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63. お揃い

「遅くなってごめんね…。」

「珍しいな、そういう格好。なんか新鮮。」

「そう言われれば春ちゃんと会う時、ワンピースとかスカートばかりだね。割と普段はこんな感じ…かな。」


 今日は姉の家に遊びに行く。だからという訳でなく、単純に寝坊をしてしまったので支度に時間をかけられなかったのと、待ち合わせになるべく走って向かえるようにかなりカジュアル……具体的には細身のデニムとTシャツとスニーカーといった出で立ちの私。もちろんメイクも簡単に済ませているのでかなり薄め。


 春ちゃんに指摘された通り、彼と会う時にこんな格好なのは珍しい。

 やっぱり好きな人の前では可愛く在りたいというか、可愛いと思ってもらいたいので、服装もメイクも気合が入ってしまう。


 特に最近は、式場の見学だったり、お互いの親に挨拶とか報告とか、ちょっとあらたまった機会も多かった。それと比べると、まるで別人とまではいかないだろうけど、雰囲気は全然違う。

 春ちゃんも、今日はいつもよりカジュアルだ。私と同じく細身のデニムに、薄いブルーのボタンダウン、そしてやはりスニーカー。

 なんとなくテイストが似ているのが嬉しくて思わず笑顔になる。


「思ってたより元気そうで良かった…。」


 そんな彼の呟きにドキリとしてしまう。


「え?どういう意味?」

「あのさ…ほら、先週なんか元気なかったみたいだったからさ…」

「あ…うん、心配かけてごめんね。あの日は二日酔いだったから…」


 なんとなく微妙な空気が流れる。嘘はついていないけれど、本当の理由を言えぬまま、咄嗟にごまかしてしまった。二日酔いだった事以上に、あの日は精神的なダメージが大きかった。

 本当の理由を彼が知るはずないが、二日酔いのせいだけじゃない事に彼は気付いている気がする。

 だけど、「そりゃそうだよな…」とそれ以上その事には触れず、納得した表情で彼が頷けば、これ以上この話をし続ける必要はない。

 落ち込んでいた理由なんて、真昼間、外で言えるような内容ではない訳だし。


「あれ?春ちゃん顔が赤いけど大丈夫?」


 手を繋いで歩いていると、なんだか春ちゃんがそわそわしているのを感じた。ふと、彼の顔に視線をむけると真っ赤な顔で目をそらされてしまう。


「なんで目をそらすの?」

「べ…別に…そらしたわけじゃ…恥ずかしくて麗の顔を直視出来なかっただけだから…。」

「恥ずかしいって…変な春ちゃん…。」

「あ、あれだよ、いつもと雰囲気が違ってドキドキしちゃったってやつ。うん、そうだ。……ところで、お土産何にしようか?」


 ごまかされた気がしないでもない。それに、先程からなんとなく胸元に彼の視線を感じる気がするんだけど……もしかして、普段はしないこのネックレスのせい?


 今日は珍しく彼からもらったピアスをしていない。今日の格好に合わないわけじゃないけれど、今日しているネックレスに合わなかったのでつけなかったのだ。

 ホワイトゴールドの細い鎖に、ハート型のペンダントトップのついたごくシンプルなデザイン。私が初めてもらったオモチャじゃないネックレス。


「春ちゃんさ、さっきから私の胸元見てるよね?」

「……ごめん。決して変な事を考えている訳じゃないから!……そ…それ、珍しいなって思って。」

「ネックレス?」

「あ…うん。」


 やっぱり、今日の春ちゃんはなんか変だ。ネックレスを見て動揺している…のかな?何か勘違いしたりしてる?例えば…元彼(博之)からのプレゼントだと思われてるとか?ってそんな訳ないよね。


「ほら、麗ってアクセサリー殆どつけないじゃん?俺があげたやつ以外……。」


 私が首を傾げていたせいか、まるで取り繕うかのように春ちゃんは言った。どうやらいつもつけているピアスを今日はつけていなかったのが気になったらしい。


「普段付けないのは、ほとんど持っていないから…かな。前にも言ったでしょ?ほとんど処分したって。母からもらった冠婚葬祭用のパールと…大事にしてたこれくらい。」

「大事な物なんだ?」

「うん。宝物だよ。すみれが産まれた時、『家族が増えた記念』て言って巧さんがくれたの。お姉ちゃんとすみれと3人でお揃いなんだ。お姉ちゃんのはちょっと違うけど良く似たデザイン。すみれが大きくなったらプレゼントするって巧さん言ってたんだけど……最近あげたらしくて。お姉ちゃんと今日お揃いでつけようって約束したの。だけど、今、一番のお気に入りは春ちゃんからもらったピアスだよ?今日はこっちと合わなかったからつけてこなかったの。ごめんね。」


 私がそう説明すると、いつもの笑顔に戻った春ちゃん。

 お土産兼デザートに、果物屋さんのフレッシュフルーツゼリーを買い、地下鉄で姉の家へ向かった。






 ***


「本当に麗ちゃんとお揃いなんだ…。」

「そうだよ。」

「誕生日でも記念日でもなんでもないのにパパがくれるって言うからなんか不気味だったんだけど…」

「不気味って…さすがにそれは酷くない?…これがどういうものか聞いてないの?」

「うん。麗ちゃんとお揃いとしか聞いてない。麗ちゃんがつけてるなら私もつけようかな?ちょっと待ってて!」


 姉の家に着き、すみれは私の顔を見るなりネックレスに気付いた。そして、駆け足で階段を上って部屋へ行ったかと思うと、すぐにネックレスをつけて戻ってきた。


「同じネックレスなのに麗ちゃんがつけてると超可愛く見える不思議…。」

「すみれだってよく似合ってるよ。」

「麗ちゃん…なんでパパはこれを私にくれたんだろう?麗ちゃんはそれ、どうしたの?」


 私は手土産のゼリーを冷蔵庫にしまうと、食事の準備を手伝いながら、すみれに13年前の話をした。


「お姉ちゃんがすみれを産んだばかりで入院している時の話ね。巧さんにね、こんな可愛い娘を産んでくれたお姉ちゃんにプレゼントしたいのだけど何が良いかな?って相談されて…。それで、私が選んだら絶対お姉ちゃんが気にいるからって一緒に選ぶ事になったの。私とお姉ちゃんって好みがすごく似てるんだよね。一応巧さんも幾つか候補を絞っていたみたいだけど、お姉ちゃんの趣味とは微妙に違って…それで、結局私が選んだのをプレゼントする事にしたんだけど、その時、同じシリーズで近くに飾ってあったこれを巧さんが見つけて…。『すみれは大きくなったらどんな女の子になるんだろう?』『すみれにもきっと似合うはずだ』って一緒に買ったんだよ。私も、『家族が増えた記念に』って同じものプレゼントしてもらったの。」

「じゃあ、これって私が産まれた記念に買ったものだったんだ…。」

「そうだよ。すみれがこういうのつける年頃になったら渡すって言ってたもん。…でも、てっきり誕生日とかにあげるんだろうなって勝手に思ってたから、なんで今なのかは私にもわからないけど…すみれが大人になったって事じゃないかな?」


 すみれの素直な反応がすごく可愛らしかった。目を潤ませてネックレスをギュッと握っている。


「オモチャじゃないからね?大事にするんだよ。中学生でホワイトゴールドなんて贅沢だよ?ちなみに、お姉ちゃんのはプラチナでダイヤ付き。」

「うん。宝物にする。ママだけダイヤ付きなんてずるいや。」


 すみれは照れ隠しなのか、頬をぷくっと膨らませてそう言った。しかし、すぐにニカッと笑い、こっそり涙を拭いていた。




「春太郎くん、改めておめでとう!!」

「こちらこそ、本当にありがとうございました…小春さんと巧さんのご協力やアドバイスがあったからこその結果です。」

「そんな風に言われるとなんだか感慨深いなぁ…。」

「ほら、飲んで飲んで!麗も飲もうよ?すみれもおいで〜。」


 春ちゃんは巧さんと姉と話しているようで、楽しそうな声がキッチンまで聞こえてくる。春ちゃんと巧さんは時々仕事帰りに会って飲んでいるらしくすっかり仲良しだ。

 料理や食材を運ぶお手伝いをしていたすみれと私も、飲み物を持って皆がいる庭のウッドデッキへ移動した。

 今日は七輪でBBQ。すみれの希望だそうだ。


「すみれちゃん、やたら大人っぽくなったよな?前会った時…半年前となんか印象違うよ。」


 春ちゃんがそう言う通り、すみれはすっかり大人っぽくなった。半年前は私と変わらなかった身長も、今ではすみれの方が少し高くなっていた。それに髪も伸びて、顔つきも随分違う。


「そりゃ変わるよ。半年も経ってるんだもん。」

「彼氏でも出来た?」

「まぁ…ね。」

「すみれ、聞いてないぞ?」

「なんでパパに言わなくちゃいけないの?」

「小春は知ってたのか?」

「まぁ…ちらっと聞いてたかな?」


 すみれに彼氏がいた事に、ショックを受ける巧さん。いた事もショックだけど、姉が聞いていたのに自分が知らなかった事が余計にショックだった様だ。

 いくら周りよりも若くてカッコいいお父さんだとは言え、巧さんが「お父さん」である事には変わらない。

 私だって、姉だって、母には言えても父にはなかなかそういう話を出来なかったし。


「巧さん、お姉ちゃんだってずっとお父さんに巧さんと付き合ってること内緒にしてたじゃない?娘なんてそんなものだよ?」

「分かっているつもりではいたんだけど…実際自分がそうなると……」


 姉と巧さんは姉が大学生になった年に付き合い始めた。私と母は2人が付き合いだしてすぐ彼を紹介されたけれど、父にはずっと彼氏がいる事すら内緒にしていた。父に彼氏がいる事を話したのは、姉が卒業する年、結婚したいと言い出した時だ。それを考えたらすみれが巧さんに言わないのもごく当たり前と言うか、仕方ない気もする。


「巧、すみれなんて可愛いもんよ?私の中学生の頃なんて父とほとんどしゃべらなかったもの。」

「確かに、あの頃お姉ちゃんとお父さん仲悪かったよね。」

「反抗期だったから仕方ないでしょ?…だけど麗は反抗期無かったよね。」


 そんな私達の会話を聞いて、すみれはニヤニヤしていた。どうやら自分の母親にも反抗期があったというのに思うところがあったらしい。


「あの麗ちゃんがいよいよ結婚するんだもんな…俺が初めて会ったのって、丁度すみれ位だったけ。そりゃ俺も歳を取るわけだ…。」

「中学生の麗かぁ…可愛かったんだろうな。」

「可愛かったわよ?高校の時よりも控えめな感じというか、清楚で随分モテたらしいじゃない?」

「モテてなんてないよ。中学の頃は暗かったし…私。」

「暗いイメージは無かったよ、真面目そうだなとは思ったけど。あの頃の麗ちゃんはすみれと違って落ち着いていたし、もっと大人っぽかったなぁ…」

「なにそれー?パパ酷くない?」


 自分がコドモだって言われていると感じたらしいすみれが不貞腐れた顔で巧さんを睨んでいる。巧さんはそんなすみれに笑いながら言う。


「そういうところがコドモっぽいんだよ、すみれは。」

「私が大人っぽくなったからこれをくれたんじゃなかったの?」

「そのつもりだったんだけどね。思ってたよりすみれはコドモだったみたいだ。」

「そりゃあの頃は巧だってまだ若かったし、それにすみれは自分の娘だからね。いくつになってもコドモに見えるわよ。」

「すみれ、まぁそういうことだ。特に深い意味は無いけど、ママと相談して、初めてパパが麗ちゃんに会った位になったら渡そうと思ってたんだよ。それに麗ちゃんには家族が増える記念であげたからね。無理なこじつけだけど、春太郎くんも身内(かぞく)になることだし…いい機会だと思ってさ。」


 にっこり笑った巧さんとすみれの顔はそっくりだった。

 春ちゃんは、巧さんに『身内(かぞく)』と言われて、照れくさそうに笑っていた。

おまけです。

この日、待ち合わせして葉山家へ向かうまでの春太郎の心の内をお楽しみくださいませ(笑)

 

『待ち合わせ(春太郎視点)』


***


「遅くなってごめんね…。」


 待ち合わせの時間から遅れること10分。

 走ってこちらへ向かってくる麗の服装に少し戸惑ってしまった。


「珍しいな、そういう格好。なんか新鮮。」

「そう言われれば春ちゃんと会う時、ワンピースとかスカートばかりだね。普段はこんな感じだよ?」


 身体のラインがはっきりわかってしまうTシャツに細身のデニム。いつもはまとめている髪もおろしていて、なんだかいつも以上に女性らしい。

 なに動揺してるんだ、俺。

 今まで意識したことが無かったと言えば嘘になってしまうけれど、先日中村にあんな話をされてしまった後ではつい色々妄想…もといイマジネーションが無駄に膨らんでしまうじゃないか。


 形もサイズもバランスも整ってるとか、色白とか、めちゃくちゃ柔らかいとか…


 中村のバカヤロー!!

 とにかく、今の俺の頭の中を、考えていることを麗に気付かれるわけにはいかない。


 麗が来るまで、そんな事忘れていたのに……先週の事で、まだ落ち込んでいたらどうしようとかそんな事ばかり考えていたけれど、麗の笑顔を見るにその心配はなさそうだ。


「思ってたより元気そうで良かった…。」

「え?どういう意味?」

「あのさ…ほら、先週なんか元気なかったみたいだったからさ…」

「あ…うん、心配かけてごめんね。あの日は二日酔いだったから…」

「二日酔い…そりゃそうだよな……。」


 つい、漏れてしまった俺の呟きに、麗は動揺していた。落ち込んではいなさそうだけれど、悩みがなくなったわけではなそうだ。彼女が話してくれるまでこちらから触れてはいけないとの中村のアドバイス通り俺は言葉を飲み込んだ。

 麗は何か考え事をしているのだろうか。彼女の横顔はどことなく憂い帯びていて、だというのに何もできない自分がもどかしい。もどかしいけれど…そんな彼女の表情がやけに色っぽいと言うか…そんな表情に気付いてしまっては、以前から思っていたことだけどスタイルが良いと言うか…やはり中村の話が頭から離れなかったりして…悲しかなそれが男のサガと言うやつで……だけど何考えてるんだ、俺。


「あれ?春ちゃん顔が赤いけど大丈夫?」


 やばい…麗に気付かれてしまった。恥かしくて彼女の顔を直視できない。


「なんで目をそらすのー?」

「べ…別に…そらしたわけじゃ…恥ずかしくて麗の顔を直視出来なかっただけだから…。」

「恥ずかしいって…変な春ちゃん…。」

「あ、あれだよ、いつもと雰囲気が違ってドキドキしちゃったってやつ。うん、そうだ。……ところで、お土産何にしようか?」

「春ちゃんさ、さっきから私の胸元見てるよね?」


 慌ててごまかして見たものの、ごまかしきれるはずもなく、それどころか麗に痛いところをつかれてしまった。どうしよう…どうやってごまかすんだ?その時、俺の目に入ったのは、彼女の胸元で輝くハート形のネックレスだった。


「……ごめん。決して変な事を考えている訳じゃないから!……そ…それ、珍しいなって思って。」

「ネックレス?」

「あ…うん。」


 どうやら麗はそれで納得したらしい。

 すみません、嘘つきました……。思いっきり変な事考えてました。何とも言えぬ罪悪感に襲われつつも、ほっと胸をなでおろしてしまった俺。……我ながら残念すぎる。

 そう言えば、今日は俺があげたピアスをしていない。ちょっとさみしい気もするが、今日の服装にはピアスよりもネックレスの方が合っている気がするし、今日のネックレスと俺のプレゼントしたピアスは合わない気がする。だけど、なんだか引っかかるんだよな。まさか誰かからのプレゼント…間違いなく博之じゃないとは思うけど…。

 俺っていつからそんなに心が狭くなったんだ?


「ほら、麗ってアクセサリー殆どつけないじゃん?俺があげたやつ以外……。」


 気になって遠まわしに聞いてしまった。あーあ。カッコ悪ぃ。

 更に彼女の口から「大事なもの」だと聞いて冷や汗をかいてしまった俺。だが、贈り主が巧さんで、小春さんとすみれちゃんとお揃いと聞いて安堵のため息を吐くのだった。

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