92. 執念と報告と招待状
「まじでこれ、やばいな…」
「いくらなんても春太郎写りすぎだろー?」
「結城の姐さんじゃなくてもこれは執念深いって言っちゃうよね。」
「本当にわかり易すぎ…」
テーブルの上に広げられたたくさんの写真。私と春ちゃんが持ってきたもの、貴子や山内くんが持ってきてくれたもの、そしてゆかりちゃんが出してくれた岡崎くんのもの。
岡崎くんにお願いするプロフィールDVD用の写真を選んでいるのだけれど、高校時代の写真が多すぎてなかなか決まらない。
お互いの誕生から中学卒業までの写真は割とすんなり決まった。高校時代の写真があまり多すぎたので、先に高校卒業してから今に至る写真も決めた。
そもそも、なぜそんなに高校時代の写真がたくさんあるのかといえば…。
高校卒業したあとの写真、特に20歳を過ぎてからのプライベート写真は、例の件のあと父の手によりフォルダごと消されてしまった為、手元には残っていなくて。それで友人たちに写真の提供をお願いしたところ、「こんなのもあったよ!」と、高校時代の写真――私の隣に春ちゃんがもれなく写っているものがこれでもか!?というほど集まった次第である。
私と貴子の間に割って入ってみたり、山内くんや岡崎くん、博之を押しのけてみたり。とにかく私の隣が多い。
「こんなにわかりやすくアピールしてたのに麗ちゃん気付かなかったの?って言うか、浅井くんは告白しなかったの!?」
執念深いかどうかは別として、舞ちゃんの言うとおり、この枚数と写真から読み取れる状況を客観的に見たら、当時彼は私のことが好きだったんだろうな…と思わざるを得ないだろう。なんか自惚れてるみたいで嫌だけど。
「ほら、当時麗が好きだったのは俺じゃないし?それに年上の彼氏がいるって噂あったし。」
「まぁ、実際は彼氏じゃなくてお姉さんの旦那さんだったわけだけど。」
「あの頃義兄には学校まで迎えに来てもらうことも多かったし…だけどそんな勘違いされてたなんて割と最近知って驚いたよ。」
なんかこんな会話したことある…そういえば、春ちゃんのおうちで弥生さんたちと初めて会った時もこんな会話をしたんだっけ。というかむしろ、その時に巧さんが彼氏だって勘違いされてた話を教えてもらったんだっけ。
「それにしても、2人とも随分遠回りしたねぇ…」
「この写真なんてさ、こうなることが分かってた…って写真じゃない?」
「本当だよね、めっちゃいい感じ。」
「こういうのを運命って言うのかなぁ…」
「やだぁ、舞ちゃんってそういうキャラだっけ?」
「ゆかりちゃん、柄にもなくそういうこと言ってみたい気分の時もあるでしょ?」
当時を知らない舞ちゃんゆかりちゃんが何気に一番楽しんでいる気がする。このテンションはまるで恋バナをする女子高生みたいだ。そして、そんな舞ちゃんが1枚の写真を手に取り、みどりちゃんと彩ちゃんに質問する。
「みどりちゃん、彩、この写真に写ってるの誰か分かる?」
「……これ、しゅんちゃん。こっちが、うららちゃんでしょ?」
「あ!これ、たかこちゃんだ!」
「彩、これは?」
「みどり、このイケメン誰かわかるだろ?」
大人目線で見ても、当時から最も変わっていないのは春ちゃんだ。ありがたいことに、私と貴子も2人が認識できる程度の変化らしい。
「うーん。わかんないや。」
「みどりもわかんない。」
山内くん、岡崎くん、ドンマイ。愛娘たちに認識されなかったパパ2人はがっくり落ち込んでいるけれど…仕方ないかも。面影がないわけじゃないけれど…やっぱり10年以上前の写真だし…髪型とか髪色も違うしね。
「彩ちゃん、これは彩ちゃんのパパな。みどりちゃん、こっちがみどりちゃんのパパ。」
「「えー!?」」
春ちゃんの解説に、彩ちゃんみどりちゃんの驚きの声がハモる。その声を聞いて、さらに落ち込むパパ2人。一方、母たちはそんな父娘それぞれの反応に笑いを堪えていた。
こういう作業って意外にも当時を知らない人のほうが客観的に見ることができるのかもしれない。
舞ちゃんゆかりちゃん、そして彩ちゃんみどりちゃんも写真の選定作業に加わったところすんなり写真が決まっていく。
動画投稿サイトに投稿されているプロフィールムービーを参考に、それぞれの写真についてのコメントを考え、こんな感じが好みだとか、こういうフォントを使って欲しいと大まかな希望を伝える。
全体のバランスや音楽は、ゆかりちゃん監修の元、岡崎くんのセンスにお任せして。
ブランクがあるとは言え、岡崎くんと春ちゃんは付き合いが長いし、ゆかりちゃんは私の好みを把握してるから安心してお願いできる。
***
「先週…一応ね、博之に会って話はしてきたよ。なんかこっちが一方的に話してた感じは否めないけど。」
「3人じゃなくて博之の同期で俺の留学仲間も一緒だったから…緊張してたけど、まぁ伝えたいことは全部伝えられたかな。」
お昼すぎから一緒に全力で遊んでいたらしく、早々と睡魔に襲われ始めた彩ちゃんみどりちゃんがママ達に別室で寝かしつけられている間、貴子と山内くんと岡崎くんに先週の事を報告した。
「どんな…感じだった?」
「まぁ俺と会ってすぐは割と楽しそうに話してたし、子どもは可愛いって言ってたんだけどな。嫁の話になったら急に表情が曇って…」
「未だに麗のこと引きずってたわけか。」
苦虫を噛み潰したような顔で尋ねる山内くんに、苦笑しながら春ちゃんが肯定する。
「案の定、麗の姿見た直後は嬉しそうな顔してたけど。麗の指輪に気付いて固まってた。」
「すかさず春ちゃんが籍入れたことを伝えて、ちゃんと現状は理解はしてもらえたかな。」
ね?と、春ちゃんに同意を求めれば、何故か貴子がニヤニヤした顔で私と春ちゃんの顔を交互に眺める。
「つまり、イチャイチャ見せつけてきたわけね?」
「別に意図的にそうするつもりはなかったんだけど…」
「まぁ、結果オーライってことじゃん。ショック与える位が丁度良いだろ?じゃなきゃあのバカは変な期待をしかねないし。」
結局3人の生温い視線に、私も春ちゃんも赤面して。赤面して黙り込んでしまうのが、完全にイチャイチャしていたことを認めているのと同等だと分かっているのに。
「大介…あいつの同期で俺の友人の話だと、みんなを怒らせたことはあいつなりに反省してるらしいし、結構気にしているらしい。…だからこそ悩んでるみたいだって。」
3人の視線にいたたまれなくなった春ちゃんが話題を変える。それを聞いて山内くんと岡崎くんの表情が複雑なものになった。きっと2人も立場は違えど、博之と同じ気持ちであるのだろう。
「大介は無理矢理でも連れて来てくれるって言ってる。口には出さないらしいけど博之も本音としてはお前らに会いたいと思ってるみたいだし。ただ、合わせる顔がないとか、どう接したらいいかわからないんじゃないかって。」
「それはぶっちゃけお互い様だよね。特に私たちと、委員長オガちゃん長谷川くんあたりは。一度、3人交えて私たちで話してみるよ。ね、こーすけ。」
「おう、元通りに…ってのは無理だけど、現状のままってのも気分悪いしなぁ…。話し合った後、ほかの奴らにも根回しはしとくべきだし。春太郎、その辺りは俺らに任せてくれないか。」
「勿論、よろしく頼むよ。」
皆の表情が柔らかくなる。
罪悪感を拭いたいだけのただの自己満足――博之へ皆との和解を提案したのは結局のところ自己満足なのだ。だけれど皆も賛成してくれている以上、きっとそれだけではないはず。
懸念事項がまたひとつ、解決されていく。
春ちゃんと再会してから、いったい何回目だろう?こうして安心感を与えてもらうのは。
***
子どもたちの寝かしつけに成功した舞ちゃんゆかりちゃんが再び合流したので、今日の打ち合わせで受け取ったばかりの招待状をそれぞれに渡す。
「ゆかりちゃん、お腹が大きくて大変な時だけど…もしよかったらみどりちゃんも一緒に出席してもらえないかな?姉や姪がお手伝いするし、もし万が一ゆかりちゃんが産気づいても、会場からは病院近いし…。」
「勿論康介んとこもさ、夫婦だけじゃなくて彩ちゃんにも来て欲しいと思ってる。」
「無理がなければ、二次会にも…と思ってるんだよね。日曜日だから、時間も早めだし…。」
私たちの式の頃、ゆかりちゃんは9ヶ月後半。臨月間近の妊婦さんだから、本人の負担を考えると無理をさせちゃいけないのはわかっているんだけど…。幸い、大人の手はたくさんあるし、万が一の時、協力をお願いしたら皆が快く引き受けてくれた。しかも、ゆかりちゃんが出産予定の病院だって式を挙げる料亭からはもちろん、二次会の会場となる私の職場からだってタクシーを使えば15分かからない。
「妊婦は病人じゃないからね!勿論出席するよ。みどりもすごく喜ぶし。」
「ゆかりちゃん、私達も勿論サポートするからね。」
「当日はうちが車出すよ。子どもいたら荷物多いし、移動は楽な方がいいもんね。いざとなったら病院にも連れて行くし、みどりちゃんはうちでお預かりするよ。彩といっしょならきっとどうにでもなるし。」
「2人がそう言ってくれるとめっちゃ心強いよ。いざとなったらみんなよろしくね。」
「一応医者と看護師も招待予定だしな。」
医者というのは小児科医をしている委員長のことで、看護師というのは奈津子ちゃん。高校の同級生は、他にユキちゃん、小川くん、長谷川くんを呼ぶ予定。それに、担任だった結城の姐さん。
「なんか濃いな、招待するメンバー。」
そういえば、夏の同級会の時に2軒目に行ったメンバーと同じだ。
春ちゃんはあれ以来、その3人とやたら仲が良いみたい。高校時代も割と絡んでたというか、3人が春ちゃんに振り回されてる感はあったけど。
皆からの「出席」という嬉しい返事をもらったところで、本日はお開きとなった。式まではあと2ヶ月半。これからますます忙しくなりそうだ。
短編「冬のカフェ・オ・レ」投稿いたしました。
当初は、「はるのひだまり」92話として書き始めた話だったのですが、「はるのひだまり」に博之視点はどうなのか?という疑問が生じたため短編という形で投稿いたしました。
お手隙の時にご覧頂ければ幸いです。




