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15. 父逃げる

 高速を降りた時点で母には連絡をしておいた。

 父は自室で本を読んでいるらしい。


 到着して、父に気付かれる前に家の中に入ることに成功した。春ちゃんはやはり緊張しているようだった。

 母にお茶を出してもらい飲んでいるとき、父は私たちのいる居間にやってきた。


「麗…何しに来た…。」

「あの、初めまして。浅井 春太郎と申します。本日はご連絡を差し上げず、突然お伺いして申し訳ございません…。麗さんとは真面目にお付き合いをさせていただいております…ぜひお話を聞いていただきたく参りました…お時間頂戴できませんでしょうか…。」

「…忙しい。」

「お父さん、お願い。少しでいいから話を聞いて…。」

「…俺は話などない。」

「あなた、わざわざここまで足を運んでくださったのよ?」

「…それはそっちの都合だろう?俺は聞く気などない。話もない。用事を思い出したから出かける。」

「お父さん、出掛ける前に少しでいいの、お願いします。」

「…さっさと帰れ。」

「あなた…。」

「…俺は出かける。話など聞く気はないからさっさと帰れ。」


 父は私とも、春ちゃんとも目を合わさず、出掛けてしまった。


「せっかくここまで来たんだもの。ゆっくりしていきなさい。お夕飯も食べていったら?」

「お母さん、ありがとう。春ちゃん、それでいいかな?」

「もちろんだよ。…スミマセン、お世話になります。」


 私と春ちゃんと母でのんびりお茶を飲みながら、母が焼いてくれたケーキを食べ、色々な話をした。


「そういえば、この前姉に連れてもらってきたとき、卒アル見たんだよ。お母さん、どこにある?また見てもいい?」

「私が持ってくるから麗は座っていなさい。」


 私が立ち上がると、母は「いいから」、と言って卒アルと高校時代の写真を持ってきてくれた。


「春ちゃんってあんまり変わっていないと思ったけど、本人を目の前にすると結構違うもんだね。」

「そりゃ12年前だぜ?変わってなくちゃ困るだろ…?」

「でも浅井くんは実年齢よりも随分若く見られるんじゃない?」

「残念ながら仰る通りで…今、2年目の奴と一緒に仕事することが多いんですが、そいつがやたら老け顔で…必ずと言っていいほどそいつが上司、俺が2年目に間違えられてます。…麗もどちらかと言えば若く見られるだろ?」

「麗もそうよね?…小春から聞いたわよ?ものすごく若い男の子に告白されて困ってたって…。」

「麗、そんな話聞いてないぜ?」


 春ちゃんと付き合う前、今の仕事を初めて1か月半の頃、厨房で働くコックに告白された。彼は8歳も年下で、考え方もずいぶん若くて押しも強くて…。年下はちょっと…とやんわりお断りしてもお断りしてもなかなかあきらめてもらえず、博之との婚約破棄の話をして恋愛をする気が無い、8歳も年下は無理だとはっきりお伝えしてようやく諦めてもらえた。てっきり私の年を知っていると思っていたら彼は私を24・25歳位だと思っていたらしい。そんなに幼く見えるのかとさすがに凹んだ…。

 そんな話をすると春ちゃんは笑って教えてくれた。


「俺さ、なるべく襟のある服着るようにしてるんだよ。…なぜかっていうとさ…Tシャツだとあり得ない程幼く見られるから…1度、居酒屋で入店断られてさ…免許証見せたら入れてもらえたけど…さすがに30にもなってそんなことがあるとは思わなかった…しかも日本でだぜ?海外なら日本人は若く見られるし仕方ないって思えるけどさぁ…その時はマジで凹んだ…。」


 思わず母と笑ってしまった。


「私も服装には気を遣ってる…それと私の場合髪の色。明るいとダメだね。…だから暗めにしたのに…25って…。」

「いいじゃない、似た者同士って事で。あなた達、ちゃんと同い年に見えるわよ?それに今は年相応に見えるから安心しなさい。」


 母に笑いながらそう言われた私と春ちゃんは顔を見合わせて笑った。

 母が食事の準備をすると言うので、手伝おうとした私に母は笑顔で言った。


「お父さんがいつ帰ってくるかわからないのに浅井くんを1人にしたら可哀そうよ?一緒にいてあげなさい。」

「それもそうだね…お母さん、ありがと。」




 私と春ちゃんは2人で卒アルや高校の時に撮った写真を見ながら思い出話に花を咲かせた。


「私と春ちゃんが話すようになったきっかけってさ、1年生のときの体育祭だよね?覚えてる?」

「もちろん、『男子テニス部の人』って借り人競争のお題を麗が引いてさ…啓が俺に声かけてくれて…。」

「そうそう、運動苦手な私が1着になるなんてほぼ奇跡だからさ…すごく嬉しかった。」

「1年も2年もクラス違ったけど…結構仲良かったよな?」

「うん、岡崎くんとか山内くんと仲良かったもんね、春ちゃん。私も貴子つながりで山内くんと仲よくしてたし、彼は3年間同じクラスだったんだよね…岡崎くんも1年は同じクラスだったし…岡崎くんと春ちゃん中学一緒だったんだよね?」

「そうそう。あいつも中学はテニス部だったんだぜ?高校では辞めちゃったけどな。」

「へぇ…そうだったんだ。春ちゃん、1年の時も2年の時も私のクラスにしょっちゅう来てたよね岡崎くんとか山内くん以外にも仲のいい人たくさんいたでしょ?それに廊下ですれ違ってもいろんな人としゃべってるからさ、すごく友達の多い人なんだなぁ…人気者なんだなぁ…って思ってた。」


 それに、春ちゃんは女の子にもモテてたでしょ?そう言おうとしたときだった。


「俺さ、3年のクラス発表の時、麗の名前見つけてすげぇ嬉しかったの覚えてる。啓も康介も一緒だったし。博之も…2年の時、一緒のクラスだったし、グループが一緒とかじゃなかったけど…っていうか俺もあいつも特定の奴といつも一緒にいるってわけじゃなかったけどな。ずっと世話になってたからほっとしたって言うかさ…。3年3組かぁ…楽しいクラスになるんだろうなって思ってたら実際すげぇ楽しかった。麗は超可愛かったし。…今も可愛いけど…今は可愛いっていうよりも…『綺麗』だな…すげぇ美人だって思う。」

「もう…やめてよ…恥ずかしいし…。」

「俺がそう思うんだからいいじゃん?それとさ、まさか12年経っても正月の時みたいに集まって、こないだみたいに康介や啓と中村と一緒に飯食って……それに麗とこうして一緒にいれるなんて思わなかったよ。」

「なんか不思議な感じだよね。この頃は12年後、私と春ちゃんが一緒にいて結婚考えてるなんてちっとも思わなかったよね。」


 手元にあるのは私と春ちゃんが2人でカニを持ってはしゃぐ写真。


 母が「こんなのもあったわよ」と言って出してきてくれた、この前は見てない修学旅行で北海道に行った時の写真だ。修学旅行の写真は、やたらと私と春ちゃんのツーショットの写真が多かった。ツーショットじゃなくても、春ちゃんと私は隣同士で写っているものがほとんどだった。修学旅行の写真は、1年前、父も見つけていなかったらしく、博之の写った写真も結構残っていたけれど、私の隣にいるのは必ずと言っていいほど春ちゃんだった。私は春ちゃんと笑って、ふざけて、楽しそうに写真に写っていた。


「この頃から春ちゃんは私を笑顔にしてくれていたんだね。ありがとう。」


 そう言うと、春ちゃんは優しい笑顔で微笑んでくれた。






「お父さん…帰ってこないね…。」

「もう…信じられないわ。全くどこで何をやっているんだか…。」


 夕食の時間になっても父は帰って来なかった。仕方ないので、母と春ちゃんと3人で鍋を囲み、父の好物のすき焼きを食べ、片づけをした。8時を過ぎたというのに未だ父は帰ってこない。

 ここから帰るのに約1時間半。私を送ったりしたら春ちゃんが家に着くのは2時間後になってしまう。さすがに翌日が仕事なので、あまり遅くまでいる訳にもいかず、仕方ないので泣く泣く帰ることにした。




「残念だけど…予想通りだったね。」

「まぁ仕方ない。でも、楽しかったよ。懐かしい写真もたくさん見れたし。夕飯までご馳走になって申し訳なかったよな…。」

「いいんじゃない?お母さん楽しそうだったし。来週はさ、朝から行ってみようか?お母さんにお願いして車のカギ隠してもらってさ…出かけられないようにするの。そしたら、お父さん逃げられないし。」

「いいのかよ…そこまでして…。話聞いてもらえたらありがたいんだけどさ…。」

「いいんだよ、そのくらいしなきゃ聞いてもらえないし。…そのくらいじゃ聞いてもらえない可能性も否定できないけど…。」

「その辺は麗に任せる。よろしくな?」

「うん。それにしてもドライブって楽しいねぇ…大好きな春ちゃんと2人きりだし…。」

「麗さん…?運転中にはそういう事言わないお約束では…?事故りますよ?」

「事故るのは困ります…というわけで休憩しよ?」

「仕方ないな…次のサービスエリアでいいか?」


 サービスエリアで少し休憩して家まで送ってもらうと10時をまわっていた。

 名残惜しいけれど、引き留めてはお互い翌日に響くので笑顔で手を振って別れた。





 ***


 翌週、両親の家に行くと、母の車が無かった。


「ごめんなさいね…お父さんの車の鍵と普段使ってる私の車の鍵を隠しておいたんだけど…私の車のスペアキーをお父さんがしまっていたのを忘れていて…さっきまでお父さんいたんだけど…私が麗から連絡もらったのに気付いたみたいで…いつの間にかいなくなっちゃったのよ…。」


 夕方まで私達は粘ったものの、父が帰る気配がなかったのでこの日は早めに帰ることにした。


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