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13. おうじさま?

『遅くなってごめんね。今向かってます。あと15分位で着くかな?申し訳ないから先に始めていてね。』


 遅れる旨を舞ちゃんにメールしておいたが、春ちゃんと一緒だということを伝えるのをすっかり忘れてしまっていた。




「はぁ!?どういうこと?2人揃って遅れてきて…その恰好…デートでもしてたの!?」


 メールを送信したちょうど15分後、舞ちゃんに代わって山内家の玄関を開けてくれた貴子の大声に、こちらが驚いてしまった。

 皆が集まるリビングに入ると、私と春ちゃんは皆に囲まれてしまい、またしても春ちゃんは尋問を受ける羽目になってしまった。主に春ちゃんにより、お付き合いを始めた事やその経緯をみんな報告すると、案の定驚かれた。驚かせちゃおうかな?とかチラリと思ってたのが現実になった訳だけど、聞かされた方は驚くどころでは無く、『衝撃』だったらしい。




「マジかぁ…人生何が起こるかわからないもんだな…。」

「空気を凍りつかせた発言がきっかけとか笑えるな。…麗、俺たちにも感謝しろよ?春太郎に麗の番号とか…事実とか色々教えたの俺らだからな?」

「前ランチした時の、カッコ良くて優しくて笑顔が素敵な気遣い上手な人がまさか浅井くんだったとは…高校時代のイメージとはとても結びつかないよ…。まぁ100歩譲って、カッコ良いと優しいと笑顔が素敵っていうのは良しとしても…気遣い上手は…ナイナイ。どちらかというとその逆でデリカシーに欠けるイメージだからね…。」

「麗…マジでそんな事言ってたのかよ…どんなフィルタ通して春太郎見てんだよ?…まぁ誇張しているとは言え…あながち間違っちゃいないのが悔しいけどさぁ…。おい、春太郎…お前、麗のこと絶対大事にしろよ…。」

「まぁあれだな、こいつはすぐ顔に出るし不器用だから浮気は出来ないだろうな…その心配が無いのは良いんじゃねぇの?」

「それは言えてる。浅井くん嘘つけないもんね〜。嘘ついてもバレバレだし。思ったことすぐ口に出すし。」

「それにしても麗ちゃん幸せそうだよね。ずっとニコニコしてるし。」

「麗ちゃんってドライな恋愛するタイプだとばっかり思ってた。イチャイチャしてるイメージないんだけどさ…今日はちょっとイメージ変わったなぁ…。」

「「「「確かに…」」」」


 鍋を囲み、たこ焼きを焼きながらそんな話をした。山内くんに「誇張」って言われたのがなんか引っかかるけど…春ちゃんがカッコ良いのも優しいのも気遣い上手なのも事実です!と言うタイミングを逃してしまったので、心の中で密かに叫んでみたりして…。


 ゆかりちゃんが言って、皆が同意した様に、私と博之はドライな恋愛をしていた。

 付き合って長かったというのもあったけれど、博之はあんまりベタベタするのを好まなかったから…。だから人前はもちろん、2人の時もなるべくくっついて甘える事は避けていた。

 一緒に暮らして1人の時間の必要性を知った事も大きい。特に彼にとって、それはすごく重要なものだった。それに私は博之を信頼していたから、束縛なんてするだけ無駄だって思っていたので、帰りが遅くても、外泊しても仕事だと言われたらそれを完全に信じて疑いもしなかった。

 離れて暮らしている時も、電話やメールは必要最低限。毎週末会えるからそれで良かったし、平日かけても電話に出なかったり、仕事の邪魔になるくらいならかけない方がマシだって思っていた。

 その結果、決して良いとは言えない別れ方をしてしまったけれど…今となっては後悔など無い。


 春ちゃんは束縛しない。メールとか電話は負担にならない程度くれる。私も束縛なんて自分がされたら嫌だし、そんなものは必要ないと今も思っているけれど、メールや電話を毎日出来るのは嬉しいし、私が着信に気付かないで出なかったり、返信するのを忘れても別に良いよって笑って答えてくれるから助かっている。

 それに今は甘えたくて仕方がない。春ちゃんがそれを受け入れてくれる事も大きいけれど、春ちゃんのすぐ隣でその笑顔を見ていたい私の欲求も大きいのだ。

 だからと言って、今だってもちろんイチャついている訳じゃないし、人前では節度を持って仲良くしているつもりだ。なのになんでゆかりちゃんにそんな事言われちゃったんだろう?


 途中、結婚の事も聞かれたけれど、笑ってはぐらかす事しか出来なかった。




「うららちゃん、これよんでー?」

「あー、みどりちゃんずるい。あやもうららちゃんのおひざすわりたいのに!」

「じゃあ半分こ。2人で仲良く座ろうね?」


 みどりちゃんと彩ちゃんを膝に乗せ絵本を読む。3冊ほど読んだところで、みどりちゃんは立ち上がり、次の本を探しに私から離れた。未だ私の膝にいる彩ちゃんは、私の隣にいる春ちゃんの顔をじーっと見つめている。


「うららちゃん、ないしょのおはなし。」


 彩ちゃんの顔の前に耳を向けると、私の耳元で彩ちゃんは囁いた。


「このカッコいいおにいちゃんって、うららちゃんのおうじさま?」


 可愛い…可愛すぎる。「うららちゃんのおうじさま?」だって…!そういえばさっきから彩ちゃんが持ってくる絵本はプリンセスものばかりだ。

 彩ちゃんはいわゆるイケメン好き。そんな彩ちゃんに春ちゃんはイケメン認定されたらしい。

 私も、彩ちゃんに「ないしょのおはなし」をする。


「そうだよ。かっこいいでしょ?すごく優しいから、遊んで?ってお願いしたら喜んで遊んでくれるよ?きっとおひざにも座らせてくれるよ。」

「ほんと?」


 目をキラキラさせた彩ちゃんは、しばらくモジモジしていたけれど、それに気付いた春ちゃんが「くる?」と声をかけると嬉しそうに春ちゃんの膝に座って春ちゃんと遊び始めた。

 そこに戻ってきたみどりちゃんも加わって…みどりちゃんは私の膝と春ちゃんの膝を行ったり来たりしていたけれど、彩ちゃんは春ちゃんがすっかり気に入ったらしく、春ちゃんの膝の上から動かなかった。

 春ちゃんは彩ちゃんみどりちゃんと遊ぶのがすごく上手で、春ちゃんと2人がキャッキャ言いながら遊ぶのを見ていたら、なんだか不思議な気持ちになってしまった。


 春ちゃん、良いお父さんになりそうだな…。

 春ちゃんに似たら男の子も女の子も可愛いんだろうな…。

 この人の子どもを産みたい…そして幸せな家庭を…。


 ふとそんな事を考えてしまった。しかも、妙にリアルに想像できてしまう自分が怖かった。博之とは具体的に結婚の話が進んでいたのにもかかわらず、こんなリアルな想像などできなかったというのに…。




「麗、どうした?ほら、みどりちゃんがこれ作ってくれって言ってるぞ?」

「え!?ごめん…ちょっとぼーっとしちゃって…みどりちゃん、どれかな?……春ちゃん、ありがと。」


 何考えてるんだろう…私。

 みどりちゃんの声、全然聞こえてなかった…。「疲れてるのかもな、仕方ないよな。」なんて春ちゃんが言ってくれたけど、疲れてるのは私じゃなくて春ちゃんのはず…。今日は私はすみれの部屋でのんびりしていただけだし…。




「春太郎、子どもの扱い上手いな…彩が俺以外のおっさんの膝の上に普通に座るって珍しいよ…。」


 山内くんが春ちゃんに感心して言った。

 彩ちゃんは山内くん(パパ)以外の男の人の膝の上に座ることはほとんどないらしい。みどりちゃんのパパ岡崎くんはもちろん、山内くんや舞ちゃんのお父さんや兄弟、すなわち彩ちゃんのおじいちゃんやおじさん達の膝にさえ座らないのだと言う。


「春ちゃんはおっさんじゃなくてカッコいいお兄さんなんだよね?彩ちゃん?」

「うん!おにいちゃんカッコいい!」

「彩ちゃん、みどりのパパもカッコいいおにいちゃんだよね?彩ちゃんのパパはどうかな?」

「ううん、みどりちゃんのパパはおじさん。あやのパパもおにいちゃんじゃないよ?」

「マジか…。」

「あり得ねぇ…なんでこいつだけおにいちゃんなんだよ…。」


 私が彩ちゃんに確認すると、春ちゃんは「おっさん」ではなく「カッコいいお兄さん」だと言うので、岡崎くんが自分と山内くんはどうだ?と質問したところ、見事に否定され、岡崎くんと山内くんが本気で凹んでいた。

 その姿に、彩ちゃんみどりちゃんを含む女子6人で爆笑し、春ちゃんだけは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていた。




 デザートタイムになり、カップに入ったプリンを見た彩ちゃんとみどりちゃんのテンションはMAX。


「これね、このお兄ちゃんが2人の為に選んで買ってくれたんだよ?」


 私のこの一言で、春ちゃんの株が更に上がったのは言うまでもない。父親2人からはやたら絡まれて春ちゃんが困っていたけど、そんな困った姿まで愛おしいと思ってしまった私は意地悪だろうか?


「麗ちゃん、本当に浅井くんが好きなんだね〜。」

「…まぁね?」

「こんな事なら高校時代から付き合っていたら良かったんじゃない?」

「いやいや、あの頃の浅井くんと麗じゃこうは上手くいってないって。今だから良いんだよ、きっと。」

「そうそう、それに当時から付き合ってたら俺らの結婚式、麗が担当して無かったかもしれないしな?」

「確かにそうだよな…今が良いならそれで良しとしようぜ。」


 苺のタルトを食べながらの会話。春ちゃんは相変わらず照れ笑いを浮かべながら彩ちゃんみどりちゃんと遊んでいた。






 片付けのお手伝いをして、今度はみんなでお花見に行こうね…なんて約束をして解散した帰り道。春ちゃんは遠回りになってしまうのに私を家まで送ってくれた。


 スマホを確認すると、片付けの途中の頃、姉からメールがあったようだった。


『今日は長い時間春太郎くんを拘束してごめんね。約束間に合ったかな?

 こちらの質問にもすごく真剣に答えてくれたよ。一生懸命なのが伝わってきました。嫌なことを言っても、ちゃんと聞いてくれたし、彼なりに色々考えてるみたいだね。

 巧が、彼はきっと嘘がつけないタイプだって言ってた。私とお母さんも同感。ちょっとからかってみたら分かりやすい反応で面白かったよ?

 とにかく、近いうち、出来たら次の休みにでも2人でお父さんのところに連れて行って強引に紹介しなさいってお母さんが言ってる。

 間違いなく、巧と同じ事しなくちゃいけないだろうけど…春太郎くんには頑張ってもらって下さい。こちらでフォロー出来ることはフォローするから、いつでも声かけて。健闘を祈る!』


 春ちゃんの真剣さが伝わって何より。今後、春ちゃんには大きな負担をかけてしまう事になるのは避けられないけれど、一歩前進出来た事が嬉しい。




「春ちゃんがカッコいいって言ったの、嘘でも冗談でもないからね?すみれも、言ってたでしょ?私の事面食いだって。あれは春ちゃんがカッコいいって褒めてたんだよ?あの子素直じゃないから…。それから、姉と母からメールがあったの。春ちゃんに好感持てたって。本当に裏表なさそうだって。それで、父のところに…一度私が連れて強引に会いに行けって。」

「なんか麗にカッコいいとか言われるの恥ずかしいな…そういうこと言われることあんまりないからさ…。麗のお父さんのところ、何度でも通うよ。俺の事知ってもらわなくちゃいけないんだろう?とりあえず初回は麗と一緒に行って…その後は、なるべく俺一人で頑張ってみる。今日お母さんや小春さん、巧さんと話してその方が良い気がした。」




 手をつないで、翌週の事を話しながら歩く夜道。

 暗くなってから春ちゃんとこうして歩くのは初めてだった。月がとても綺麗で、ほころび始めた梅の花を照らしていた。

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