3.回避不可能な婚約
家で雇っている家庭教師たちのスパルタ教育により、私は日々公爵令嬢として完璧を目指しています。
ある日、クリスティの教育現場を見て「天使に、そんなにスパルタにしないで」と涙ながらに訴えたら、教育係にその場を閉め出されてしまいました。
その日、父は私に「お前が一番、甘やかしてどうするんだ」と苦言を呈してきました。
頭では理屈を理解しているんです。ですが、心では納得できません。なんて理不尽なんでしょう、この世界は!
クリスティは健気に「私はお姉さまの妹だから、大丈夫です」と天使なことを言ってきました。
アイザックは、私にすべてを上回れてから勉強に身が入らなくなって、いつも父に怒られています。
勉強などをする原動力が、『人を見下すこと』って我が弟ながら情けない思考ですね。非常にゲスいです。
そういえば、少女漫画ではアイザックは王太子ヘンリー・イズキリアット様の当て馬でした。
裏ヴァージョンでのヒーローとアイザックの戦いはひたすらゲスかった記憶があります。
最後には、見事に素敵にヒロインに振られていました。
さて、この世界に魔法設定があるくだらない理由が『悪役令嬢イザベル・フォレスターが王太子ヘンリー・イズキリアット様の自尊心を傷つける理由を一つでも多くする』ためです。
いくら設定だけといっても、これほどくだらない理由で魔法設定を使うのはあまりいないでしょう。ドン引きですね。
それに、私は剣術も習っています。
魔法だけで勝負事は勝てるということがありませんし、なによりヘンリー・イズキリアット様に嫌われる要素を増やすためです。
おかしな方向の努力のようなな感じはしますが、普通の努力をすることより私には相性がいいみたいです。
周囲は諦めて、もはや私のおかしな努力を止める人はいません。せっかくなので、このまま突き進む方向で行こうと思います。
メイドたち指導による自分磨きと勉強などをしているある日のこと、父に「よくやったな、王太子様とお前の婚約が成立した」と言ってきました。
婚約が成立?おかしい。少女マンガでは私は婚約者候補の一人だったはず。
私が不思議そうにしていると父は、
「本来なら他の婚約者候補もいたんだが、その年齢にしてはお前の魔力操作が優秀すぎるから、王太子様との婚約が成立したんだ。よかったな」
全然、全く、本当に、よくないんですが。
どこか、誰か、電波少女を知りませんか?
すぐ募集、今すぐ募集、超募集、電波少女募集です。
この手の転生小説の定番、『電波少女』。
救いの神の『電波少女』。
主人公が私の理想とする電波少女なんて都合のいいことは起きない気がします。だって、ここは現実ですから。
今日は、死刑執行気分になる王太子ヘンリー・イズキリアット様と初顔合わせの日です。
馬車に乗っている間は、市場に売られる子牛の気分。
いえ、子牛と言っては子牛に失礼ですね。
これはまるで『生贄』。
クズで馬鹿な男のお世話をするために選ばれた拒否権なしの生贄。
憂鬱でしかない。
私とは正反対に父は嬉しそうです。
当り前と言えば、当り前のことです。王家との個人的な繋がりができるのですから。
私はこのファーストコンタクトを失敗するわけにはいきません。王太子ヘンリー・イズキリアット様に嫌われることの大事な大事な第一歩です。人生を墓場にしないための!
お互いの父に紹介された後はお約束のように、『あとは若いお二人で』のような感じにいきなり二人きりにさせられました。
初対面で、二人きりとは難易度が高いですね。
そもそも、共通点や共通の話題すらありません。
マジでどうしよう!?
考えた末に、勉強していることを話題にしました。
この国の歴史やその他のこと。
彼は、自分の方が勉強ができると思い込んで色々習ったことを言ってきます。私はその都度、訂正を入れたり、ここはこういうことだと教えました。
段々屈辱的に顔を歪めていく王太子ヘンリー・イズキリアット様。
最後の方は、ただただ私を親の敵のように睨みつけるだけで無言でした。
帰りには馬車の中で父に「うまくいったか?」と訊かれたので、「もちろんです」と答えました。
少女マンガと多少の違いがあれど、初顔合わせは原作通りとなりました。




