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68. 温泉旅行・後編

「あー!パパもしゅんちゃんもビールのんでる!」

「たっちゃん、ごはんのまえにおかしたべちゃいけないんだよ?」

「だから達ちゃん、今は菓子食うなって言ったんだよ…。」


 夕食前、早めに温泉から上がって正解だった。

 みどりちゃんや彩ちゃんのお世話をして、自分たちで選んだ浴衣を互いに試行錯誤しながら着付けて部屋に戻ればすっかり夕食の準備が整っており、待ちきれなかった3人が夕食にはまだ手を付けていなかったものの、スナック菓子をツマミにお風呂上りのビールを楽しんでいたのだから。


 食事前にお菓子を食べたらご飯が食べられなくなるからダメと、みどりちゃんも彩ちゃんも普段言われているのだろう。いかにも腑に落ちないといった顔をしている。一方、食べる姿を目撃され、直接抗議を受けた達哉さんは非常にバツが悪そうで、必死で身を屈めて小さくなっている。それを見て思わず皆で笑ってしまった。




 大勢で食べる食事はやっぱり楽しい。美味しさだって倍増だ。

 茸たっぷりのすき焼き、松茸の土瓶蒸し、栗ごはん等、秋の味覚にゆっくり舌鼓を打ちながら、今日1日の事や明日の予定を話した。

 美味しい料理のせいでお酒がすすんだのか、食事が終わるころには、春ちゃんも山内くんも程よく出来上がり、達哉さんに関しては既に睡魔との闘いが始まっていた。

 お布団の用意をしてもらうと達哉さんは一瞬にして眠ってしまうほど。

 みどりちゃんと彩ちゃんは、寝ている達哉さんなどお構い無し。彼の寝ているすぐ近くで遊び始めたのだった。

 しかし、そんな2人を舞ちゃんが許す筈もなく、彼女の指導の下、私もみどりちゃんと彩ちゃんの歯磨きやら着替えを手伝った。

 歯磨きを終え、パジャマになった2人はさらに楽しくなってしまったらしい。寝かしつけようとする舞ちゃんと山内くんに対して、笑顔で反抗する彩ちゃんと、それに乗っかるみどりちゃん。いつもと違う環境に気が大きくなっているようだ。


「きょうはママとねないもん。パパとしゅんちゃんとねるんだから!」

「みどりがしゅんちゃんとねるんだよ!」

「じゃあ3人で寝ようか…いや、康介と寝てる達っちゃんもいれたら5人か。」


 見かねた春ちゃんが寝かしつけを申し出てくれたので、2人を春ちゃんと山内くんに託し、私達はもう1回温泉に入ることにした。






 ***


「貴子、今日の事…予定立てたり、予約したり、みんなに連絡してくれたり、色々ありがとね。」

「そんな気にしないでよ!こういうの好きだし、みんなが楽しそうで…麗も楽しんでくれてるのが嬉しい。」


 結局、舞ちゃんはゆかりちゃんからの着信があり、私と貴子で先に入浴することになった。こうして2人で温泉につかるのは久しぶりだ。以前は年に2回は皆で旅行に出かけていたし、数年前、私と貴子が温泉にハマっていた頃なんて、日帰りを含めると月一のペースで温泉に入りに行っていたくらいだ。

 だけど、ここ1〜2年、特に今の仕事を始めてからは休みが合わなかったり、お互い忙しかったりで旅行なんて出来なかったもんな…。




「ねぇ、こないだ麗が酔っぱらった時、私に相談したこと、浅井くんに話した?」


 露天の檜風呂には私と貴子の2人だけ。少し離れたところにある大きな岩風呂にはポツリポツリと人影が見えるも、私たちの会話が聞こえるような距離だとは到底思えない。


「春ちゃん、やっぱり気を遣ってくれてるんだと思う。だからこそ言いにくいっていうか…。先週、久しぶりにうちでまったりしたんだよね、ご飯食べて、借りてきた映画(DVD)見て。ミステリーだったんだけど、いわゆるラブシーンがあって。…あの気不味さは尋常じゃなかったなぁ…まるで、親と一緒にテレビ見てたらそんなシーンが流れちゃった中学生な気分…。」

「その表現…相当気不味かったんだね…。」

「この年でさ、しかも相手は婚約者だよ?バカみたいでしょ、私。その前のお休みは、初めての打ち合わせで。なんかさ、あらためて実感させられたよ。前職に未練があるんだって。担当のプランナーさんが専門の後輩で、私の事覚えてたっていうか知ってたんだよね。その時も春ちゃんが気を遣ってくれて…。もう、私ダメダメだよ…仕事だってどうするか考えなくちゃいけないのに考えられないし。もう既に気を遣われているんだけど、はっきり打ち明けてこれ以上心配させたくないって言うか…これ以上面倒くさい女だって思われたくない。」


 自分でも面倒な女だって自覚がある。同じ事を何度も思い返してウジウジ悩んで、すぐ泣くし、すぐ凹む。そんな自分が嫌い。

 一進一退を繰り返して、前に進めているなら良いけれど…。果たして私は前に進めているのだろうか?


 先週、まったり過ごした時にその件について打ち明けるつもりでいたけれど、気不味さのあまり言えずじまいだ。それどころか、最近はずっと、変に意識してしまって手を繋ぐのさえ精一杯。キスとかイチャイチャなんて最後にしたのはいつだろう…。


「言わない方がかえって心配させちゃってるんだけどな…。」

「え?」

「面倒でも良いじゃん?良いとこだけ見てもらおうとしない方が良いと思うよ。それにさ、きっと浅井くん、面倒だなんて思ってないよ。気を遣ってるのだってさ、彼がそうしたいからしてるんじゃないの?残念なくらい思ったことはっきり言う人なんだし、面倒だったらそもそも気を遣わないと思う。」


 貴子の言葉には妙な説得力があった。確かに、私は今まで良いところだけ見てもらいたいと思っていて、実際自分の弱いところとか、都合の悪いところは極力隠そうとしてきたように思う。


『何か悩みとかあるなら相談しろよ?言いにくい事を無理に言えとは言わないけど、頼って欲しい…。不安な事があるなら打ち明けて欲しい…。俺にも関わることであるなら尚更…。』


 数週間前、そう言われたばかりだっていうのに。それは、春ちゃんからのメッセージだったんじゃないか。言わない方がかえって心配だって…。



「今回の旅行でゆっくり話す機会があれば良いんだろうけど…。みどりちゃん、2人にベッタリだったもんね。まぁ、それ以上に浅井くんを追いかけ回してたのは達哉なんだけど…。知らない人からしたら浅井くんと麗とみどりちゃんは親子にしか見えなかったと思うよ。実際、何度も間違えられてたじゃない?数年後には友人の子ども(みどりちゃん)じゃなくて、浅井くんと麗の子ども連れて旅行出来ると良いね。ほら、その為にもさ、ちゃんと話すんだよ。」


 ぶどう狩りでも、蕎麦打ち体験でも、私と春ちゃんとみどりちゃんは親子に間違われっぱなしだった。恥ずかしい様な、岡崎くんとゆかりちゃんに申し訳ないような複雑な気分だったけれど、貴子の言うように、早く結婚して彼との子どもが欲しいなんて思ってしまう自分もいて、すごく変な気分だった。


「数年後には、お互い子連れで旅行したいね。私の子どもと貴子の子どもも親友になれるかな?」

「同性ならきっとなれるよ。性別違ったら…恋に落ちちゃったりして!?…だけど、達哉はまだ子どもは早いって言うんだよね。離れて暮らしてたのが大きいんだと思う。未だに新婚気分だからね、達哉は。そう考えると、麗の子とうちの子、同学年狙えるかも…なんて!そうなったら楽しいだろうな。彩ちゃんとみどりちゃんみたいにさ。」


 そんな話をしていると、檜風呂にご年配の2人組がやって来た。50年来のお友達だそうで、同じ年のお嬢さんがいらっしゃるそうだ。

 私と貴子を見ているとまるで自分達の若い頃の様だと嬉しそうに話してくれた。




 結構な時間、お湯に浸かりっぱなしだったらしい。立ち上がるとのぼせたのか少し目眩がした。


 母親になっても、おばあちゃんになっても一緒に旅行しようね、なんて話しながら部屋に戻ると舞ちゃんと山内くんは2人で楽しそうにお酒を飲んでいた。


「ごめんごめん。結局、ついさっきまで電話してて。メールしたんだけど、2人ともスマホ部屋に置いて行ったんだね。」

「麗、春太郎が浮気してるぞ?両手に花…ならぬ『両手に小花』だけどな!」

「ちょっと、こーすけ?『浮気』とか言わない!」


 襖をそっと開くと、春ちゃんを中心に、みどりちゃんと彩ちゃんが同じ布団で寝ていた。2人とも、春ちゃんの腕にしがみついて寝ているとかめちゃめちゃ可愛い。思わずその姿をカメラに収めてしまう程。


「大丈夫、今回は私公認の浮気だから。彩ちゃんとみどりちゃんの寝顔すごく可愛い…癒されるね。」

「寝顔は天使ってよく言ったもんだよ。麗ちゃんも貴子ちゃんもそのうちきっとその本当の意味を知ると思うよ〜?」


 舞ちゃんの意味深な笑みにちょっとドキッとする。まぁ要するに、可愛いだけじゃないって事なんだろうな。

 山内夫妻に勧められ、私と貴子もお風呂上がりのビールを1本ずつ堪能して、フカフカのベッドに、フワフワした気分で潜り込むとあっという間に眠りに落ちたのだった。






 ***


 翌朝、ゆっくり朝食を取り、宿をチェックアウトして牧場へ向かう。

 牛の乳搾りやポニーの乗馬、ウサギやヤギ、ヒツジとふれあえるミニ動物園、バター作りなどが出来る工房のある体験型の牧場で、大きな滑り台などの遊具やお花畑、小洒落たレストランやカフェまである、大人から子どもまで楽しめる施設だ。


 到着してすぐはニコニコ仲の良かったみどりちゃんと彩ちゃんだったが、お昼を過ぎた頃から、疲れがたまってきたせいか、だんだん2人のムードが険悪になってしまう。

 どちらが先に滑り台を滑るかで揉め始め、その後も、どちらが抱っこしているウサギが可愛いだの、どちらが上手に乳搾りが出来ただの全てにおいて張り合い始めたのだ。


「あや、もうつかれてあるけない…しゅんちゃんだっこして?」


 決定的だったのは彩ちゃんのそんな一言。


「ダメ!みどりがしゅんちゃんにだっこしてもらうの!あやちゃんはパパにだっこしてもらえばいいでしょ?」

「みどりちゃん、きのうずっとしゅんちゃんにだっこしてもらってたもん。きょうはあやがしゅんちゃん。みどりちゃんにあやのパパかしてあげるから!」


 春ちゃんの抱っこを巡ってケンカを始めてしまった2人。大人たちが宥めるも、言い争いはどんどんエスカレートしていき、しまいには2人で大泣き。困り果てた春ちゃんが、仕方なく2人をまとめて抱っこしようとしたとき、遂にカミナリが落ちたのだった。


「ケンカしたからもう帰るぞ。彩もみどりちゃんもうちの車に乗ること。ほら、春太郎困ってるだろ?それに、春太郎は彩のものでもみどりちゃんのものでもないからな!だいたい春太郎は物じゃないし、春太郎が1番好きなのは麗だぞ?」


 山内くんの叱責に、みどりちゃんも彩ちゃんも言葉を失い泣き止んだ。大泣きして乱れた呼吸のまましゃくりあげている。


「わかったら、春太郎と麗に謝ろうな。それから2日間お世話になったお礼もな。」

「「しゅんちゃん、うららちゃん、ごめんなさい…それと、ありがとう…」」


 さすがパパ歴3年、いや、もうすぐ4年になる山内くん。みどりちゃんと彩ちゃんも無事に仲直りし、ようやく和やかな雰囲気が戻る。

 2人が落ち着いたところで、全員で一緒にソフトクリームを食べて解散した。


 別れ際、みどりちゃんも彩ちゃんも笑顔で手を振ってくれた。

おまけの小ネタ

お酒が入るとどうなるか…


・麗

やたら冷静→よく笑う→キス魔(本人は否定)→寝落ち

※だいたい第2段階止まり。


・春太郎

妙に冷静→饒舌→思ってることダダ漏れ→(ごく稀にトイレを占拠)→寝落ち

※第2段階止まりの事が多いが、麗父と飲むと寝落ちは確実。


・貴子

スケベオヤジと化す→セクハラオヤジと化す→トイレを占拠

※非常に強いので、第2段階以降になることは稀。


・達哉

楽しくなる→気が大きくなる→寝落ち

※どんなに酔っても、とりあえず自宅には戻って来るが、その記憶はほぼ無い。そんなに強くない。


・康介

普段よりも笑顔と下ネタが増える

※貴子以上に強いので、さらに飲むとどうなるか誰も知らない…


・啓

下ネタが増える→やたらハイテンション→寝落ちorトイレ占拠

※割と弱いが、セーブする事を覚えたので、第2段階で留まる事が多い。


・舞&ゆかり

少量飲んだだけで顔が真っ赤になるので、ベロベロに酔うまで周りが飲ませてくれない。

※ゆかりちゃんは現在妊娠中なので飲みません。


・美咲

楽しくなる→凹む→キス魔(本人やや自覚あり)→冷静になって凹む→寝落ち

※職場の人と飲む場合は第1段階止まり。麗と飲むと第2段階止まり。昔からの友人と飲むと、キス魔になるとかならないとか。


・倉内

変わらない。

※酒が強い上に上手く逃げる(セーブする)のでそもそも酔うまで飲まない。


・小春

楽しくなる→世話を焼く→冷静になる

※どんなに酔ってもちゃんと布団で寝る。


・巧

ご機嫌→笑いが止まらなくなる→トイレ占拠

※最近は第2段階に突入した時点で小春ストップがかかる。




「はるのひだまり」で、飲酒シーンの際、妄想を膨らませてお楽しみ頂けたら幸いです。


お酒は20歳になってから。

くれぐれも、飲み過ぎにはご注意下さいませ。

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