96. 立花邸にて
気が付けば前回の更新からもう半年……
申し訳ありません。
「りぃちゃん、おきゃくしゃんがきまちたよ〜」
……支配人にこんな一面があったなんて。
春ちゃんも苦笑い。静香さんに至っては、さらりと流している。どうやらこれが日常らしい。
「我が子の可愛さに頭が沸いちゃっちゃみたい。ここの所あんな感じだから気にしないで。」
そう言いながらも、静香さんから小さくはない溜息が聞こえたのは気のせいではないはず。
「ちょっと立花、莉香の顔すごく迷惑そうよ? 起きたら落ち着いて話なんて出来なくなるんだから無理に起こさなくても良いでしょう?」
支配人につつかれて顔をしかめる、僅か生後2週間の莉香ちゃん。呆れ顔の静香さんに、私と春ちゃんは苦笑するしかない。
静香さんに注意され、ようやく愛娘から離れた支配人は、バツが悪そうに笑いながら私達の座るソファの向かいに腰掛けた。
静香さんの淹れてくれたコーヒーと一緒に、トルタ・ディ・チョコラータを頂く。期間限定でテイクアウト販売している店の商品をわざわざ用意してくれていたらしい。
流石は前フロアチーフの静香さん。サーブもさり気なく、流れるよう。
真っ白なボーンチャイナのプレートの上、ヴァニラのアイスクリームと、マンゴーのソースが添えられていて、さながらレストランで出される一皿と遜色ない。
「すごく綺麗ですね…」
「何気に飲食関係長いからね。盛り付けは散々見てるし、忙しい時はキッチンに駆り出されたりもしたもの。」
全員分をローテーブルに並べ、自身も腰を下ろすとニッコリ笑って静香さんはそう言い、コーヒーに口をつける。
「ちょっと待て、静香の飲み食いしたものが間接的とは言え、りぃちゃんの口に入るんだぞ?」
「……言われなくてもわかってるわ。デカフェよ、デカフェ。」
最早呆れた……と言うよりも、面倒臭そうな静香さん。
子どもを産んだ友人は少なくないけれど、ここまで——よく言えば——熱心な旦那さんはあまり周りにはいないタイプかも知れない。
支配人の「赤ちゃんがカフェインを摂取する危険性」の説明が始まりそうになったところで、春ちゃんがお祝いを取り出し、支配人のおそらく長いであろうレクチャー回避された。
静香さんがサムズアップして、「グッジョブ」なんて言ったのはきっと気のせいですよね?
気が付けば大の大人が2人、夢中で玩具で遊んでるとか……。支配人が大変お気に召した様で、良かったという事にしておきましょう。
「あの2人、気が合うみたいね。」
「そうですね……。」
「彼も子どもが産まれたらきっと立花みたいになるわよ?」
それはちょっと勘弁してもらいたいかも……我が子に赤ちゃん言葉で話しかける春ちゃんとか……想像できちゃう自分がこわい。
そうこうしているうちに、ひとしきり遊んで男性陣は満足したらしく、本日の本題へ。
普段の業務のかたわらでは、なかなか詳細までの話が出来ないし、静香さんの意見や春ちゃんの希望も直接聞きたいとの事で設けられた料理やドリンクについての打ち合わせ。
「披露宴のお開きから、二次会開宴までが2時間。あの会場からゲストが完全にはけて、荷物まとめて着替えてって時間考えたらまぁ良い感じじゃないかしら? 披露宴から流れてくるゲストと、二次会からのゲストの割合は?」
「二次会からのゲストの方が多くなると思います。」
「で、結局人数はどうなりそう?」
「恐らく80前後になるんじゃないかなぁ…」
「人数分の座席は用意は可能だとして、料理はどんだけ出るかなぁ……一応メニューはこんな感じな。それにパニーニ。デザートはウェディングケーキとジェラート、ティラミスにカットフルーツなんだけど、厨房の気分でメニューは変更あり。一応リクエストあったら伝えるけどあまり期待しないでくれ。」
料理やドリンクがどれだけ出るのか、私達の会が全てじゃないけど、ある程度の目安として今後活用していく上でのデータとして残したいそうな。
「どうせ終わって三次会行ったりするんだろう?普段の営業時間までなら、ドリンク代幾らか追加してもらえばそのまま居てもらってもいいぞ?」
「それ、すげぇありがたいです。大体三次会ってその場のノリで行くもんじゃないですか。人数集まっちゃうと入れる店を探すのが大変で……」
「特にこの辺りはそういう店も少ないしね。需要があれば提案していこうかと思って。ゲストの率直な意見も聞きやすいからこちらとしても助かるよ。」
披露宴にしても、二次会にしても、予定していた時間を押してしまうなんてよくある話。そのまま場所を変えずにのんびりさせてもらえるお店なんてなかなかないし、お日柄が良いとその後に別の会が入っていて、追い出されるように会場を出るなんて事もしばしば。
特に披露宴だと、限られた時間で掃除をし、レイアウトを変えて、テーブルクロスや装花をチェンジする為には仕方のない事で、その時間はまさに「戦場」と言った雰囲気になる。
だけれど、それは会場側の事情で、ゲストにしたら知ったこっちゃない事だよね。
出て行って欲しいのをあまり感じさせず、如何に気持ちよく会場を出てもらうのか、スタッフの腕の見せ所。
おもてなしをする側としては、時間の許す限りのんびりさせてもらえるのに越した事はない。
支配人のステキな気遣い(発案者は静香さんらしいけど)に感謝です。
静香さんのサポートの元、幾つかのプランを練ったのだが、必要なものはケースバイケースだろうという事で、基本のプランに必要なものを組み合わせていくスタイルで落ち着いている。
お料理はビュッフェスタイル・大皿スタイル・コースから選べ、それぞれに2〜3つの価格設定があり、私達はビュッフェで料理の追加があるタイプを選択。
基本のパーティプランに含まれているのが、乾杯用スパークリングワイン、お料理、フリードリンク、ケーキカット用のケーキ、キャンドルサービス、プチギフト。
パーティプランを利用した場合、ワイヤレスマイク、音響、スクリーン、プロジェクター、メインテーブル装花(フェイクなんだけどすごくリアルで素敵)の貸し出しが無料。
時間は受付からお見送りを含めて3時間。
カメラマン・司会者の手配、ゲームはオプション。
私達のケースのように、友人がそれを担ってくれれば、基本プランのみで十分立派な二次会ができる。
今回の様子を見て三次会と称してそのまま居座れるオプションを提案するか否かが決まるらしい。少人数で場所を変えて飲みたいって人達には不要かも知れないけれど、そういう時じゃないとなかなか会えない人たちも少ないくないから需要はありそう。事前予約必須だけど。
今回の飲み具合で料金の設定の目安にするとかしないとか。フードもどうするか検討するとの事。
ゲームの景品など2人が準備したものの持ち出しが多い場合は、会費にその分を上乗せして参加者から頂き、新郎新婦に上乗せ分を返金する事も可能。
また、予定していたよりも参加者が少ない場合は不足分をお二人に請求する。
金銭の授受は店のスタッフが行い、お開きになった後当日精算。余程の事がない限り、事前にまとまったお金を用意する必要も、当日大きなお金を新郎新婦が持ち歩く必要も無い。『上手くすれば新郎新婦の持ち出し無しで出来ますよ』っておおっぴらには言えないけど、結構ウリになるんじゃないかな?
招待状の作成とメール送信は自分達も関わるけれど、出欠の取りまとめや二次会の問い合わせ窓口は倉田さんと美咲ちゃんにお願いをしていることを伝える。
倉田さんと支配人、もうすでに直接やり取りしてるみたいだから今更だけど、念のため。何事も報告連絡相談、略して「ホウレンソウ」って大事だし。
式の事で頭が一杯だろうから、二次会の事は請け負うよって2人に言ってもらえてすごく助かっている。
今回準備を進めていく上で、二次会の出欠管理出来るWebサービスの存在を知って驚いた。現場から離れているし、本業は二次会じゃないからってのもあるけれど、勉強不足を痛感。
招待状の作成から出欠管理までオンラインで簡単に出来るどころか、住所は勿論、メールアドレスすら知らなくてもSNSのアカウントさえ分かれば招待状(勿論紙じゃない)を送れるらしい。流石にそれは抵抗あるから個人のメアドに送るけど。便利な世の中だなぁと思う反面、如何なものかと思ってしまうのは昭和生まれだからだろうか……。
なんだろう……確かに便利だよ、SNS。だけどなんか違うだろ?と思わなくもないんだよね。
ともかく、出欠管理及び進行、諸々を2人にお任せしてある。
今話し合うのは、その範疇外の事。
「テーブルの装花はどうする? 披露宴の使う?」
「持って帰れるか確認してみますね。私好みの装花を作ってくれる業者さんなので、出来たらそのまま使いたいですし。」
「披露宴終わったら俺が回収していくよ。車で長尾と瀬田乗っけていくから2人に運ばせる。他にもウェルカムボードとかあったら使えばいいさ。」
「助かります、よろしくお願いします。」
「装花はそれで問題ないわね。衣装も向こうが搬入してくれて、着付けも人を寄こすって。」
支配人と長尾さん、瀬田さんは披露宴に出席予定。
閉宴後テーブル装花やウェルカムボードなどの装飾品を運んでもらってそのまま出勤してくださるそうで……ちょっと心苦しいけれど、『二次会のスタッフとして参加できるのを楽しみにしているから!』なんて言ってもらえたり。本当に良い人達に恵まれた職場なのだなと改めて痛感する。
もうすぐ退職するのは後ろ髪引かれるけれど、みんな私の背中を押してくれた人達だ。前に進まないわけにはいかない。




