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58. 私と親友と恋人

『冗談でもああいうの良くないと思うけど?あの子、結構気にしちゃうタイプだって前も言ったじゃん?』

『あんなの酒の席でのネタだろ?真に受けるなよ、貴子。』

『麗の気持ちも考えなよ?』

『後でフォローしとくよ…でも、裏を返せばさ、俺が巨乳好き…だけどそうじゃない麗と長いこと付き合って結婚を考えてるって…あいつの事、身体目当てとか遊びじゃないって事だとも思わないか?』

『随分博之に都合の良い解釈だね?それより…一昨日合コン行ったらしいじゃん?麗は知ってるの?』

『合コン?…ああ、あれか。あんなん合コンのうちに入るようなもんじゃねーし。百歩譲って…接待合コン?先輩の太鼓持ちさせられてるだけ。面倒だけど断れない付き合いだよ。麗には別に言う程の事じゃないだろ?』

『なにそれ?』

『そんな怖い顔すんなよ。だいたい、俺が好きなのは麗だけだし。麗以外の女と結婚するとか付き合うとか全く考えられないんだから安心しろよ。』

『そういう事は麗本人に言ってあげなよ?』

『…そんな恥かしい事本人に言えるかよ?』

『言ってあげなよ、たまには。』

『…そうだな、麗が寝てる時にでも言うよ。』

『それは起きてる時に言ってあげるべきだと思うけど?』

『…考えとく………麗の寝顔、可愛いよなぁ…こうして眺めてると癒されるし…俺にはやっぱりこいつが1番必要なんだって感じるよ…。』

『そんな事私相手に言っても仕方ないでしょ?』

『貴子がうるさいから言わざるを得ないんだろ。…じゃあな。俺、康介達のとこ戻るから。』


 ガチャ、バタン。


『もう…博之ってば…。まぁ、博之なりの愛情表現なのかもしれないけどさ…言わなくちゃわからないっつーの。…麗に言ってあげれば良いのに…ね、麗…。』

『………………』

『…なんて寝てる麗に言っても仕方ないよね。』

『……ごめん、貴子。実は寝たふりして聞いてた。』

『ちょっと、麗!?起きてたの?』

『眠りが浅くて…2人の声で目が覚めたんだけど…私の話してるみたいだったから…気になって…そのまま聞いちゃった。ありがとうね。私の為に注意してくれて。』

『…ううん。こちらこそ起こしちゃってごめん。それに余計な事だよね…。』

『全然そんな事ない。貴子が心配してくれてすごく嬉しい。それだけじゃなくて…博之の本音も聞けたし…。普段、好きとか全然言ってくれないもん。あそこまで言わせるなんて、貴子凄いよ。ありがとうね……』





 ***


 夢を見た。…内容は覚えていない。だけれど、過去の記憶である事だけは確かだ。

 ぼんやりした意識の中、耳に入ってくるシャワーの音。これは夢だろうか…現実だろうか?なんて考えているうちに、アラームに起こされる。


 やっぱりシャワーの音が聞こえる。ソファにはタオルケットがたたんで置いてある。それから貴子のバッグ。


 頭が痛い。喉が渇いた。起き上がるとなんだかフラフラする。

 布団から這い出して、冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだし、一気に飲み干す。

 そのままキッチンの床に座り込み、ただぼーっとして…。しばらくそうしていると、頭痛が少しずつ和らいでいく。ずいぶん楽になったところで、立ち上がり、部屋の布団を片付ける…のはやめ、シーツやカバーは外して洗濯機へ。布団はベランダに干す。


 本当に貴子は泊まってくれたんだ。

 だけど、記憶が途中から無い。2軒目の店で貴子に帰ろうって言ったのは覚えてる。

 以前よりも酒に弱くなったのだろうか?今まで記憶があやふやになる事なんてほとんどなかったのに、この短期間に2回もあるなんて…。




 昨日は嫌な話を聞いた。だけどそれは過去の話。今の私には関係の無い、去っていった人の話。そんな人が私に下した評価にいつまでも囚われるのはやめようと昨日決めた。

 だけれど、不安は消えなかった。今だってまだ不安だ。それはすぐに消えるものでも、克服できるものでもなさそうだ。これから上手に付き合っていくしかない。

 だけれどどうやって?わからない。わからないから余計不安になる。


 何もしないでいると、つい考えてしまうので体を動かす。部屋の掃除をして、洗濯機を回して…。すると、少しだけど気分が晴れてきた。




「麗、おはよ。よく眠れた?いつも通り、勝手にさせてもらってるわ。…前に置いていった私の着替えってあったよね?」

「貴子、おはよう。着替えすぐに出すね。」


 シャワーを浴び終えた貴子がバスタオル1枚でやってきた。

 私は、洗濯してしまってあった貴子の着替えを取り出し、彼女に渡す。そして、気になっていたことを聞いた。


「昨日はありがとう。…ここまでどうやって帰ったか覚えてないんだけど…貴子が連れて帰ってきてくれたんだよね…ごめん。大変だったでしょ…もしかして…私…居酒屋で寝ちゃってたりする?」

「お礼なら私じゃなくて浅井くんに言ってよ?居酒屋で寝ちゃった麗をここまで一緒に連れて来てくれたんだよ?送ってくれた後、またこーすけ達と飲みに戻ったんだからね。」

「……そうだったんだ……本当に凹むわ…。前は外で寝落ちするとか無かったのにな…30超えてお酒弱くなったのかな…。」

「前より飲んでないからアルコール耐性が弱くなってるんじゃない?それ以上に昨日は気疲れもあったんだって。気にしない、気にしない。」


 貴子が笑いながら私の背中を叩く。なんか気合を入れられた気がする。貴子にはいつも甘えっぱなしだ。それに、春ちゃんにも…。

 春ちゃんは皆と飲んでるのを抜けて送ってくれたんだ…。嬉しい様な申し訳ないような複雑な気分。

 昨夜、彼に会いたくない…なんて思ってしまったのがなんだか後ろめたかった。


「ねぇ、春ちゃんなんか言ってなかった?」

「『中村…いくらなんでも飲ませすぎだ…』って笑いながら怒られた位かな?」

「ごめん…。」


 春ちゃんの口調を真似て笑いながら貴子が教えてくれた。きっと貴子は春ちゃんに私が寝ちゃうまで飲んだ理由を聞かれて…ごまかしてくれたんだろうな。


「浅井くんにはさぁ、タクシー乗せるまでで良いって言ったのに、寝てる麗が可愛いから自分が家まで連れてくって聞かないんだもん…。麗、タクシー降りた後、彼にお姫様抱っこされてたんだよ?私が麗を落とすなって言ったら『大事な麗を落とすわけないだろ?』って。私が目を離せば寝てる麗にキスするしさぁ…。」


 春ちゃんが私をお姫様抱っこ?…私、重かっただろうな…。春ちゃん、貴子にそんな事言ったんだ…貴子にキスされるところ見られちゃうとか…恥かしい。私の知らないところの話で良かったと思う反面、寝ていたなんて勿体無いとも思ってしまう。


「私、浅井くんに麗を奪われたみたいでちょっと寂しかったわ…。」

「何言ってるの?そんな事言ったら、私だって達哉さんに大好きな貴子を奪われたんだけど?」


 照れ隠しでそう答えたら貴子が笑った。それにつられて私も笑う。笑ったら、なんか元気が出てきた。







 ***


「麗、今日って何か予定あるの?…浅井くんと会う…とか?」


 シャワーを浴び終え、メイクをする私に貴子が尋ねる。


「うーん…。そういえば今日どうするか話してないや。昨日の昼の時点では、 式場の見学に行く予定だったんだけど…昨日のとこに決めちゃったからキャンセルしたんだよね。春ちゃんにどうするか聞いてみるよ。…ところで貴子は?」

「え?私?特に予定はないんだけど…麗が嫌じゃなかったら…私も一緒でも良い?たまには3人ってのも悪くないんじゃないかなー?なんて。」

「そういえば…春ちゃんと3人って今までありそうでなかったよね?なんか意外だなぁ…。」


 高校の時も、彼と付き合いだしてからもそうだけど、私と貴子と春ちゃん、この3人だけで遊んだり喋ったりする事はほとんど無かった。貴子と春ちゃんの仲が悪いなんてことは決してないし、どちらかといえば仲は良いと思う。時々、貴子と春ちゃんと山内くんの3人で会っているみたいだけど、私と貴子と春ちゃんって組み合わせはありそうでなかった。




 そんな会話の1時間後、適当な場所で待ち合わせをして、なんとなく3人で映画を見て、3人で適当にフラフラして、3人で食事をした。

 以前、貴子が行ってみたいと言った創作イタリアンのお店だ。

 暗黙の了解…というわけではないけれど、なんとなく、私も貴子も春ちゃんもアルコールを注文する事は控え、私と貴子がブラッドオレンジのジュース、春ちゃんがアルコールフリーのビアテイスト飲料を飲んでいた。


「明日からまた仕事かぁ…。」

「なんかちゃんと働ける気がしないよね。」

「とか言いつつ、出社したらスイッチが入るんだよね。」


 連休最終日の夜はいつも少しブルーだ。学生時代の夏休み最終日程ではないにしても、軽い倦怠感とか虚無感に襲われ、憂鬱になってしまう。


「3日間ずっと麗と会ってたのに…明日からまた寂しくなるなぁ…。」

「だったら一緒に住んじゃえば良いのに。」

「中村ぁ…そうしたいのはやまやまなんだが、残念ながら無理なんだよな…麗のお父さんに釘を刺された。式を挙げるまで一緒に住むのは許さん!ってな。」

「一緒に住む…か。」


 思わず呟いてしまった私の一言に、貴子の顔色が変わる。私の顔を申し訳なさそうに見つめられて、私もうっかり呟いてしまった事を後悔する。

 貴子は、私の一言で、私が何を考えているか気付いてしまったに違いない。


「まぁ、その前に色々考えることあるからなぁ…。式まで半年以上あるし、とりあえず後回しで良いんじゃないか?」

「そうだよね。他にも色々あるもんね。結納の事も相談しなくちゃいけないし…招待客考えて…職場とか親戚とか友人に報告して…。」


 話が違う方向へそれてホッとした。このままさっきの話を続けていたら貴子に気を遣わせてしまう。


「なぁ、麗…本格的に忙しくなる前に、誕生日に約束してた旅行行かないか?来月、祝日に有給の希望出したって言ってたじゃん?温泉行こうぜ、温泉。」


 安心したのも束の間、春ちゃんに温泉に誘われてしまう。


「良いなぁ!温泉、私も麗と一緒に行きたいなぁ…浅井くん、せっかくだから、皆で行こうよー。うちの旦那紹介したいし、こーすけたちも誘って行こうよ!啓のとこは…声かけてみるけど流石に難しいかな?」

「中村…悪りぃ…出来たら麗と2人で…」

「浅井くん、温泉は2人で行ってもつまんないよ!お風呂別々になっちゃうし…皆でワイワイした方が楽しいって。ね、麗?」

「それもそうだね。春ちゃん、ダメかな?」


 昨日、酔った私は貴子にその話をしてしまい、行きたくないとまで言ってしまった。春ちゃんに申し訳ないが、貴子の申し出はすごく有り難かった。どう考えても、昨日私が言った事で貴子に気を遣わせてしまったのは間違いない。普段なら空気を読んで口を出さないはずの貴子がかなり強引に食いついてくれて、そんな彼女に私は甘えてしまった。

 春ちゃんと旅行には行きたいけれど、そんな雰囲気になるのが困る私としては、すごく助かる。


「…まぁそれも良いかもな。じゃあ皆で行こうぜ?宿の手配は俺が…」

「手配なら私するよ。叔父が旅行会社やってるんだよね。こーすけと啓にも声かけとくから。任せといて!」


 貴子の勢いに押され、NOとは言えなかったのだろう。春ちゃんは少しだけ困った顔だ。しかし、その直後に一瞬ハッとしたような表情を見せたかと思うと、すぐに笑顔になり、貴子の申し出に同意していた。


「なら…よろしく。」


 不安な私。そんな私を見兼ねて強引にフォローしてくれた親友。そして親友の申し出を受け入れた恋人。一瞬流れた不思議な空気。


 先程彼が見せたハッとした表情が何となく引っかかるが、その後すぐに楽しそうに旅行の事を話し始めた彼を見る限り、それはきっと杞憂なのだろう。不安な気持ちがそうさせたのかもしれない。

 3人で、旅行の相談をしているうち、そんな不安も少しずつ和らいでいったのだった。

活動報告にて、本編では描ききれない話を投稿いたしました。

当初は後書きに載せるつもりでしたが、長くなってしまった事、不快感を与えかねない内容である事、一部ネタバレらしきものを含む事を踏まえ、活動報告でお話させていただいております。


興味のある方はご覧いただけると幸いです。

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