32. 酔っ払い
ほんのりエロトーク有りです。
「麗は淡白だよね…って。」
「淡白か…うん、あるある。私も何度か言われた。マグロだ、とか、つまらない、とか…胸がデカけりゃいいってもんじゃないとも言われた…。」
「うふふ…私はもう少しボリュームが欲しいと言われたよ…。だから美咲ちゃんが羨ましい…。」
「むしろ私は麗ちゃんくらいの方が羨ましい。所詮脂肪の塊なんだよ…。デブとか言われるし…。服のサイズも選ぶの面倒だし…デザインによっては無駄にエロく見えるし…。」
「お互い無い物ねだりだね…。」
「そうだね…。なんだろうね?共感できないのに共感できちゃうこの感じ。」
「不思議だね…こんなに美咲ちゃんと話が合うとは思わなかったよ。」
「私も…麗ちゃんってもっと話しにくい人だと思ってた。」
ビール、カクテル、梅酒、ワイン、焼酎…。久しぶりの居酒屋でやたらとお酒が進む。
自虐ネタをツマミに飲んでいると余計進むのは何故だろう…。しかもやたら楽しいとか。間違いなく酔っ払いだ。
「まぁ、結局、淡白な私じゃ満足出来なかったわけですね。それで、浮気相手を妊娠させちゃうくらい励んでいたと。なのに私は全然気付かずに、淡白だと言われないように頑張ってたんだよ?前日に他の女抱いてたとか知らずにね?」
「私に散々さ、淡白だからつまらない、ああしろこうしろって色々させてさ、その挙句下手くそだのマグロって…酷いよ、私の努力は一体何だったんだろう?って。脂肪の塊だのデブだのバカにされて、ダイエットして痩せたら痩せたで抱き心地が悪いだの、前の方が良かっただの言われて…腹が立つったらありゃしない。」
完全に意気投合していた。「分かる分かる」と頷き、自虐的に笑い、時々涙目になりながら話す私達。
「未だにその人の事思い出すと怖いんだよね…。不安っていうかさ…。惨めな思いをしたくない…みたいな?」
「あるある。ふとしたきっかけでそんな気持ち思い出しちゃう事。でも意外だな…麗ちゃんってもっと楽しく恋愛してる人だと勝手に思ってた。」
「そんなことないよ。ここ最近はすごくネガティブ。勝手に悩んで、凹んでさ…春ちゃんに嫌われたんじゃないかとか、拒まれたんじゃないかとか物凄く不安にもなるし…。」
「いやいや、それはないでしょ?」
私は思い切って日曜日の事を話した。
「こないだ、春ちゃんに言われちゃったんだよね。美咲ちゃんが苦手なのか?って。」
「そうだったんだ…。寝取られた人と似てる事言った?」
「言えないよ…。春ちゃんと一緒の時に思い出すのが怖い。最近の私、すぐ顔に出ちゃうから…。」
「麗ちゃんも浅井さんが大好きなんだね。大好きだからこそ不安なんだよね。」
必死で頷く私。
「でも大丈夫だよ。浅井さん、麗ちゃんの事大好きだもん。麗ちゃん、誕生日プレゼントにネクタイあげたでしょ?あれ、すごくオシャレだって、密かに話題になってたの。それで、素敵ですねって褒めた子がいたんだけど、麗ちゃん…『自慢の彼女』からもらったって自慢してたよ。それだけじゃないよ?昼休みとか、こっそりタブレットで麗ちゃんの写真見てるし。スマホの待ち受けだってすごいよね。あれはちょっと引いた…。」
そういえば、私は春ちゃんのスマホの待ち受けを見たことが無い。
「待ち受けって…どんなの?私、見たことない…。」
「え!?…知らないの?」
「うん…。私、春ちゃんのスマホ触ったことない…。この間、アラームが鳴っているのを止めようとしたら触らないで欲しいって言われたし…。スマホとか見られたくない人なのかなって…。」
「…麗ちゃんには内緒なんだ…。」
「深い意味とかやましい事は無いって言われたけど…。それならなんで駄目なんだろうって思ったら…私、信用無いのかな、拒まれてるのかなって…不安になった。…内緒ってどういう事?」
美咲ちゃんが呟いた「内緒」と言う言葉が不安な気持ちを煽る。もう泣きそう…。ただでさえ涙腺緩いのに、最近は本当にダメだ。
「私が言って良いのかな?本当に麗ちゃん、待ち受け見たことないの?」
私は唾を飲み込み頷いた。
「浅井さんの待ち受け…麗ちゃんの寝顔だよ?」
「…え?」
拍子抜けしてしまった。
「浅井さん、触らないで欲しいって、それを見られたくなかったんじゃないかな?」
「私の寝顔?いつ撮ったんだろう?」
私、春ちゃんの前で寝たことなんてあったっけ?いつ撮ったんだろう?この前春ちゃんが触らないで欲しいって言ったのはそのせい?
それが本当だったら良いのにな…なんて思ったら涙が溢れてしまった。
「ほらほら、大丈夫だって。心配なら電話かけてみたら?ってさすがにこの時間は寝ちゃってるか……。あーあ。私にもいい人いないかなぁ?」
「倉内さん、もしかして美咲ちゃんの事好きなんじゃないかな?」
「麗ちゃん?それはあり得ないよ…。」
「ごめん、彼って既婚者だった?」
「既婚者じゃないけど…。」
「なんか今日、美咲ちゃんの事すごく心配してるみたいだったよね。」
「倉内さんもみんなに優しいからね…。彼もすごくモテるし。実はさ…私、あの人苦手なんだ…。麗ちゃんが私を苦手だったみたいな理由で。一緒に仕事し始めた時は辛かったなぁ…今は大分慣れたけど…。」
「そうなんだ…でも、私と美咲ちゃんがこうやって仲良くなれたみたいに、倉内さんとも意外と平気かもしれないよ?」
「あはは…それはどうでしょうね…。」
美咲ちゃん、目が笑ってない…むしろ目が座ってる。
「本当のことを言うと、倉内さん、元彼にそっくりなの…。淡白だのマグロだのデブって罵った人に…。だからさぁ、無理だよ。実はね、去年の夏、いい感じの人がいたんだよ。でも、そういう雰囲気になったら急に怖くなって…。元彼に全然似てない人でさえそうなんだよ?麗ちゃんはそういうの無かった?」
「美咲ちゃん…今、まさに私はそんな事を悩んでるんだよ…。もしそんな雰囲気になって思い出したらどうしよう…とか、春ちゃんを拒んでしまいそうで怖い…とか。だからすごく良くわかるよ!その気持ち!」
美咲ちゃんはポカンと口を開けたまま私を見ている。あれ?私、変なこと言った?
「麗ちゃん…言ってる意味がわからない…。」
「なんで?春ちゃんとするのが怖いって事だけど?」
「!?…それは…つまり…まだ浅井さんとは…していないということでOK?」
「…うん。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「…いやいや、美咲ちゃん…そんなに驚かなくても…。多分付き合う前にさっき話したみたいな事春ちゃんに漏らしちゃったから…そんな雰囲気には未だなっていないんだよね。気を遣われてるんだろうな…と思いたい。それがすごくありがたい反面、それが原因で浮気されたらどうしようとか…春ちゃんに限ってそれはないよね?…とか考えて余計不安な気持ちになるわけ…。」
「私が言うのも変だけど…麗ちゃんも結構重症だよね…。」
私は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。自分でも自覚しているだけに辛い。
「本当に好きになったら克服出来るのかな?って思ってたけど…そういうものでも無いみたいだね…。期待してたんだけどな…ははは…。」
「美咲ちゃん、きっと個人差があるんだよ…私だって別に現時点で拒んでいる訳じゃないし…ただ、そんな雰囲気になっても良いかなー?とは思うけど、未だそんな雰囲気にならないっていうか、自分からアクション起こす勇気も無いし、克服したい気持ちより、恐怖感とか不安が大きいだけだよ…きっとやる気の問題だって…あははは…。」
「麗ちゃん、それを重症だと言うのだよ?…とりあえず飲みませんか?」
「ソウデスネ…とりあえず飲みましょう。」
飲みすぎた自覚はある。呂律が回らない。なのに…いや、だからこそ視界はぐるぐる回っている。しかもよくわからないけれど、楽しくておかしくて仕方なくて、笑ってしまう。
美咲ちゃんも笑って、顔が真っ赤で、舌ったらずな話し方。可愛いなぁ…。
「あれ?もう1時まわってる…。」
「ほんとだぁ…美咲ちゃんこれからどおする?」
「タクシーかな?それとも麗ちゃん、朝まで付き合ってくれるの?」
「うち泊まっちゃえば?私がソファで寝たらいいし。」
「ありがとぉ。それなら私がソファで寝るよ…あれ?倉内さんから電話だ…。」
着信に気付いた美咲ちゃんが電話を取ると、倉内さんの声がこちらまで聞こえてきた。
「もしもし…どうしたんですかぁ?」
『どうしたじゃないよ!?ちゃんと家に帰ったの?』
「帰ってないですけろ?」
『はあ?』
「うららちゃんとのんでまーす。すっごくたのしいですよ?」
『はあ?うららちゃん?…って八重山さんと?マジで?』
「マジっす。ねー?うららちゃん?」
『どこで飲んでるんだ?』
「えへへ…どこでしょう?」
『ちょっと八重山さんに代われ…。』
「えー?どうしようかな?」
『どうしようかな?じゃねぇよ!』
不服そうな顔で「怒られちゃいました」と言いながら、私と電話を代わった美咲ちゃん。
『八重山さん…野沢さん酔ってるよね…。』
「うふふ…美咲ちゃん、すごく酔ってますよぉ?めちゃめちゃ可愛いですよぉ?食べちゃいたいくらいですよぉ?」
『八重山さんも…かなり酔ってるよね…今どこ?』
なんか電話越しの倉内さんは呆れたようだった。私が今いる店を伝えると、野沢さんに代わるように言われ、野沢さんにスマホを返す。少しやり取りをした後、野沢さんは電話を切った。
それからしばらくまた、何度目かわからない自虐トークを繰り広げた私達。
「美咲ちゃんが酔ってるぅ…。」
「麗ちゃんもかなりだよぉ〜?」
ゲラゲラ笑う私達。
「麗ちゃんって笑い上戸?」
「美咲ちゃんもだよね?」
「これ以上飲むとどうなっちゃうタイプ?」
「うーん、甘えたくなる?美咲ちゃんは?」
「もしかして…麗ちゃんもキス魔?」
「キス魔じゃないけど…キスしたくなるのは否定出来ないかも。でもちゃんと相手は選んでるよ?彼氏以外の男の人にはしない自信はあるし。」
「何それ?女の子にはするって事?」
「大丈夫、唇にはしないから!それに今日はそんなになるまで飲んでないから安心して?…ところで美咲ちゃんはどうなるの?」
「私も甘えたくなる…ベタベタしたい。でもキス魔じゃないよ…キスはしたくなるけど…それで稀に女の子の唇奪っちゃうかなぁ?」
「美咲ちゃんの方が私よりもタチ悪いよ?それは立派なキス魔だよぉ?」
その時、男の人の声がした。
「五十歩百歩って言葉知ってる?」
声のした方向を見た私と美咲ちゃんはびっくりしてしまった…。




