのか生真面目なことを言ったディオスにファズマは遠い目をした。

 そもそもファズマの場合は簡単な文字がかろうじて読めただけで遺体についてだけでなく市民文字に加えて貴族文字まで教えられていたから復習をするという考えが始めからなかったのである。


 そんな会話をしていると店のドアベルが鳴った。

「お帰りなさい師匠~」

「うむ」

 入ってきたのはモルテだった。

 そのモルテにミクが元気よく声をかけたが、モルテの表情はどこか不機嫌であった。

「店長、どうしたんですか?」

 ここ最近はどこかに出かけることが多く、その度に不機嫌を顔に張りつけて帰って来るためにずっと気になっていたディオスが勇気を振り絞って尋ねた。

「何でもない」

 その割りには表情が不機嫌と言えないディオス。同じ様にファズマも言えない。

「でも師匠、顔が怖いよ」

 そんな二人に気づかずミクが無邪気に尋ねた。

「そうか。これからは気を付けよう」

 ミクに表情の指摘をされたモルテはそう言うと僅かに表情を和らげ、店の奥へと入って行った。

「店長、何してるんだろう」

「さあな」

 モルテが何をしているのか分からない従業員達であった。

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