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60. 過去よりも… (春太郎視点)

「つまりね、博之が浮気していた事はもう過去の事だし、今の麗にとっては…もうどうでも良い事みたい…強がってる部分もあるんだろうけど、あの子の言ってる事、共感も出来るんだよね。麗には悪いけど、博之の浮気が発覚して、籍入れる前に別れられたのは本当に良かった…不幸中の幸いだと思ってる。これがさ、籍入れて、式も挙げて、麗が妊娠してから…だったらもう悲惨だよ。…って話が脱線しちゃったね。」


 その件について、俺だって同じ様に考えてしまった事があった。もし、仮にそうなった麗と再会していたとしても…俺は彼女を支える事を選んだはず…だが、その道のりは今よりも、もっともっと険しいに違いない。結婚は当人同士だけの話ではないのだから…。

 麗には悪いが、不幸中の幸いと中村が言うのには同感だった。


「麗、浅井くんとそんな雰囲気になるのが怖いって。浅井くんに求められても、拒んでしまって傷付けてしまうんじゃないか…とか、浅井くんも博之みたいに不満に思ったらどうしよう…とか、満足させられなかったら浮気されても仕方ない…とか考えちゃうみたいなんだよね…。」


 それを聞いた俺は、思わず大きな溜息を吐いてしまった。


「俺はそんなに信用されてないのかな……。」


 口を突いて出てしまった不安。今まで俺なりに気を遣ってきたつもりだ。

 彼女がそういう事に対してマイナスなイメージを持ってしまっている事は俺だって気付いていた。だからこそ、自分を抑えるために、自分なりのルールを決めて彼女に接してきた。

 2人きりで会うのはなるべく昼間、夕方以降は彼女の家に極力上がらない。

 麗からの不意打ちのキスはドキドキしすぎて理性がぶっ飛びそうになるので、やめてもらうようにしているし、唇にキスするときはなるべく触れるだけで我慢する。絶対に舌は入れてはいけない。


 そういえば…あの時……。


 麗の父に結婚を前提とした付き合いを認めてもらった日、麗に報告した俺は勢い余って理性がぶっ飛びかけてはいなかっただろうか?

 つい、出来心で舌を入れてしまい、それを麗が受け入れてくれて……それが嬉しくて……正直あの時は危なかった。

 宅配業者の訪問があったからどうにか中断出来たものの、あの時、それが無かったら押し倒していたかもしれない。


 だが、引っかかる。


 キスしている途中、麗の様子が変わったのはインターホンが鳴る前だった。

 あの時は、彼女が玄関先まで宅配業者が来ているのに気付いて中断したものだと思っていたが、果たして本当にそうだったのだろうか?

 そういえば、やけに不安そうな表情をしていた様な気もする。思い出せば出すほど、あの時の麗の表情は拒絶とか、恐怖とか、不安が入り混じっていたとしか思えない。


 俺は何て事をしてしまったんだろう。


「浅井くんが信用されてないからじゃ無いよ。…麗の恋愛経験ってさ……変な話、ほぼ博之なんだよね。高校3年間片思いして、ハタチの時からの9年間、合計12年間博之の事を思っていたわけ。下手したらそれ以上。専門学校の時……博之と付き合う前に付き合った彼氏とはあんまり長く続かなかったんだよね。多分、まだ心の何処かでは博之の事、諦め切れてなかったんじゃないかな?…だからあの子は、博之基準でどうしても考えちゃうとこがあるっていうか。それから…こーすけとか啓の影響ね。あの2人は変態発言が多いし、博之の巨乳好きの件、随分ネタにしてたし。3人が一緒に飲むと、必ずと言っていい程変態トークを繰り広げてたから。」

「俺は博之とは違うんだけどな……。」

「それはあの子だって分かってるよ。分かってるからこそ、自分を責めてるんだよ……なんか既に、浅井くんを傷付けたんじゃないかって言ってたけど……心当たりあったりする?」

「あぁ…。今思えばあれは俺も悪かったと思う。つい嬉しくてタガが外れた…というか…俺もかなり前に嫌な思い出があるって聞いてたからなるべく気を付けてはいたんだけど……。」

「お願いだから、その事を麗に謝ったりしないでね?そんな事したら、あの子余計に凹んじゃうから。」


 中村のアドバイスは意外なものだった。それがなければ、次に会った時、麗にその事を謝っていたに違いない。


「今日の事はさ、麗から話すまで触れないでいてあげてほしい。それから、引き続きそんな雰囲気に持ち込まないようにしてあげて……。温泉もそんな理由で、こないだ浅井くんが麗を誘った時、私が口を出したの。部屋割りを男女別にしたのもそう。うちの旦那とかこーすけが浅井くんの事からかって、余計に麗を不安にさせたり、色々煽っても嫌だし。浅井くん的には残念だよね…申し訳ない。」

「中村、ありがとな。聞いといて良かったよ。じゃなきゃその事、麗に謝るとこだった。温泉も助かった。せっかく行くなら不安な思いさせたくないし。皆でって言うのも楽しそうだしな。…この先、麗と2人で旅行する機会はいくらでもあるから気にすんなって。」


 中村にバシッと背中を叩かれた。酔っているのか、素なのかは分からないが、ものすごい力……痛い。


「ちょっとぉ、浅井くん男前だねぇ!麗がベタ惚れなのも納得だよぉ。」


 中村はえらく上機嫌だ。上機嫌だからってバシバシ叩くのはやめて欲しいが、中村の嬉しそうな顔を見たらそんな事さえどうでも良くなってしまった。


「このまま、ずっと麗が博之の事思い続けてたらどうしようってずっと思ってた。今は離れて暮らしてるから良いけどさ、もし、彼がこっちに戻ってきたら2人は関係を持ってしまうんじゃないかって心配だったんだよね。本人同士、納得のいくまで話し合う事をせずに別れてるから…あの時のあの状況ではそうする他なかった訳だけど、だからこそ吹っ切れられないんじゃないかって思えて…。本当にありがとう。麗のキモチ、ちゃんと考えてくれて。女ってさ、愛情を注ぐ事で幸せになれるタイプと、愛情を注がれて幸せになれるタイプがいると思んだよね。麗は、間違いなく後者。あの子は愛するよりも愛されるべきなんだよ。はぁ…私が男だったらって何度思った事か…。だけど、今、分かったよ。浅井くんになら麗を任せられるって。」

「中村が男じゃなくて良かったよ。中村がライバルとか…たまったもんじゃないからな。麗の事は俺に任せとけ!」


 中村がライバルとか正直勝てる気がしない。中村が女で良かった。そして、俺と麗の関係を好意的に思ってくれていて良かった。……基本的に、中村って敵に回したら厄介そうなタイプだし。


「よろしく!だけど、もし私が男だったら、浅井くんにだって麗は渡さないよ?…あの子、すごく良い子だもん。結構鈍いとことか、ズレてるところもあるけど…そんなところも魅力。優しいし、一生懸命だし、気を遣いすぎちゃうのは悪いとこでもあるけど、すごく気が利くでしょ?痒いところに手が届く感じ?それに可愛い!可愛い顔して毒を吐くとこも好き〜。可愛いと言えばさ、特に酔った姿は堪らないんだよね。浅井くんは酔った麗見たことある?めちゃくちゃ甘えてくるの!あれは他の男に見せたくないね。……出来たら浅井くんにも見せたくないなぁ。独り占めしたいって言うかさ…とにかく守ってあげたくなる!」


 中村……完全に男目線じゃないか?めちゃくちゃ共感出来るんだが……。っつうか、飲んでる物も飲んでる姿も男前。いや、むしろオッサン入ってる気がする……。


「残念ながら、俺だって1度だけどそんな麗見たぞ?確かにあれはヤバイ。他の男にはとても見せられない。」

「やっぱ見てるよね〜。じゃなくちゃ外で私と飲むなとか言わないよね〜?……なのにさ、浅井くんと寝てないとかマジでビビったわ。……つかぬ事をお伺いしますが…浅井くんって…まさかの童貞?」


 口に含んでいたカクテルを噴き出しそうになり、慌てて飲み込んだので思いっきり咽せてしまう。本日2回目。動揺して咽せたこと、言われた内容などなど、色んな意味で凹む俺。


「中村ぁ…怒っていいか?」

「ごめんごめん。流石にそれは失礼だよね。だけどさぁ、彼氏のくせにあの麗に甘えられて襲わないとか聖人か!?って思っちゃってさ。」

「……それだけ麗を大事に思ってるとか、理性的だとか思えよ?…30過ぎて童貞の疑いをかけられるって…マジで傷つくぞ?」


 そんな俺に対し、大爆笑の中村。俺はとても笑えない。俺ってそんなに残念なのか!?

 落ち込む俺をよそに、しばらく腹を抱えて笑っていた中村だが、落ち着きを取り戻すと、涙を拭いて深呼吸した。


「ほんとごめん。浅井くんの言う通りだよね。そんなにも麗を大事に思ってる浅井くんに…つかぬ事をお聞きしますが…浅井くんって巨乳好きだったりする?」


 ドリンクを噴き出しそうになる→無理やり飲み込む→咽せる……本日3回目となるこのパターン。かなり苦しいし、身体に悪い。


「中村ぁ…女のお前がそういう事聞くなよ?…さっきからまるでエロオヤジじゃねぇか?」

「あ、それたまに言われるわ。やっぱこーすけと飲むとダメだね。変態がうつる。で、実際どうなの?」

「別に好きじゃねーよ。むしろ苦手。」

「お、良いねぇ…麗に聞かせてあげたいよ。」

「いやいや、麗に言うなよそんな事。恥ずかしい。」

「だってさぁ……その辺りも麗って気にしちゃってるっていうかさ…コンプレックスと化しているっていうか…酷いよね。決してあの子、ちっちゃくなんて無いんだよ?巨乳では無いけど、形もサイズもバランスも整ったいわゆる美乳だよ?色白だしさ、めちゃくちゃ柔らかいし…」

「おい待て、触った事あるのかよ?」

「え?まぁ女同士でもチェック入れたくなる時とかあるし?チェック入れるって言っても、一方的にだけど。」

「康介の変態がうつったんじゃなくて中村も元々その素質があるんじゃねぇの?…って俺は中村となんて話をしてるんだ……。」

「あはは、そんなに恥ずかしがらないの!」

「中村、俺も一応健全な青年。そんな話聞かされたら次麗に会う時、色々気になって仕方ないだろ…。」

「確かにお預け食らってる浅井くんには酷な話だわ。…ごめんごめん。」


 中村とこんな下世話な話をするとは思ってもみなかった。男として非常に気になる話題ではあるが、今の俺としては聞きたくない話でもある。そんな話を聞いたら……。


「とにかく、もうこの話はやめようぜ…。」

「…だね。」

「俺は麗から話してくれるまでその件については触れないように気をつけるよ。もちろんそういう雰囲気に持っていかないようにもするし…。麗が心配するような事は無いと思うんだけど…麗が思い込んでる以上仕方ないよな。」




 明日も仕事だ。中村の話も以上だというので、そろそろお開きにして帰宅する事にした。


「中村、今日はありがとう。また麗に何かあったら教えてくれ。」

「もちろん。…浅井くん、麗をよろしくね。」

「任せとけ。じゃあな。」


 颯爽と立ち去る中村の男前な後ろ姿を眺めながら、中村が男じゃなくて良かった…と改めて感じる俺なのであった。

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