41. お誘い
「麗ちゃん、ごめんなさい…あまりに動揺してしまって…咄嗟に麗ちゃんの名前出しちゃったの。そしたら…」
「春ちゃんも誘って4人で行こうって事になっちゃったんだね。特に予定も無かったし…でも美咲ちゃんはそれで良いの?」
「2人じゃ間がもたないし…断るつもりだったんだけど…流石に毎回お断りするのも悪いかな…って気が引けてたからすごく助かる。」
「それなら良いけど…。春ちゃんも楽しみにしてるみたいだよ。」
夕方からの出勤の日は、春ちゃんとランチする事が多い。
いつもの様に、春ちゃんの職場近くのカフェ。先に店に入り、いつもの様に日替わりを2つ注文して、ランチが運ばれる頃やってきたのは美咲ちゃん。
今日は、春ちゃんではなく、美咲ちゃんとランチの約束をしていたのだ。
2人で飲んでから、彼女とは時々メールでのやり取りをしているが、直接会うのはあの時以来、約1ヶ月ぶり。
要件は一昨日美咲ちゃんから連絡をもらい、昨日春ちゃんに誘われた花火大会の事。
もともと美咲ちゃんが倉内さんに「2人で行こう」と誘われたらしい。それで「友達と約束しているから…」と断った美咲ちゃん。
「花火大会一緒に行くような友達なんているの?友達みんな遠くに住んでるんじゃなかったっけ?」
倉内さんにそう言われて、咄嗟に私の名前を出したそうだ。
美咲ちゃんは、ご両親の出身地であるこの街で産まれてはいるものの、幼稚園から小・中・高・大学を過ごしたのは九州。大学卒業後もそちらで就職したそうだ。
ご両親は美咲ちゃんが大学生の頃定年を迎え、2人の地元であるこの街へ帰ってきた。3年前、美咲ちゃんのお父様が亡くなったのを機に、美咲ちゃんは勤めていた会社を辞め、こちらへ引っ越してきて春ちゃんと同じ会社に入社したそうだ。
そんな訳で、美咲ちゃんの友人は皆遠方に住んでおり、この街で美咲ちゃんの知り合いは、仕事関係の人と親戚くらい。
それを知っている倉内さんはちょっと意地悪な質問をしたようだ。
美咲ちゃんは倉内さんに、休日に食事や映画に行こうと誘われているが、何かと理由をつけて全て断っているらしい。
理由を尋ねると、何を話して良いのか分からないとか、私と飲んだ時以来何だか気不味いとか、明らかに倉内さんを意識し過ぎてどう接したら良いものか分からない…そんな感じ。
自分の感情を認められないとか、素直に好きだと自覚出来ない、半年前の私みたいだ。
もしかしたら美咲ちゃんは以前から倉内さんに惹かれていたんじゃないかとも思う。だけど、元彼を思い出してしまう故、傷付きたくない彼女は春ちゃんを好きだって思い込んでいたのかも……なんて私にとって都合の良い解釈をしてみたり。
昨日、春ちゃんとも話したけれど、倉内さんは美咲ちゃんの事が好きみたい。
じゃなかったら、あんな事しないよね。
それに、立川様の件でも、めちゃくちゃ心配してるみたいだったし…。
「当日ね、倉内さんと浅井さんがお昼から場所取りしてくれるんだって。私と麗ちゃんは日が落ちて涼しくなってから来て…って。暑い中申し訳無いから、ギリギリに行って見れる場所で良いって言ったんだけどそれじゃ嫌なんだって。しかも女の子は日に焼けるし、待っている間にね、浅井さんから麗ちゃんとの事を根掘り葉掘り聞きたいから来ないでって。」
倉内さんなりの気遣いなのだろう。
チャラそうに見えて真面目な人、間違いなく見た目で損をしているタイプ。以前店に来た時の事や春ちゃんの話から彼はそういう人なんだなって感じた。
美咲ちゃん視点では、その傾向は余計強いのだと思う。元彼にそっくりだって言ってたし。
「でも、それじゃあやっぱり申し訳なくて。だから、よく冷えたビールとかおつまみ持って行ったらどうかな?って思ってるんだけど…麗ちゃんはどう思う?」
「花火見ながら飲むビールは美味しいもんね。喜ばれると思うよ。」
「それでさ、麗ちゃんってお料理上手なんだよね?一緒に作ってもらえないかな?買って持って行くのも労力に差があるって言うかさ…何だか味気ないなって思って。」
恥ずかしがる美咲ちゃん、なんか可愛い。本人は認めていないけれど、絶対倉内さんに好意を持っているに違いない。
「麗ちゃん?私、おかしな事言った?」
ついついにやけてしまった私。顔を真っ赤にして尋ねる美咲ちゃんはすごく可愛い。
「ごめんね。料理上手かどうかは微妙だけど、作るのは好き。2人が場所取りしてる間に一緒に作ろう。」
「ありがとう!よろしくお願いします。」
何を作ろう?とか、どんなものが好きなんだろうね?って話をしていた私達。
「何が良いかリクエストしてもらおうか?」と私が言うと、美咲ちゃんが何かを思い出したらしい。
「リクエストと言えば、麗ちゃんの浴衣姿が見たいって浅井さんが伝えてって。」
「浴衣かぁ…じゃあこの後見に行こうかな…。」
「麗ちゃん、浴衣持ってないの?」
「うん。処分したというか…処分されたというか…ほら、別れた人に買ってもらったやつだったから…。処分してなくても、流石にこの歳で着れる様な浴衣じゃないけどね。ピンクなんてさ。」
実は午前中、少しだけど百貨店の呉服売り場を覗いていたのだ。
やっぱり良いなと思うものは高い。何年か着ることを考えればそれもアリなのだけれど、特別気に入るものがあった訳でもないし、そんな1着を買うならもっと色んなお店をゆっくりじっくり見て決めたい。
でも、次の日曜に着るとなると、今日の夕方までに用意しないとだし。だからと言って、あまりに安すぎるものは微妙…。
「何でも良ければ持っているの貸そうか?麗ちゃん位の身長の従姉妹でも着れたから、サイズは大丈夫だと思う。そんな凝った帯の結び方じゃなくても良ければ私、着付けも出来るよ?」
「本当!?すごくありがたい!実はさっき見てきたんだけど、コレ!って言うのがなくて。妥協して買うのに5万は高すぎるし。」
「せっかく買うなら気に入るもの買わなくちゃ。数千円で買えるのもあるにはあるけど、流石に微妙だしね。」
「そうなの、生地は薄いし、なんか安っぽいんだよね。若ければ良いんだろうけどさ…流石にこの歳ではナシだよね。だから貸してもらえるのはすごく助かります。着付けもお願いしても良い?」
「もちろん!じゃあ、今日明日中に浴衣の写真撮ってメールするね。」
「ありがとう。よろしくお願いします。」
その日の夜、仕事が終わって帰宅し、スマホを確認すると美咲ちゃんから大量のメールが届いていた。
メールには写真が添付されていたのだが、予想外に多くて驚いた。
藍、漆黒、浅葱、生成り、藤色…。
柄も花、蝶、市松模様、古典柄など様々だ。
その中から、1番好みだったものを選びメールする。浴衣だけでなく、帯の写真もあったのだが、帯や小物は合わせ方がよく分からないので、美咲ちゃんにお任せする事にした。




