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48. 報告

 両親の家からそのまま春ちゃんの実家にお邪魔すると、既に春ちゃんのご家族…ご両親、弥生さん宗一さん夫婦、秀治さん涼子さん夫婦、皆が揃ってお待ちだった。


 春ちゃんが私の父から結婚の許可を得たこと、式や入籍の時期などを報告する。


「今度の休み、色々見学に行こうと思ってるんだ。その前に親父の意向を聞いときたいんだけど…。」

「どうせ聞いたところで結局春太郎のやりたいようにするんだろう?昔からお前はそうだ。まぁ2人の好きにすれば良い。」

「…ありがたくそうさせてもらうよ。でも昔からって……確かにそうだな…反論できない。」


 春ちゃんがそう言うと、みんなが笑っていた。


「本当に良かったね。麗ちゃんのお父さんに許してもらえて…。それにしても嬉しいなぁ…麗ちゃんみたいな可愛い妹が出来て。ずっと妹が欲しかったのよね。」

「弥生さん、私は可愛い妹じゃ無いんですか?」

「涼子ちゃんは頼れるお姉さんでしょ?秀治はしっかりし過ぎて弟っぽくないし…っていうか老けすぎ。最近は私が妹で秀治が兄だって間違われる事も多いし。」

「お姉さんって…確かに誕生日は1年近く違うけど、私と弥生さんは同学年ですよ?秀治が老けすぎなのは否定しません。実際、秀治より4つ上の私の方が秀治より下に見られてるし。」

「いいじゃない?涼子ちゃんにも可愛い妹が出来るって事で。」

「そうですね。弥生さんが姉で、麗さんが妹。3姉妹でそのうち女子会しましょうね!」

「いやいや、浅井3姉妹の長女は涼子ちゃんだから!ね、麗ちゃん?」

「浅井3姉妹って…弥生はもう浅井じゃないけどね…。」


「浅井3姉妹」という表現にすかさず突っ込みを入れたのは宗一さんだった。


 涼子さんはとても落ち着いていて、大人っぽいなと思う。歳上というのも納得だ。

 しかし、弥生さんに同意を求められて困ってしまう。なかなか難しい。女性の年齢ってデリケートな問題だしね。


「ほら、姉ちゃんも涼子さんも麗困らせるなって。大人気ないぞ?」

「大人気ないとか春に言われるとは心外だわ…だけどそうだよね、麗ちゃんごめん!」


 春ちゃんの助けもあって、浅井3姉妹?の話はお終いになった。


 それから、春ちゃんが見学の予約をしたという式場やレストラン、料亭の話から、弥生さんと涼子さんの結婚式の話になった。

 偶然にも、弥生さんと宗一さんが式を挙げたのは、私が4年前まで勤めていた式場で、涼子さんと秀治さんが式を挙げたのは、去年の春、私が退職した式場だった。

 どちらも、式を挙げたのは私が辞めてからだけれど、見学や打ち合わせなどに弥生さんや涼子さんが通っていた時期と私が働いていた時期はかぶっていて、もしかしたら会っていたかもしれないね…とお互い驚いてしまった。残念ながら、私も弥生さん、涼子さんも会った記憶はなかったけれど…。担当者はどちらも、今でもやり取りのある友人だった。世間は狭いねぇ…なんて話をした。




「ところで、結納はどうするの?麗さんのご両親は何て仰ってるの?」

「特にこだわりはないらしい。こっちに合わせるって。」

「弥生の時も、秀治の時もしているんだからするべきだろう。」

「そうね、麗さんのご両親がそう仰っているならするべきよね。春太郎だけしないっていうのもおかしいし。」

「麗、そういう事で良いか?」


 私は笑顔で頷く。

 結納の日程もいくつか候補をあげてもらい、要望を聞いたところ、そんなにこだわりがある訳ではないので、略式でも構わないとの事。春ちゃんと相談して、2人で手配する事になった。


 プロポーズの様な春ちゃんの告白で付き合い始めて、もうすぐ半年。

 この1週間の急展開に、嬉し過ぎてパニックを起こしてしまいそうだ。






 ***


 今週は金曜から3連休。

 3日間店を閉めるせいなのか、世間がお盆休みに突入していたせいなのか、今週は忙しかった。

 普段は、割とリピーターが多い店だけれど、ここ数日は初めて見るお客様ばかりだった気がする。

「ずっと気になっていたけれど来れなくて初めて来ました」なんて仰って下さるお客様も何組かいらっしゃったし、数ヶ月前の雑誌を見て予約されたお客様も少なくないようだった。


 春ちゃんは昨日から一足先にお盆休みに入っていて、今日、ご両親と3人で食事に来てくれた。


 来る事を聞いていなかったし、私は予約のお客様を担当しながらだったので、ゆっくり接客する事が出来ず残念だったけれど、お父様もお母様も、お料理も店の雰囲気も気に入ってくださったようだ。

 春ちゃんとご両親に気付いた支配人が食前酒をサービスさせてくれたり、顔を出してくるように声をかけてくれたのでゆっくりではないけれど、お話し出来て良かった。




 その代わり、店を閉めた後、支配人、長尾さん、瀬田さんに囲まれてしまう。


「八重山…聞いてないぞ?」

「八重山ちゃーん?どういう事かな?」

「こないだ報告してねって約束したよね?」


 長尾さんと特に瀬田さんの笑顔が怖い。先々週の土曜、2人とは飲みながら結婚の話ををしたばかり。しかも、私は「結婚はいつになるか分からない」と言ったにも関わらず、春ちゃんとご両親が来店された訳で…。しかも、3人は私の事や結婚についての話をしながら食事をしていたようだったし…。


「実は、父の許可が下りまして…先日、双方の親に挨拶をしてキマシタ…。」

「つまり…そういう事だよな?」

「結婚決まったの…?」

「いつになるか分からないって言って2週間経ってないのに?まさかの急展開!?」

「はい…まさかの急展開で…私達も驚いてます。一応、来年の春に式を挙げられたら…と思っていて、明日から式場見学に行ってきます…。日取りが決まってからご報告を…と思っていたのですが…。」


 もう少しちゃんと報告するつもりが、この様な形での報告になってしまった事をお詫びすると、皆がお祝いの言葉をかけてくれた。


「良かったな、おめでとう。」

「まさかこんなに早いとは思わなかったけど…おめでとう!!」

「八重山ちゃーん、おめでとう!!」

「あ…ありがとうございます!」


 なんだか目頭が熱い。

 お互いの家族以外からおめでとうと言われ、なんだかすごく照れ臭くてくすぐったい。




「ところで、結婚後も今まで通り仕事続けられるのか?」


 支配人のその一言で、照れ臭さも、くすぐったさも一瞬にして消え去る。春ちゃんにはゆっくり考えれば良いと言われたけれど、一緒に働く人の事を考えると、早いに越したことはないだろう。


「彼は私のしたいようにすれば良いと言ってくれてますが…ちょっと話が急に進んだものでまだ決めかねてます…どうしたいか自分でも分からなくって…。」

「…そうか。まぁ焦って結論を出すことは無いが…もし続けられないなら余裕を持って申し出てもらわないと困るな。そのうちゆっくり話そう。なにかあれば相談にも乗るし。」

「はい…。よろしくお願いします。」


 前職を辞めた経緯や、辞めてからここで働くまでの事も知っている支配人。しかも、奥様は元プランナーで、かつてこの店のスタッフでもあった。

 私の迷いや、悩みなどお見通しなのかもしれない。




 3日間完全に店を閉めるので、閉店後の業務はいつもとは違う。

 普段しない様なところの掃除をしたり、埃が被らないよう店内のディスプレイや調度品を布で覆ったり、休み明けの月曜の朝、業者が入って店舗のクリーニングもする事になっているので、クリーニング作業を進めやすいように片付けたりといったことをいつもの作業に加えて手分けして進めていく。

 全てが終わったのは閉店の3時間後だった。もう、とっくに日付は変わっている。


「さすがに今から飲みには行けないなぁ…もうヘトヘトだし…八重山ちゃんのお祝いしたかったけど、またそのうちって事で。」

「だね。早く帰って寝たい…。3日間何して過ごそうかなぁ…。いいなぁ、八重山ちゃんは彼と過ごせて…。」

「私の彼も長尾さんの彼も普通に仕事ですもんね…。」

「お互い職種は違うけどサービス業だもんね。ただでさえあんまり会わないのに、最近有給取れてないから休み合わなくてすれ違いばかりだもんなぁ…。」

「来月は有給あるからね!先月入ったバイト君も慣れてくるだろうし、今月取れなかった人は半休も多めに取ろう…。」

「まぁ、来月に期待って事で。とりあえず、明日からの連休楽しみましょう!」


 瀬田さんも長尾さんも、有給は彼氏の休みに合わせて取っているらしい。ここ数ヶ月間はなかなか休みが合わなくてすれ違いばかりだと言っていた。


「じゃあまた月曜日にね!」

「お疲れ様でした。」

「また色々話聞かせてね!来週末、また三十路会しようね!じゃあお疲れ〜。」


 帰り道、先程の2人の話を思い出し、不思議な感覚に襲われてしまった。


 もし、私が日曜休みじゃなかったら…。

 私と春ちゃんはどうなっていたのだろう?

 お互い、時間を調整して2人で食事に出かけていたのだろうか?


 もし、あの同級会で春ちゃんから指輪の話を聞いていなかったら、私はその翌日博之と会った時、冷静ではいられなかったはずだ。冷静でいられなくなった私はどうしていたんだろう?考えただけでも恐ろしい…。

 もしかしたら、今頃、千代子おばさんの勧めでお見合いをして好きでもない人との結婚を決めていたかも知れない。


 そもそも、博之が浮気して海夏さんを妊娠させていなかったら、私と春ちゃんがお付き合いする事はなかったはず。そう考えたら、あれは必要な痛みだったのだとさえ思える。


 私が今、仕事が楽しいと思えるのも、笑顔でいられるのも、父と笑って話せるようになったのも、辛かった過去さえ必要な痛みだったのだと思えるようになったのも春ちゃんのお陰。

 春ちゃんがいるから、今の私は幸せだって胸を張って言えるんだ。

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