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プロローグ

 八重山 麗(やえやま うらら)。29歳。

 あと数ヶ月で30歳になる。

 専門学校卒業してから9年間、ウェディングプランナーとして働いてきたが昨年の春に退職した。

 勤め先は2回ほど変わっているが、プランナーとして多くのカップルの結婚式に携わってきた。


 私には9年間付き合った彼氏、冬田 博之(ふゆた ひろゆき)がいた。もともとは高校の同級生で、成人式での再会をきっかけに付き合い始めた。

 最後の1年間は彼の転勤で遠距離恋愛になってしまっていたけれど、その前の2年間は同棲していた。

 結婚式を半年後に控え、結納は済ませていたし、ドレスも、指輪も全て決まっていた。


 もうすぐ彼と一緒に暮らせる…。その時、私は幸せの絶頂にいた。

 彼と一緒に暮らすため、仕事を辞めて引越しの準備をしていた時だった。



「博之との結婚の話をなかった事にして欲しい…。」


 突然訪ねてきた彼の両親から突きつけられた残酷な現実。

 博之は浮気をしていたらしい。


 相手は、9年前、私と付き合う前に付き合っていた元彼女だった。

 そして、彼女は博之との子供を身籠っていた。





 大好きな博之。

 幸せに満ちた結婚生活。

 憧れの結婚式。

 悩みに悩んで選んだ指輪。

 オーダーメイドのドレス。

 夢。

 希望。


 仕事。


 住む家。




 たくさんのものを失ってしまったけれど、幸いな事に私には支えてくれる家族と、友人達がいた。

 両親に支えられて、日常生活を普通に送れるまでに回復した。

 結婚した姉のところで世話になりながら派遣のアルバイトを始め、再び自立するきっかけとなった。


 友人達は、失意の私を見かねて、色々なところへ連れ出してくれた。

 ちゃんと食事を取れていない事に気付いて、頻繁に食事に誘ってくれた。

 みんなのお陰で、私はまたなんとか笑えるようになっていった。


 そして、秋の終わり、仕事を見つけて私は一人暮らしを始めた。




 それから冬がやって来て、新しい年になった。


 年明けに、高校時代のクラスメイトと集まって飲む機会があった。

 そこに博之はいなかった。


「そう言えば、博之、子供産まれたらしいなぁ。」


 私と博之に結婚の話があった事を知らない浅井くんは呑気にそう言った。


 この席にいる大半が知っていたので、その場の空気が一気に凍りついた。

 それにすら彼は気付いていない。


 高校時代から、天真爛漫すぎて空気が読めない、結構いい奴なんだけど残念な男、浅井 春太郎(あさい しゅんたろう)


「博之の同僚がたまたま知り合いでさ、そいつから聞いたんだけど、長いこと付き合って、結納まで済ませた彼女がいたのに、浮気相手だった今の奥さんの妊娠で婚約破棄したらしいぜ?」


 皆の顔色がどんどん青くなっていくが彼は気付かない。


「なんかさぁ、その別れた彼女と挙げる予定だった式場で、挙げる予定だった日に結婚式挙げるとか、奥さんも良く耐えられるよな。もっと酷いのはさ…これ、奥さんも知らないらしいんだけど…」


 彼は少し声のトーンを落とした。


「婚約指輪も、結婚指輪も未使用だけど使い回しなんだって。偶然にも、サイズもイニシャルも一緒だったから…別に使ってないんだから合理的だろ?ってその同僚に博之が言ってたらしいぜ?結構最低だよなー。」


 彼の笑い声だけが響く。


「奥さんの名前、『海夏(うみか)』さんって言うらしいんだけどさ、イニシャルがUなんてなかなかいないよな。俺の知り合いでも…八重山しかいねぇし。っていうか、冬田 海夏ってシャレみたいな名前だよな。名前の中に冬と夏って…マジないわ。」


 彼はこの場の重い空気に気付かず、私がその指輪を貰う予定だった事も知らない。



 私の中で何かが吹っ切れた。

 きっと、私と博之は結婚すべきじゃなかったんだ。

 おそらく、彼の合理主義な所についていけなくて、遅かれ早かれ結婚生活は破綻する事になるのだろうと思った。



「浅井くん、ありがとう。なんかすっきりしたよ。笑い飛ばして元気になった。皆、ごめんね。もう大丈夫だから。」

「よくわからないけど、まぁ、楽しく飲もうぜ!」


 私の心からの笑顔で場の空気も和み、その後は皆でワイワイ楽しく飲んだ。

 浅井くんが未だに気づかないのに、皆が呆れていた。





 翌日、私のスマホに知らない番号から着信があった。


『八重山ぁ、本当に悪かった。申し訳無さすぎて、なんて詫びたら良いのかわからねぇ。まさか、博之に婚約破棄されたのが八重山だったなんて知らなくてさぁ…本当にごめん!』


 恐る恐る出ると相手は浅井くんだった。


「良いの。むしろ浅井くんが教えてくれた事実で随分救われたから。目が覚めたんだよ、指輪使い回す男なんてあり得ないし。こうなって良かったんだから…。」


『本当、申し訳ない!お詫びと言ってはなんだけど、今度飯を奢らせてくれ!マジで、そうじゃ無いと俺の気がすまないから!』


 気にしないで欲しい、そう何度言っても食いついてくるので、1度はご馳走になる事にした。

短編「麗らかな春」の続編、「祝福される春」の麗視点を読んでみたい…と仰ってくださった皆様、誠にありがとうございます。

短編に纏めきれず、思い切って連載をすることにいたしました。

どうぞよろしくお願いいたします。

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