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16. 母怒る

「春ちゃん…先週あの時間に帰って正解だったよ。昨日母に電話したんだけど…お父さん、11時過ぎになって酔っ払って代行で帰ってきたんだって…。」

「…そっか。ちょっと気になってたからそれ聞いて安心した…けど複雑。今日も望みが薄いな…まぁ、ドライブデートって事で楽しむか。」

「春ちゃんのそういうポジティブなとこ大好きだよ?」

「…だから運転中はやめてくれって何度言えばわかるんだ?」

「だから免疫付けようって何度言ったらわかるのかな?」

「そんな事言うならサービスエリアで車降りても手繋がないからな…。」

「それは困る!…ゴメンナサイ。」


 3回目のアタック。

 先々週はまともに話を聞いてもらえないまま父に逃げられ、先週は顔をあわせる事すら出来なかった。

 そんな訳で、ドライブデートのついでに両親のところに顔を出す、そんな気持ちで過ごす事にした。せっかく一緒にいるんだから楽しまなくちゃ損だしね。


 春ちゃんが運転している時、大好き!って言ったり、運転前の車内で甘えたりする事は相変わらず禁止されている。今も、顔を火照らせて…でも口元が緩んでいる春ちゃん。嬉しいくせに!なんて思うけど、そういう免疫を付けて欲しいけれど、まだしばらくそうはいかないらしい。手を繋がないなんて言われたらおとなしく引き下がるしかない…。


 片道1時間半という距離なので、サービスエリアでの休憩は本来ならば不要だろう。実際、私が1人で行く時や、姉家族と行く時は寄ることはほとんど無い。でも、春ちゃんと一緒の時は必ず、行きも帰りも寄っている。

 軽く食事をしたり、コーヒーショップに行ったり、ジェラート食べたり、ちょっとした緑道を散歩したり。

 やっぱり今日もジェラートをはんぶんこして、サンドイッチを食べ、ラテを飲んで、ちょっと散歩してからもう1度ジェラートをはんぶんこして車に戻る。


「ジェラート結局2回食べるならさ、食後に1つずつ食べたら良いと思うけど…?」

「そんな堅いこと言わないでよ?だって1つずつ食べたら私が春ちゃんに食べさせられないでしょ?」

「たまには俺も麗に食べさせてみたいんだけど…。」


 やだ、照れながらそんなこと言う春ちゃんが可愛い!って、完全に馬鹿ップルじゃないですか!?恥ずかしいよぉ…。


「麗…どうした?」

「恥ずかしい…。」

「照れてる?麗は照れる姿も可愛いな…。」

「………キスしていい?」

「………ダメ。俺がする。」


 春ちゃんは絶対私からキスをさせてくれない。あの時、1度きりだ。予告をしろと言われたから予告をしているのに、聞くと必ずダメだと言う。なんかズルい。

 優しくキスしてもらって出発。お互い赤い顔のまま、車内には高校時代に聞いていた音楽が流れるだけで会話は無い。


 その沈黙を破ったのは春ちゃんだった。


「話聞いてもらえなくてもさ…会えるといいな。」

「そうだね。でもやっぱり聞いてもらいたいけどね。」

「だな。」


 そして両親の家に到着した。





「こんにちは…。今日もお邪魔してます…。改めて自己紹介を…。」

「名前など1度聞けば覚えられる。麗の高校の同級生で真面目に付き合っていると言うんだろう?…まぁ俺は貴様も付き合いも認めてなどいないがな。」

「お父さん!そんな酷い事言わないでよ!話くらい聞いてくれてもいいじゃない…。」

「麗…落ち着け…。」

「俺は貴様に娘を呼び捨てにする事など許していないぞ?」

「申し訳ありません…。」

「あなた、いい加減にして下さい。」


 父は家にいて、顔を合わせることは出来たものの、春ちゃんに対しては酷い対応だった。


「こんにちはー、八重山さーん。」

「迎えが来たから俺は出かける。帰りは明日の昼以降だ。だから帰れ。」

「あなた、聞いてません。そういう事は前以て仰って下さい!」


 珍しく母まで声を荒げて怒っていた。

 父は満足そうに笑うと「露天風呂と料理が楽しみだ…。」と迎えに来た父の友人と楽しそうに話しながら出かけて行った。どうやら温泉旅行のようだ。あまりに予想外の展開に、私も春ちゃんも呆気にとられて何も言えなかった…。




「こんにちはー、かほりさんお邪魔するわねー。」


 父が出かけてすぐ、まだ私と春ちゃん、そして母まで呆然としているところに、父の従姉妹の千代子おばさんがやってきて、居間に入ってきた。


「あら、麗ちゃん、ちょうど良かったわ…。ちょっとこれ見て、今日は若い人なの、離婚歴はあるけど子供はいないわ。なかなか素敵なのよ。…あら?こちらは?」

「おばさん…お久しぶりです。こちらは、今私が真剣にお付き合いしている浅井さんです。……なので、せっかくお越しいただいたのに申し訳ありませんが、そういったお話は私には不要です…。」

「初めまして…浅井と申します…。」

「あら、小春ちゃんが言っていたのは本当だったのね…てっきりハッタリだとばかり…。いけない、用事があったんだわ、じゃあ失礼するわ…ごめんなさいね。」


 案の定、お見合い写真を持ってやってきた千代子おばさんだったが、春ちゃん本人を前にして私に縁談を勧めるのは諦めたらしく、そそくさと逃げるように帰っていった。


「麗…今のってまさか…お見合いの話?」

「…うん。でも気にしないで。父の言ってたお見合いとは別件。今のは父の従姉妹の千代子おばさん。縁談をまとめるのが趣味なだけ。父も母も姉も断ってくれてたのに諦めてなかったみたい。でも春ちゃん見て諦めてくれたみたいだから助かりマシタ。」

「本当に浅井くんがいてくれて助かったわ…千代子さん、何度断っても次から次へとお見合い写真を持って来るのよ?しかもちょっと男性の趣味も独特というか…困っていたのよね。ありがとう。」


 母の話を聞いて、春ちゃんは大きな溜息を吐いた。


「本当に焦りました…麗さんのお父さんとは関係無いお見合いで良かった…。」

「私の前では別に呼び捨てで構わなくてよ?…せっかくだから、お茶でも飲んでから帰ったら?お夕飯もどう?私1人じゃ寂しいもの。」

「春ちゃん、そうしても良いかな?」

「麗がそうしたいなら…お言葉に甘えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「もちろんよ。駄目なら誘わないわ。それに普通に話して頂戴。畏まらないでね。」




「本当に浅井くんは美味しそうに食べてくれるわね〜。作り甲斐があるわ。…あの人にも見習ってもらいたいわ…全く、泊まりで温泉なんて聞いてないわよ。」


 母はまだ父に対して怒っていた。春ちゃんへの対応に対してもだが、それ以上に友人を巻き込んでまで温泉、しかも宿泊までするのに出かけるまで何も言わなかった事に対してすっかりおかんむりだった。


「浅井くん、本当にごめんなさいね。あの人頑固だから…と言っても浅井くんには関係無いのにね…怒る相手を間違っているのよ…そんなに許せないなら本人に言えばいいのに…あら、何言ってるのかしら…。」


 母はすっかり春ちゃんが気に入り、気を許しているようだった。ついうっかり本音が出てしまう程に…うっかり本音を家族以外に漏らすなんて母にしては珍しい、むしろあり得ない事だ。


「俺は平気なんで、気にしないで下さい。今日も最悪会えない覚悟で来ていたんで…それに…。」

「お母さん、春ちゃんとは博之の話も普通にしてるから大丈夫だよ。」

「そんな感じなんで…。」

「あら、そうなの?随分心が広いのね…益々気に入ったわ…。もういっそあの人に浅井くんの爪の垢を煎じて飲ませたい位よ…。」


 母の発言に思わず笑ってしまった。私が、本当にそうすれば?と提案したら、母まで爪の垢を春ちゃんに頂戴なんて言ったものだから、春ちゃんを困らせてしまった。






「麗、来週は俺1人で行くよ。今まで3回日曜に行って失敗してるじゃん?土曜に行けばさ、不意打ちっていうか…何か変わるんじゃないかって思うんだよ。根拠はないけど…少なくとも、今日みたいに俺たちが来るの分かって出かける予定は入れられないだろう?」

「1人で大丈夫…?」

「心配するなって。土曜に行けば、麗も日曜は久しぶりにゆっくり休めるだろう?」

「ありがとう…。じゃあお母さんにそう連絡しとくね。」


 春ちゃんの提案で、翌週は土曜に彼だけで父に会いに行く事になった。父に酷い事言われないか心配だったけれど、母も春ちゃんの事をあんなに気に入ってくれているし…春ちゃんを信じて待つ事にした。

 春ちゃんの言う通り、何かが変わる事を期待して…。

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