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24. 鏡

更新が遅くなり申し訳ございません。

 春ちゃんはやっぱり不思議な人。

 私は彼に癒されている。

 何度彼に救われた事だろう…。




 カフェに入ると、甘い香りが漂っていた。

 さっきまでお腹減っていないと話していたのが嘘の様に、美味しそうな香りに包まれながらメニューの写真を目にした途端、急に空腹を感じ、私も春ちゃんもなかなかのボリュームのパンケーキを注文していた。

 間違いなく別腹は存在する、それを実感した瞬間だった。

 パンケーキが運ばれてくるまでの間、来週の過ごし方について相談することにした。




「来週の日曜日、春ちゃんの誕生日だよね?」

「ああ。麗はこないだ30になったばっかなのに俺はもうすぐ31だよ。麗が数日遅く産まれてたらさ、同じクラスにはなり得なかったんだよな。」


 春ちゃんが言う通り、3月末が誕生日の私は数日遅く産まれていたら、春ちゃんとは違う学年だった。もしそうなっていたら、私と春ちゃんは今こうしてお付き合いしている事は無かったのだろうな…。それ以前に、博之と付き合うことも、まして婚約を破棄されることもなかったはずだ。

 そう思うと、あの痛みは無駄じゃなかったんだって思えた。今日、あの時の事を思い出して怖くなってしまった事は予想外だったけれど、あの出来事があったからこそ、私は春ちゃんの事が好きだって気付けたわけだし…。

 いけない、またブルーになってしまう。今は楽しい事を考えよう。


「どこか行きたいところとか、したい事とかない?お誕生日のプレゼントは何が欲しい?」

「麗と過ごせればそれで満足。」

「えー?私はあんなに素敵なお祝いをしてもらったんだよ?何かリクエストして欲しいな…。」

「麗の料理が食べたい。プレゼントはさ…ワガママ言っても良いか?」


 サプライズも考えたけれど、あまりいいアイディアが浮かばなかったので、春ちゃん本人に希望を聞くことにした。聞いてよかった。春ちゃんがワガママを言うなんてなんだか嬉しい。ワガママを言うのはいつも私な気がするもん。


「今すぐってわけじゃないんだけど…。麗って有給取れるか?出来たら連休で…。」

「連休に出来るかはわからないけれど、来月からは有給あるって聞いてるよ。」

「麗のお父さんに認めてもらってからの話なんだけど、俺の為に有給使ってくれない?」

「日程の希望が通るかわからないけれど…もちろん良いよ。」

「日程は俺が合わせられるから大丈夫。それが聞けただけで十分。」

「でもそんなの全然誕生日とは関係なくなっちゃうよ…。プレゼントでもないし…。」


 私のテンションがあからさまに下がったのを見て、春ちゃんは少し困ったように笑った。


「良いんだよ、俺がそうしたいんだから。本音を言えば、来週末にでもお願いしたいところだけど、さすがにそういう訳にはいかないからな…。俺も無理だし…。いつになるかわからないけど、認めてもらえて、有給取れたら旅行行こうぜ?俺と麗、2人でさ…。『麗と2人で旅行に行く権利』が誕生日プレゼント。良いだろ?」

「権利って…プレゼントなんてしなくても春ちゃんはもうお持ちですけどね?」

「まぁそう言うなって。」


 私と春ちゃんは顔を見合わせて笑った。困った笑顔からくしゃくしゃの笑顔に戻った春ちゃんを見たら、私もなんだか嬉しくなった。

 私と春ちゃんはなんだか鏡みたいだ。

 私が笑えば春ちゃんが笑う。春ちゃんが笑えば私が笑う。

 一緒にいるときはなるべく笑っていよう、そう思った。


「来週、何が食べたい?」

「うーん、なんだろうな?簡単なものでいいよ。準備も大変だろ?麗が無理なく作れるもの。」

「えー?なにそれ?」

「だからさ、当日の朝買い物に行って、材料用意して作れるもの。仕事終わってから買い物に行くとか危ないからやめろよ?」

「大丈夫だって…。」

「麗、春は変出者が多いんだからな?とにかく俺の為に夜中で歩くとか嫌だから。何かあったら困るし。」

「もしかして心配してくれてるの?」

「当たり前だろ?麗は俺にとってすげぇ大事な存在なんだからな。それ自覚しとけよ。」


 春ちゃんが私の心配をしてくれているのがすごく嬉しい。それ以上に、そんな直球で言われるとものすごく恥ずかしい。恥ずかしくてまともに春ちゃんの顔が見られない。と、言いつつも見てみると、春ちゃんも耳まで真っ赤に染めて私から目を逸らしていた。

 やっぱり鏡みたいだ、改めてそう思った。


 そうこうしているうちに、注文したパンケーキが運ばれてきた。

 薄めに焼かれ、5枚重なったパンケーキの上にはいちごミルクのアイスクリームと苺のソルベと乳脂肪100%の生クリーム、苺もたっぷり添えられていて、さらに別添えのフレッシュ苺のソースをかけて…という季節限定の苺尽くしのパンケーキ。それに、ミックスベリーのフレーバーティー。

 私も春ちゃんもメニューを見るなり即決だった。


「すっごく美味しそう…メニューの写真より美味しそうってなかなかないよね?」

「大抵は出てきてがっかりだもんな。」


 まずはそのままで一口。ふわふわもっちり系のパンケーキ。生地自体は甘さ控えめであっさり。

 次はアイスクリームと一緒に。練乳苺みたいにまろやかで美味しいアイスクリーム。ソルベを添えたら程よい酸味で引き締まる。美味しい。

 それから、生クリームと苺でショートケーキ風。やっぱり生クリームはこうでなくっちゃ。ミルキーで美味しい…春ちゃんも同じ風に食べてる。相変わらず美味しそうだな…。ショートケーキ好きなのかな?来週はお誕生日ケーキも作っちゃおうかな?もちろん苺のショートケーキ。

 最後に、別添えのフレッシュ苺のソースをかける。本当に苺をつぶしただけの、火を通していないソースはものすごく苺の香りが強くて、華やかさがUPする。

 気付くと私も春ちゃんも無言で食べていた。

 私と春ちゃんって結構似た者同士なのかも。なんだかおかしくなってきて、思わず笑ってしまった。


「急に笑い出してどうしたんだよ?」

「内緒。」

「なんだよ、それ?」


 春ちゃんも笑い出した。でも、急に真面目な顔になって話し始めた。


「今日麗が思い出したのってさ、博之の事だろ?」

「……うん。でも正確に言えば博之本人って言うよりも博之に関わる…ことかな。」

「そうか。俺の事なら気にしなくていいからさ、辛かったら言えよ?博之の事…あいつに関わる事思い出しても怒ったりしないから。言ってもらえなくて辛そうな顔されてる方が不安だし。そもそもさ…高校の時からだろ?あいつの事好きだった事だって…。」

「…なんで知ってるの?」

「そりゃさ、俺は麗の事が好きでずっと見てたから…気付くよ。それに博之と麗が付き合っていた時間、9年って長すぎるよ。義務教育と同じだろ?それをたった1年で忘れるって方が無理なんだし。俺と麗は再会してまだ4ヶ月ちょっと、付き合いだしてまだ2か月なんだぜ?そう簡単にあいつを忘れられるなんて思ってねぇよ。っつうか俺が思い出させてしまう事だってあるだろうし。少しずつでいいんだよ、無理に忘れなくたっていいんだよ。麗が俺のこと好きだっていうのは俺、ちゃんと知っているから。それだけで十分だから。だから一人で抱えるな。思い出して苦しかったら言ってくれ。俺に何ができるわけでもないけどさ…ただ黙って苦しそうな顔見ているのは嫌なんだよ。」


 涙が一筋零れ落ちると、私の気持ちはすごく軽くなっていた。


「ほら、泣くなって。」


 涙を拭いたら、自然と笑顔になれた。


「ありがとう。今日はごめんなさい。」

「分かってくれたらいいからさ。今度からちゃんと言えよ?」


 私は笑顔で頷いた。


「春ちゃんは何でもお見通しだね?」

「俺はちゃんと麗の事見ているからな!当たり前だろ?」


 春ちゃんのお蔭で、1週間、また元気に過ごせそうだ。

2014年も残すところあと1日となりました。

お読みくださりありがとうございます。

来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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